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第六節 束の間のひととき 1話目

「やったぁ! 遂に売り切ったぁ! これでおばあ様に報告ができます!」

「それは良かったですね。早速手紙を送って差し上げましょう」


 これにより正式にマルタはギルドお抱えの商人として、このレリアンで店を出すことが出来るようになるだろう。流石に多くのものをシロさんには買って貰ったので、店代くらいは俺が出すことを提案した。


「しかしよろしいのですか? あのなまくら刀のせいで前作から持ち越した資産の残りも、出店にかかる諸経費だけで殆どなくなりかねませんが」

『ま、日銭を稼ぐくらいは楽にこせるしなんとかなるでしょ』


 それに売り上げの一割を貰う契約もしているから、彼女の腕前ならそれなりの額が期待できるはず。

 そうして全員がほぼWin-Winで取引を終わることができたついでに、正式サービス前に殆どの準備を終えたことをシロさんと確認する。


「この街も万全までとはいわないものの、それなりに修復と発展を重ねることができましたし、更にドワーフ族とも引き続き契約を交わすことができました」

『こっちも偶然だが、グスタフさんと再開することができた』

「グスタフさんですか? それは嬉しいですね」


 普段の営業的な会話よりも若干声に喜びの感情が交ざっている。やはりシロさんも旧友とまた一緒に戦えることが嬉しいようだ。


「それでしたら、今後の戦術も大幅に広がりますね」

『追加で例のエルフ族とも合流できた。連中は今、俺の住む村近くの森に潜んでいる』

「こちら側もクロウさん伝いにプレイヤーを引き入れることができていますし、ギルドの体制はより盤石になりつつありますね」


 ギルドの人員も、徐々にだが目標の人数まで揃いつつある。それも剣士一辺倒ではなく様々な職業のプレイヤーやNPCが、この“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”にそろい踏みしようとしている。


『後はいつ反旗を翻すかだが……』

「それはまだ置いておきましょう。我々もまだ完全に全ての情報を握ったわけではありません」

『まあ、そうだろうな。三代目の側近とやらの素性も、完全に明かしたわけじゃない』


 怪しいと目星をつけているだけで、こちらが反旗を翻す大義名分はまだ打ち立てられていない。今のところはベヨシュタットの領地を広げるためにも、オーソドックスにこのゲームをこなしていくしかないだろう。


『このまま二代目刀王ティスタに表立って動いて貰いつつ、俺達は何とかして別ルートから剣王を追い落とすきっかけを捕まえる。グスタフさんも当然こっち側に参加して貰いたいが――』

「あの方には、どちらかといえば今のギルドを立場を利用して上手く纏めて欲しいところですね」


 流石にあの初老の屈強な男に逆らおうなんて奴はいないだろう。まあ、逆らったとしても真っ正面から叩き潰されるだろうが。


『それじゃ、俺はあの三人を引き取って村に一旦戻るとするよ。そろそろ家も建っているだろうし』

「ああ、例の子達ですね。間違っても手を出さないようにしてくださいよ」


 出すわけ無いだろ……常識的に考えて。

 村に戻る前にアジトで一時的に過ごしている三人を引き取り、馬車を借りてレリアン近くの村までその日は帰ることにした。



          ◆ ◆ ◆



「どうでしょう? 設計図通りに仕上げることができました」

『礼を言う。残りの礼金だ』

「ありがとうございます。また何かあれば、気軽に呼んでください」


 日も落ちようとしている夕暮れ時に、俺とラスト、そしてウタ、ユズハ、アリサの三人は新築の家の前でその全景をじっと眺めていた。


「おっきいねぇ! ウタちゃん! ユズハちゃん!」

「おおー……」

「本当に私達も一緒に住んで良いのですか?」

『その為に大きな家を建てたんだが……』

「主様の海よりも深く山よりも高い慈悲の心に感謝なさい」


 だから小さい子が相手なのに、同姓相手だとどうしてこうも攻撃的なんだよラストは。


『さあ、中に入ろうか』


 玄関のドアを開け、そのまた奥の扉を開くと広々としたリビングへと繋がる。暖房器具として暖炉も設置されており、室内も適温に保たれている。


『ここら辺は少し冬型の気候だから、丁度いい暖かさだな』

「すっげー! ふかふかだぜこのソファ!」

「カーペットもふわふわであったかーい……このまま寝てしまいそう……」

「こ、こら! 二人とも! パパが困ってるでしょ!」


 あ、パパ呼びまだ続いていたのね。俺としては普通にジョージさんとかその辺で呼んで貰った方が変に思われずに済むんだけど。

 更にリビングからキッチン、ダイニングと理想的な部屋のつくりとなっていて、流石はレア設計図の家だ。

 特に家が気に入ったのか、ユズハは目をキラキラと輝かせ、束ねた髪を活発に揺らしてドアを片っ端から開けて回っている。


「こっちの部屋は――大浴場ってやつじゃん! すっげー!!」


 俺がこの土地に建てることを決めた理由の一つに、小規模だが源泉があることが挙げられる。

 温泉に入るということは、これまたゲーム的なものだが通常の入浴とは違ってデバフ解除の役目も担っていて、更に普通よりも疲れがとれるという現実に即した役目を果たしている。追加で特筆するとするなら、やはり現実世界で味わうのと同様のリラックス効果もあるという点だろう。


「すっげー! もう風呂湧いているし! あたし一番に入りたい!」

『お、おい! そこで脱ぐな! 脱衣所があるだろうが!』


 男の俺がいるにも関わらずうずうずしすぎて目の前で脱ぎ出すユズハ。これこそ規制をかけないと一気にこのゲームアウトになるぞ!?


『とにかく、入るなら二人も呼んでくるからな!』

「ありがとー! いっひひー、一番風呂ゲットー!!」


 家主をよそに水柱を打ち立てるユズハに溜息をつくが、ひとまず気に入ったことの方が安心した。


『さて、後は夕飯も作って、今日はゆっくりと休むか』


 折角大浴場もあるわけだし、後で一人でゆっくりと入るとするか。

 ここまで楽しんでいただけたのであれば、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)

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