第四節 旧知の窮地 2話目
スピット湿地帯すぐ近くにあるといわれる無名の森。またの名を、無明の森という。文字通りうっそうと茂った木々が日の光を遮り、真の意味で木漏れ日だけが足下を照らす。
『足下に気をつけろ。俺の後についてこい』
「全く、相変わらずこういった場所に移住を繰り返して……」
それも仕方ないだろう。今のベヨシュタットの体制はエルフ族のような亜人種を迫害する人間が多数を占めている。ガレリアにもそういった人間はいるのだろうが、俺達が影で治めている限り、表立ってそうはさせるつもりはない。
「しかし、どこにいる……?」
パキリと小枝を踏み折りながら前へと森の奥へと進んでいくが、一向に人の気配がしない。常時発動の特殊探知スキルは敵からの殺気しか感じ取れないから、こういった単純に隠れていたりといったものには全く引っかからないから困ったもんだ。
『ラストの探知スキルも万能じゃないしな……』
「申し訳ありません、主様」
ラストも手伝うように周りをキョロキョロと見ているが、周囲には生き物の気配はすれど亜人ではなさそうだ。
「グスタフさんもガセネタ掴まされたんじゃないのかー?」
あくまで遠目に見た目撃情報でしかないと言っていたところから首をかしげざるを得なかったが、これは本格的に期待しない方が良さそうだ。
『仕方ない、ラスト――』
その時だった。
俺の探知スキルが、突然の背後からの殺気(?)を感じ取ったのは。
「ッ!? なっ――」
「主様ぁ!!」
振り返った時には既に遅かった。というよりもこれを見計らってこいつは辺りを見回していたのか!?
「ようやく、ようやくまた二人っきりに!」
「ちょっと待てまだ捜索中だろうが! 何をするつもりだ!?」
毎回毎回このことになる度に思い出されるが、俺とラストでは筋力に差があり、こうして取っ組み合いになればあっという間に組み伏せられてしまう。
「ま、待て! もし人が来たらどうするつもりだ!?」
「そこはご安心を主様! このラストがしっかりと周囲隅々まで探知を行いましたから居るはずがございません! おまけに威嚇スキルも使いましたから邪魔者は存在し得ません!」
こいついつもより念入りにスキルを使っているなと思ったらこういうことだったのかよ!? 馬乗りになって青白いオーラを放たれたらそりゃ俺の探知スキルも発動するわな!
「主様、たまにはこうして開放感のある場所で交わり合うのも一興ではありませんか!?」
「っ、誰が青○なんてするかよ! それとキーボードも返せ!!」
自分でも分かるくらい顔を真っ赤にして腕をブンブンと振るう――筈もなく、両腕を組み伏せられて完全に肉食獣に食われる五秒前なんだが!!
「ぐっ……頼むから止めろ!」
「ウフフフフ、そうはいってもフードを外してコートを脱がせるころには熱烈に愛してくださるではありませんか」
それはタイラントコートについている状態異常耐性が無くなってお前の強烈な魅了に負けるからだよ! ていうか残心を発動したとしてもポーションも飲ませずにTPが尽きるまで魅了をかけ続けるから根負けするしかないんだよ!
「ご心配なく主様、今日は一回で我慢して差し上げますから――ッ!?」
振り向きざまに発動した魔法盾が、飛んできた矢をはたき落とす。
「……誰だ。そこに居るのは」
「……どうやら、いたみたいだな」
それまで潜んでいた者が発した殺気が、俺にもラストにも届いてしまった。そのせいで間際の攻防に負けて、今ここで姿を現わさざるを得なくなってしまっている。
「主様、名残惜しいですがここはお預けです」
『別に俺は名残惜しくはないがな』
「私達の時間を作るためにも、早急に仕留めましょう」
平静を取り戻すためにもわざとキーボードで発言するが見事スルー。全くこの戦術魔物は。
しかしまあラストのいうことも一理ある。相手も最初の一撃で決めるつもりが逆に場所がバレてしまい、その焦りが出てしまったのかこの場から離脱しようとしている。
「逃がすか!!」
縮地でもって一気に距離を詰め、俺はその矢を撃った犯人を上からのしかかるような形で取り押さえる。
「ぐはっ!」
『どこの差し金か、キッチリ吐いて貰おう……って、お前は――』
「くっ、殺すなら殺せ! ……って、その声!」
――俺が取り押さえた人物とは、汚れたマフラーで口元を隠し、薄い布に身を包む褐色のエルフ族の女。
『――まさか、リーニャか!?』
まさかの再会に俺は驚いてその場から飛び退き、そして改めてその場に立ち上がる一人のエルフの姿をつま先から見上げていく。
すると丁度顔のところで俺と同じく目を丸くするリーニャの顔が、百年前と変わりない可愛らしい目と視線が合ってしまう。
「ジョージさん!? ……会いたかったよぉおーっ!!」
――そして本日二度目、今度は前から飛びつかれるような形で俺は押し倒されることとなった。
現地妻が増える気がする……(´・ω・)。
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