第五節 駆け引きと取り引きと線引きと 2話目
予約投稿が狂っていたので初投稿です(意味不明)。
「へぇー、ここがレリアンですかー。なんか大きな戦いがあった後というからにはもう少し復興途中というか……いやいやいや! 崩れていた方が良いとかそういうのじゃ無いんですよ!」
分かっている。しかしここまで連れてきた俺も一週間程前とは大きく様相が変わっていることに言葉を失ってしまっていた。
『……近代レベルまで発展しているようだな』
一九〇〇年代のアメリカレベルまで発展してるんじゃないか? 道路は舗装されているし、家の材質も今とあまり遜色ないような、近代的な建築物に変わり果ててしまっているし。
このゲームでは、国ごとに大まかな文明レベルが決められている。例えばベヨシュタットだと中世ヨーロッパに少しだけゲーム的都合が合わさったくらいのレベルで、少なくとも目の前を走る自動車のような文明としてレベルの高いものは存在していない(ゲーム的都合で地位の高い者だと自動車、というものを聞いたことがあるという認知はあるようだが)。
そして前作では最高峰の文明レベルを持ち合わせていたマシンバラはというと、首都を移動要塞都市に仕立て上げるなどまさに他のプレイヤーの度肝を抜くことをしでかしていたということも記憶している。
『しかし、一体誰が……』
「“元”マシンバラ所属の方々が一気に文明レベルを上げてくれましたよ。とはいっても、本家のテクニカはこれ以上に発展させている可能性を考慮しなければならないですが」
偶然にも通りかかったのだろう、シロさんが俺と同じ建物の方に視線を合わせながら状況の説明をしてくれている。
それはさておき、クロウが引き抜いてきたメンツといっても恐らくは中堅レベル(Lv50~60)の連中だろう。それでもここまで発展できるということは、テクニカは今頃どこまで発展してしまっているのだろうか。
『“元”マシンバラ? 前作の輩は殆ど以前の国家に所属するのが今のところの定石だよな?』
「ええ。ですがどうやら我々のように元々の国の運営方針から今の国がズレていることに違和感を覚えた人間もいるようで、クロウがそういったプレイヤーにメッセージを送って数名ほど引き抜いて来てくれたようです」
この世界の裏で糸を引いている輩がいる――俺やシロさん、そしてクロウほど直接的では無いものの、前回とはまた違った悪意が潜んでいると感じ取っている奴らもいるようだ。
できればそういった奴等をもっと引き入れていきたいが、そう簡単には上手く行かないだろう。
『しかし大丈夫なんですか? 首都ベヨシュタットは蒸気機関車が主流でようやく中世を抜け出しそうな文明のレベルなのに、こっちだけ異様に発展していて』
「大丈夫ですよ。その辺も踏まえてあの刀王を領主に据えたのでしょう? 文句があったとしても、刀王のお膝元とあればそう簡単に口出しはできないという意味で」
『まあそうだが……』
しかしいくら隠れ蓑にするとしても、隠しようがないと思うが……。
『……ん? どうしたマルタ』
やけに静かだと思っていたが、行商人をしている割にはここまで発展した街を見たことは無かったのだろうか。
荷物を降ろして呆然と辺りを見回す辺り、俺と同じでこのベヨシュタットでは有り得ない光景だと言いたいのだろう。しかしそれ以上に――
「――あ、あの! ちょっとだけ見て回ってきてもいいですか!?」
『あ、ああ……別に俺はここまで送っていくとしか言っていなかったからな』
「やった! 色々見て回ろーっと!」
……この反応の仕方、まさに都会に始めてきた田舎の少女のよう。そして――
『――これは上手いこと使えるかもしれないな』
マルタを釘付けにする方法、ここに糸口があるかもしれないな。




