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第二節 肩慣らし 3話目

10/3更新分の2が二〇〇〇文字ちょっとで物足りないので追加更新しておきます。(・ω・`)


 夜明けの朝霧とともに浮かび上がる港町。今は多くの人間が眠っているが、昼間にもなれば活気を取り戻すだろう。朝焼けの赤で染め上げられた石畳とレンガの町並みは、俺が知っていた頃よりも文明が進んでいることを知らしめているようにも思える。


『前までは木造がメインだった気がしなくもないが……俺も良く覚えてないな』

「元々ベヨシュタットは石造り程度の文明は持っていたはずですわ」

『そうだったか? 百年経っているって話だが、何が同じで何が変わったか中々気がつけないな』


 ひとまずここで腰を下ろして休むもよし。周りのプレイヤーに先駆けるためにも情報収集をするのもよし。消耗品も含めて装備を整えるのもよし。やるべきことはたくさんある。

 そんな風に色々と考えを巡らせていると、重い荷物を背負ったままの少女が、出会った時と同様に荷物をぶん回しながらこちらに向かって何度も何度もお辞儀をしてくる。


「ここまでの護衛、ほんっとうにありがとうございました! ……あの、本当に代金とか必要なかったですか?」

『要らないと言ったはずだ。まあ、強いて言うなら後で店の方を伺わせて貰うから場所だけ教えておいてくれ』

「はい! この町の中心にある市場でお店を開きますので、品物のサービスもしますので良かったら来てください!」


 リップサービスで言ったつもりだったが、そのように純粋で屈託のない笑顔を剥けられたら行かないわけにはいかなくなる。


『ああ。時間があったら顔を出させて貰う』

「ありがとうございます!」


 タッタッタ、と軽い足取りで町中へと消えていくマルタを見送ると、隣に立っていたラストがようやく、といった様子で改めて腕を取って密着をしてくる。


「ようやく邪魔者がいなくなりましたね」

『そう邪険に扱うな。なにも悪いことはしていないだろう?』

「それは……そうですけど……」


 それはさておき、最初に訪れる町としては中々悪くない場所だ。交通の便といい、町の発展ぶりといい、小規模程度の町の方が最初の拠点としては十分だ。


『まずは腹ごしらえ――といきたいところだが』


 俺はステータスボードからヘルプコマンドを選ぶと、このゲームの管理人ともいえるAIを呼び出す。


「やあやあ、呼んだかな? おっ? その様子だとちゃんと彼女と和解できたみたいだね」

「っ……!」

『大丈夫だ、ラスト』


 前作でもそうであったがラストはシステマのことを警戒している様で、俺の後ろに姿を隠し、様子をうかがっている。


「まあ! 相変わらずとんでもなく嫌われちゃっているみたいだけど、ミーはあくまでゲームが楽しくなるように動いているだけだから、勘違いしないでよね!」

『お互いに殺し合うように仕向けるのがゲームを楽しむことだでも言いたいのか?』

「べっつにー?」


 話を逸らすようにそっぽを向くシステマだが、確かに俺の方も今はそれを聞きたいわけじゃない。


『まあいい。少し聞きたいことがあって呼び出した』

「何かな? あっ! ひょっとしてユーのリアルの肉体の安否についてかな?」

『そうだ』


 前回は多くのプレイヤーが意識不明のままヘッドギアをつけた状態で病院に送り込まれていたが、今回は違う。体験版をプレイしている者だけがこの世界に取り残され、そして今も恐らくは自宅で眠ったまま。誰かに気づかれない限り、そのまま肉体は永遠に眠り続けてしまっているだろう。


「安心して? 体験版プレイヤーの中には自分の意思で元の世界にログアウトできるようになってる人もいるから」

『なんだと!? だとしたら何故俺は戻れないんだ!?』


 冗談じゃない。ラストと離れたいというわけではないが、今の俺には仕事だってあるし、現実のことに対して無責任でいられる立場ではない。


「簡単な話だよ。こうしてユーみたいにこの世界に留めておきたい人間プレイヤーを合法的に施設に集めるために、一部それなりにリアルの世界で権力のある人間に協力を願っているからね。ま、その引き換えに、それなりのポストをこの世界で用意させて貰っているけど」

『……話が読めないんだが』


 現実世界でそんなめちゃくちゃなことができる人間が、今更この電脳ゲーム世界で何かを欲する必要があるのか? それともなんだ? 一度は社会現象を起こしたこの世界ゲームだったが、今度はそれ以上の価値が生みだそうとしているのか?


「まっ、あまり大きなコトはユー達にお話できないから伏せておくけど、少なくとも安心して? ユーのような一部のプレイヤーは既に先にミー達の息のかかった病院施設で保護しているから、安心してこの世界に専念できるヨ! やったネ!」

『待て! 話せないってどういうことだ!』

「どういうことって、そういうコトー♪ じゃーねー」


 俺の問いかけを無視して、目の前でシステマは姿を消していく。

 なんてこった。この世界で飯を食ったところで現実の腹は膨れないなんてことよりも、はるかにとんでもないことを聞いてしまった気がするぞ。


「一体どういうことだ……この世界に、現実の権力が干渉している……?」

「主様……」

「……いや、確かにシステマの言う通り、今は考えても無駄だ。どこか酒場にでも行って頭を冷やそう」


 とりあえず現実の肉体はシステマの管理下とはいえ、野放しにされずに保護されているのは間違いない。


「後は会社の問題だが……いや、もう遅いか」

 本来ならば始業時間。恐らく俺が無断欠勤していることで今頃鬼電が入っているかも知れない。それの応対に頭を抱えるよりは、こっちの問題で頭を抱えた方がまだマシだ。


「そう考えたら、こっちの世界に留まっていて正解か……」


 何よりむこうでは嫁どころか見合いの話すら無い俺でも、こっちの世界にはラストという美女がいつもいてくれるわけだし。


「主様……そんなに見つめられると照れてしまいます」

『ああ、悪い悪い』

「っ! 何も悪いことなど無いですわ! むしろ私だけを見ていて――いえ、出過ぎた真似を……」

『気にするな。システマの前ではああ言ったが、俺はこの世界でお前に会えたことの方が大切だ』

「そんな、主様……」


 いつも以上に照れ照れとするラストだったが、その姿を見た俺は、どんな形であれこの世界に帰ってこられて良かったと、自然とフードの奥で笑みをこぼしてしまっていた。

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