第四節 旧知の窮地 1話目
三日前の自分に釣り野伏を教えたい(´・ω・)
夜明けの光が、湿地帯を照らしていく。朝霧が立ちこめる中、勝利の雄叫びが響き渡る。
「よっしゃー! 勝ったぞー!」
「お、俺、まだ震えてるぜ……まさか、勝てるなんてよぉ!!」
「へへっ! 奴等武器に頼ってばっかだから、接近戦で何もできなかったんだよ!」
「でもそのチャンスをくれたのはあの“蒼侍”だぜ? あいつがいなかったらどうなっていたか……」
「流石は、前作の覇者としか言い様がないな……」
色々と賛辞なり何なり聞こえてくるが、そんなことなどどうでもいい。俺はクロウとこの戦果について報告するように、話を纏める。
『状況報告は全てエニシという男を通して剣王に伝えることになっている。これから首都に向かって、路地裏のレストランを探してくれ。そこにエニシがいるはずだ。俺はまた今から別件でまた動く』
「おう、分かった。応援サンキューな」
『気にするな。同じギルドだ』
とはいっても、“殲滅し引き裂く剱”のギルドの一員としてであって、俺とシロさんが密かに組んでいる“無礼奴”の方ではない。無礼奴を再結成するならあくまで初期メンバーのみで組む予定だ。
そしてもう一人、きちんと契約を履行しなければならない人物がいる。
『生きていたか、黒猫』
「まあね。あんたらがさっさと司令官潰しに行ったせいで、残りも引き受けることになったから骨だったぞ」
本当にそうかー? 音響石から漏れ出る声を聞く限り、かなり一方的っぽかったぞ?
『契約の件だ。いくら欲しい?』
「そのことなんだけどさ」
『ん?』
「あたしもギルドに入れてくれ。ここで一度きりよりも、あんたについて行った方が稼げそうだ」
「むぅー、主様について回れるのは私だけですけど」
いや、そういう意味じゃないだろラスト。これは単にギルドに所属しておけば有用な仕事が回ってくるって期待だろ。
『分かった。さっきのクロウって男について行けば恐らくスムーズに登録が済むはずだ』
「了解。また何かあればよろしく」
こうしてギルド内にプレイヤーが増えるのは良いことだ。幹部のNPC六人を変えるつもりはないが、プレイヤー同士で協力もできるだろうし、今の幹部も新しい戦法を吸収することができる。
いざという時は俺やシロさんが介入すれば何とかなるだろうが、前作でもギルドでNPCが上につくパターンもあったから前作プレイヤーなら問題ないだろう。
「それじゃ、また」
最後に一人。俺が今最も仲間として引き入れたい人物を忘れてはならない。
『グスタフさん』
「んん? おお、ジョージ殿!! 今回は後れを取ってしまったが、次は負けぬぞ!!」
『こっちにはラストもいたんだし、そのぶん有利だったので仕方ないですよ』
相変わらずで嬉しい限りだが、当然ここではいさようならは有り得ない。
『それで、実は“殲滅し引き裂く剱”を復活させようとしているんだ』
「……詳しく聞かせて貰おう」
やはり前作のギルドについてはかなりの興味を持ってくれたのか、グスタフさんは真剣な表情で俺の話に耳を傾けてくれている。
『グスタフさんは今のベヨシュタットについてはどれほど把握できていますか?』
「今の剣王が、直系では無いことくらいまでか」
『それなら話は早い』
俺は“殲滅し引き裂く剱”が今もNPCの手によって密かに引き継がれていること、そのバックに初代剣王直系の王子が控えていること、そして今の王政を元に戻そうとしていることを話した。
『一番詳しいのは多分シロさんだと思うが、俺も転覆には賛成だ』
「しかし、それがし達だけでできるかどうか――」
そう、できないからこそ力を蓄える必要がある。この国に初代剣王の血をひくものによる王政復古の風を吹かせる必要がある。
『俺が会った幹部四人は、いずれもギルドの為に真摯になって動いてくれる。それに初代メンバーのことを尊敬している。グスタフさん、あんたの言うことなら何でも効いてくれるはずだ』
「それがし達が、そんな伝説的な扱いになっていたとは……」
体験版ということもあってフリーに動き回っていたグスタフさんにとってこの話は寝耳に水だったようだが、再びあのギルドが復興されるとなるとかなり乗り気になってくれている。
「ではそれがしもまた、あのクロウという男の後を追おう」
『ああ。特別待遇で出迎えてくれるだろうよ』
これで三人、しかも内一人は俺もシロさんも一目置く程の筋力の持ち主の男。極論今の時点でも武力転覆は可能といえるが、それでも念には念を、だ。
『さて……』
「主様」
ラストが何か言いたげだが、おおよそ中身の予想はついている。
どうしてもエルフ族の村に顔を出さなくてはいけないのか、ということだ。
『実は顔合わせ以外に、いくつか提案して進めておきたい計画がある』
「といいますと……?」
あいつらにきちんとした居場所をつくる。結局百年経っても森にひっそりと暮らしたままということであるならば、俺が自主的に動かなくてはどうにもならない。
『何よりこれはガレリア全般の自衛力も上がるしな』
「……お優しいのですね、主様」
それはどこか自分にも重なるところがあるのだろうか、ラストは意外にも俺の考えを聞くなりすんなりと計画を受けいれる。
『優しいというよりも、借りを返すだけだ』
「では、早速向かわれますか?」
「『そうだな』 ……百年、か」
エルフ族もまた長寿と言われているが、あいつらはどうしているだろうか……。
「リーニャ……ペルーダ……」
◆ ◆ ◆
「お前まだそのマフラー使ってるのか? リーニャ。元々真っ白だったのが汚れまくって汚ねぇだろ」
「う、うるさい! これはジョージさんとの約束のマフラーなんだ! 百年だろうが二百年だろうが、捨てるわけない!」
「へっ……あいつは人間なんだ。百年もすりゃ寿命に決まってるよ……ったく、何かと不安がるとすぐに首元のマフラーを握るよなお前」
「うるさい……それでも私は、また会えるって信じているんだ」
次回エルフお持ち帰り回になる……予定?
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