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第四節 旧知の窮地 3話目

「……はぁー」

「はいジョージさん、あーん」


 確かに今は昼時だしステータス的にも少々腹は減ってきた。しかしだからといってすぐ後ろで殺気立っているラストを無視したまま素直に口を開けることはできない。

 森の奥深く、グスタフさんの情報通り確かにそこにはエルフ族の村があった。狩猟に出かけているということで一人会えなかったのが残念だが、住民に一通り挨拶をして回った後、リーニャの家で昼食を文字通り食べさせて貰っている。


『食事まで用意して貰って悪いが、自分で食べられる』

「でもジョージさん、最初に出会った時はボロボロでこうして食べさせていたんですよ?」

『でも今は――』

「えぇーいいじゃないですか。こうしていると懐かしくないですか?」

「あーあー自慢ですかそうですか……だったら次は口移しで――」


 後ろで誰かさんがブツブツと呪詛と対抗の手立てを吐き続けているのが聞こえないのかこのエルフは。その長い耳は飾りか何か?


『しかし百年経っても相変わらず元気そうだな』

「……私は逆にびっくりしましたよ」


 その言葉を耳にして、一拍おいて俺は気がついた。


『……確かに、普通の人間の寿命なんてたかが知れているはずだからな』

「…………」


 前作のフィナーレ――その時に俺は、このエルフ族の村を訪れることができなかった。最後の戦い(グラウンド・ウォー)の前に約束したっきり、俺は僅かに残された時間をラストとの大切な時間として使い、そのままログアウトをしている。

 しかしこの世界における百年間、リーニャは俺がプレゼントした真っ白のマフラーを身につけたまま、ずっと待ってくれていたというのだ。


「……でも、こうしてまさか会えるなんて思っていなかったんです。約束を守ってくれたんだって、嬉しかったです」

『しかし百年も待たせてしまった。その埋め合わせもいずれしなくてはな……』

「ジョージさん……」

「はーい感動の再会ができたので良かったですね! 主様も顔を合わせられたのですから本題に入ってはどうでしょうか!」


 湿っぽい雰囲気だったがラストが間に入ったおかげ(?)で暗い空気は発散された。しかし代わりに別の危険な空気が漂い始めているのは気のせいか?


「ぐぬぬぬぬ……貴方も相変わらず負けず嫌いのようですね……!」

「貴様の方こそ、男とみればすぐに発情するような耳長ウサギの癖に」


 だから頼むから俺の頭上で火花を散らすのは止めてくれ飯もまともに喉を通らなくなってしまうから。

折角のスープとパンの味もしなくなってしまうから(そもそもVRゲームで味覚があることが不思議だというツッコミは散々やったからもういいか)。


「高々二百やそこらの若造のくせに私に楯突くつもりぃ?」

「残念だけど人間ヒューマンだって若い人の方が良いに決まってるもんねー! ね、ジョージさん!」


 残念ながら見た目はどっちも年を取っているようには見えないしどっちも美女だからなんとも言えないんだが……聞こえなかったことにしておこう。


「…………」

「ほら、私の方が主様と長い時間を過ごしてきたのだからいうまでもなくって事よ」

「ふーんだ! 初めて出会った時期は私達の方が先だから!」

「初めっ……! ふん、でも私は主様の本当の意味での初めてを――」

「あーあーもう言い争いは止めろ!! 静かに飯を食わせてくれ!!」


 ラストの爆弾発言を無理矢理中断させたところで、ようやくその場を一旦落ち着かせることができた。


『……それで、この百年で何か変わったことはあるか?』


 俺が話を打ち切ったのだから、俺が話を始めない限りその場は静まりかえったまま。そこで俺はここ最近の(とはいっても百年間の)ベヨシュタットの情勢について話を切り出した。


「はい。一時期はジョージさん達が法整備してくださったおかげで、私達のような亜人種も堂々と外を歩きまわることができていました。しかし三代目の剣王が就任されたという知らせとともに、悪い話もどんどん挙がってきたのです」

『やはりそうか……』


 三代目……あいつの就任が、この世界ゲームにおける全てのターニングポイントとなりそうな気がする。


「三代目は今までの王政を全てひっくり返すような政策ばかりをうちだし、私達のような亜人種デミ・ヒューマンも以前のような迫害を受け始めることになり、こうして再び森の奥に……国も一つだったのがまた六つに分かれてしまって、一体どうしたら……!」


 スプーンを握る手の震えが、リーニャの行き場のない怒りをよく表していた。その手の上に自分の手を重ね、俺はリーニャの目を真っ直ぐと見る。


『安心しろ。俺が来たからにはもうこれ以上酷いことはさせない。今の三代目も、王政も、全て転覆させる』

「えっ!? ……で、でもどうやって――」

『その為にも、お前達の力が必要だ』


 俺は説得のためにもリーニャの手を強く握る。その方が、俺の思いも伝わるはずだ。


『頼む。また俺に、力を貸してくれないか』

「……分かったよ。ジョージさんの頼みなら、断れないや」


 リーニャがそう言って照れくさそうに笑うと、俺も自然とフードの奥で笑みを浮かべてしまう。


「その代わり、ジョージさん」

「ん?」

「上手く行ったら、その……この村の跡継ぎとして――」

「はーいそこまで! 話がまとまったなら早速動きましょう主様!」

「ちょっと待てまだ飯食ってるのに――」


 とぼけたフリをするが、分かっている。嫉妬担当の筈じゃないのにそこまでするのかと、俺はラストに引きずられながら抗議の意をもって腕を組むしかなかった。

 最低限野太刀を振り回せるレベルにしか筋力を振っていない主人公の弊害が出てきています。色々(意味深)な危機がこれからも主人公を襲うことになりそうです。(´・ω・)


 ここまでまた楽しんでいただけたのであれば、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり主人公には手錠をかけるべき(刑罰的な意味で) [一言] やはり主人公には手錠をかけるべき(ラストさんに渡しておきますね♪)
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