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第二節 肩慣らし 4話目

 特に活動報告などを書かないので、前書きにて御礼を。誤字脱字などのご指摘、感謝いたします。

『――さて、時刻もそろそろ昼を回ってきたな』


 日が出ている内から酒場が開いているとは、流石は港町とでもいうべきか? 海の男とも呼べる輩が飯にがっついている姿を見ると、彼らは彼らなりの仕事があってこの後も行動に移っていくのだろうなどと考えてしまう。

 そうしてこの世界の人工知能(AI)の質の相変わらず高いところをまざまざと見せつけられる。まるで一人ひとり中に人間が入っているかのようだ。


「主様、あーん……」


 そして今、俺の隣で俺にスプーンで給仕しようとしてくる女性こそが、その色々と勘違いしてしまう一番の原因を作っているのだが。


『自分で食べる』

「ですが、私は主様に食べて貰いたくて……」

『ここで変に目立つようなことをするな。周囲の注目を集めるな』


 只でさえお前の持つ美貌は周りの注目を集めるってのに……やはり色欲を司るだけはあるかもしれないが、それでも多くの人間に継ぎ接ぎの衣服を着た彼女を見せたくはない。


『飯を食ったらまずお前の衣服を揃える。その、なんだ……継ぎ接ぎだとみっともないからな』

「ですが、主様。これは主様に買っていただいた――」

『分かっている。確かにそれは俺が買い与えたものだ』


 しかも百年間、大切に着てくれていたものだ。それを簡単に買い換えると言ってしまったのは確かに薄情に思われても仕方がない。


『だがもうそれは過去のものだ。今の俺が、お前にちゃんとした服を着せてやりたいんだ』


 当然ながら本心から思っていることで、連れて歩く彼女をいつまでもみすぼらしい姿のままにしておきたくない。

 ……他の人間にぼろきれの隙間から見える素肌を見せたくないという理由もかなりの割合で含まれているが。


「……っ! 主様……!」


 そんな俺の想いが通じたのか、ラストも感極まって喜んでいるようで、両手をぎゅっと組んで身体を震わせている。


「私、こんなに幸せで良いのでしょうか……!」


 幸せでいいから、急いで飯を食ってくれ――なんて言ったら、付き合いの悪い男だって現実だと言われるんだろうな。


「ふぅ……」


 ひとまず腹ごしらえは済ませた。相変わらずだがこのゲームはきちんと食欲と睡眠欲を満たさないと、色々とバッドステータスがつくどころかリアルに気分が悪くなるんだよな。


「さて、と……」


 お腹を満たしてリラックスしたのか、独り言を漏らしてしまう。


『飯も食って一息つきたいところだが……リラックスしている場合じゃなさそうだ』


 フードを深くかぶり直して目線がバレないよう周囲を見回してみる。そうしていると仕事に向かう男達とは入れ替わるように、冒険者らしき人間が酒場へ次々と入ってくる。


「いやー、本当このゲーム凄い没入感だよな! 俺昨日から徹夜しちゃってるよ!」

「徹夜っていうより、単にログアウトできないから続けているだけでしょ」

「しかし困ったな……このままでは会社に遅れてしまう」

「気にすることはねえよおっさん! なんか十年前も同じことが起きてたんだろ? どうにかなるって!」


 随分とちゃらけた男と、その付き添いと思わしき女、そしてほんの一時間前の俺と同じ悩みを抱えている四十代の男の三人組が、俺達のいるテーブルのすぐ近くへと腰を下ろしている。

 見る限りだと男二人が剣士フェンサー、女が魔道士ソーサレスというパーティのようだ。


「あいつらは……」

『気にするな。目線も合わせる必要は無い』


 下手に目が合えば向こうから声をかけてくる可能性もある。それが協力的であれ敵対的であれ、こちら側の今後においてさして意味をなさないと予想するのは簡単だ。

 それに会話の内容からして彼らは間違いなく体験版組、引き継ぎは恐らくしていないだろう。ますますつるむ意味がない。


「装備のレアリティもたかが知れているしな」


 この世界の装備の希少性レアリティはプレイヤーのレベルと酷似している。つまりレアリティレベルが70だとすれば、それなりの希少性はあるということになる。

 ちなみに俺の着ているこのタイラントコートはレアリティレベル118。最高レベルよりも2レベルほど落ち、更に同レベル帯の防具より基本的なDEF(防御力)が劣るという代物だ。

 しかしそれを補って有り余るほどの全属性耐性、つまるところ物理から精神、更には各状態異常にまで高い耐性をこのコートは持っている。正に戦場をその身一つで渡り歩く暴君タイラントの名を冠するにふさわしい代物だといえよう。


『パッと見たところ4、5レベル程度の集団を相手にわざわざ何か呼びかける必要も無いだろう』


 そうして興味もなく俺とラストが食事をとっていると、酒場のウエイトレス相手に軽口を叩く男が注文とクエストの受付を済ませようとしている。


「どのクエストにすっかなー」

「言われてみれば確かに、壁に幾つも羊皮紙が打ち込まれているな」


 酒場の一角、現実でいうところの掲示板のような壁一面に、この近辺で受けられる“クエスト”と呼ばれる依頼文が張り出されている。


『後でのぞいてみるか、ラスト』

「そういたしましょうか」

「ねえ、まだ始まったばかりだしこのゴブリン討伐クエストとか丁度良いと思うんだけど?」

「いやいやいや、もう少し難しいのいけるだろ!」

「私としては、もう少し慎重に行った方が良いと思うが。リスクマネジメントを考えると私もゴブリンに一票だ」


 お調子者の男はもっと高難易度のクエストをご所望のようだが、俺も密かにゴブリンの方に一票を入れるぞ。死んだら元も子もないということを、忘れてはならないからな。

 ……と心の中では言いつつも、ラストを引き入れる為の時限クエストを受注した時はかなりのリスクも背負ったが。


「大丈夫だって! このベリアルロウ? ってやつを一体倒すクエスト程度なら――」

「ぶっ!?」

「大丈夫ですか!? 主様!」


 その時だけは三人組の注目を集めてしまったが、流石にそのレベルでベリアルロウは自殺行為としか思えない。

 唯のオオカミ男ではない。鋭くリーチの長い爪、一撃で腕を持っていくほどの噛む力を持つ顎。そしてより醜くなった顔。吼えればこちらにデバフがかかり、そして野生のオオカミを呼び寄せるどころか、他のべリアルロウまでも呼び寄せることがあるという大変厄介なモンスター、それがベリアルロウだ。


「何か喉に詰まらせましたか?」

「ゲホッ……っ、『いや、大丈夫だ』」


 まったく、序盤に置いておくクエストじゃないだろそんなもの。冗談もほどほどにしてくれ。


「……? 一体どうしたんだろうな」

「さあ? 知らないわ」


 とにかくこれ以上話を聞いていてもこっちの調子がおかしくなるだけだ。俺は食事を残したまま、代金である金貨をテーブルの上に置いて外に出て行くことにした。

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