第三節 荒れ地の王 6話目
『――音響石の複製はできたか?』
「それくらい朝飯前だ」
クロウがいてくれたおかげで各部隊に一つずつ、敵の音響石と全く同じ研磨をした音響石を作り出すことができた。これで敵の通信は全て筒抜け、そしてこれを利用すればこちら側もいちいち連絡を取る必要がなくなる。
作戦の内容については、俺達前に出る組がリスクを背負う形ということで一応の納得を得ている。
『黒猫、お前に渡しておく』
「ん? なんだ?」
俺がここで黒猫に投げ渡したのは、先程敵からぶんどった赤外線ゴーグル。
『暗視に使えるゴーグルだ。敵から一つぶんどった』
「暗視って……あんた達はどうするつもりだ?」
まるで自分は夜でも大丈夫と言いたげだが、むしろ俺達の方が上手だと自身もって言える。
『俺もグスタフさんも必要ないからな』
「何を言っている? 剣士こそまさにこういうものが必要――」
「それがしにとってはこういう悪条件下の方が動きやすい。是非使ってくれ」
「……ならば遠慮無く使わせて貰おう」
グスタフさんが言いたいことを言ってくれたおかげで、ゴーグルを黒猫に渡すことができた。後は全員と作戦の最終確認をするだけ。
『これより敵の通信を合図にお前達で挟み撃ちをしてもらう』
「合図? 一体どんな合図だ?」
全員が首をかしげる中、俺は自信満々にこう述べる。
『――敵軍が俺達を狙い始めたら、その背中を狙いにいけ』
実に簡単だぞ? パニックに陥った敵を潰して回るのは。
◆ ◆ ◆
――ステータスボード上に表示された時刻は、既に夜の十時過ぎている。敵の進軍は、既に始まっている。
現実世界のような街灯も何も無く、まさに辺りは完全な夜の闇に包まれている。あまりの暗さに視覚を失ってしまったかのよう。
そんな中で相手は、まさに夜を悠然と歩いている。
「赤外線ゴーグルのバッテリー残量に注意しろ。隣同士歩幅を合わせるんだ」
「少しでも異変を感じたのならば撃っても構わない。この沼地を完全に制圧する」
「ヘッドライトは最後の手段として使え。わざわざ敵に居場所を教える必要は無い」
横隊である以上、誤射は有り得ない。味方は自分の横並び、敵は全て眼前に存在している。更に各々がアサルトライフルやサブマシンガン、ショットガンなど近距離から中距離において有効な武装を身につけていて、互いに注意を払っている。
この圧倒的有利な条件がリベレーター側の軍勢に安心感をもたらし、そして何より無敵感を植え付けている。
しかしそれも、たった一つのミスで乱れることになる。
「……ん? 今何かがうごっ――」
一人の兵士の声が途絶える。そして暗闇の中で両隣の兵士の顔に、生暖かい液体が浴びせつけられる。
「か、は――」
「きっ、緊急事態発生!! ヘッドライトをつけろぉ!!」
一斉に光り出すライトが照らしあげたのは、一人の兵士の惨たらしい死体。何者かによって喉元が掻っ捌かれ、こひゅー、こひゅーという息が漏れる音とともに一人の命が抹消される。
「辺りを探せ!! 全員ライトを――ぐはぁっ!」
「なんだよなんだよなんだよ!? 向こうは剣士だろ!? 暗視なんてできるはずが――」
『自分たちばかりができて相手ができないと考えるのは、少々愚策だと思わないか?』
抜刀法・壱式――刎斬。一度に大勢を殺す必要は無い。ただ声とその場に斬られた死体を残すだけで、相手は勝手に混乱に陥ってくれる。
敵陣ど真ん中を文字通りぶった斬って進んでいく。至る所から発砲音が聞こえてくるが、そのいずれもが的外れの場所を狙っている。
『このまま離脱するぞ、ラスト。おまけで【魅了】をばらまいて同士討ちさせておけ』
「承知しました。では……」
ウインク一つで一つの小隊が混乱を呼び起こし、銃声を鳴り響かせる。更に俺からのおまけとして二、三人をその場で斬り捨て、わざと水音を立てながらその場を離脱していく。
そうすることにより折角横隊で並んでいた敵の軍勢が、躍起になって俺を逃がすまいと追ってくる。
するとどうなるか。
「待て! 横隊を崩すな! 敵は少数の筈だ!!」
「ダメだ! 中央も右も左も、突破された! このままだとまずい! こっちの司令官の方へと突っ込まれる!」
成る程、これは良いことを聞いた。俺は手元の音響石から聞こえてくる敵軍の慌てふためく声を聞いてほくそ笑みながら、グスタフさんも考えているであろう次の侵攻場所へと突き進んでいく。
「こうなったらどちらが先に司令官を討ち取れるか――」
昔から俺達のギルドには一つのルールがあった。
敵の司令官、つまり一番レベルが高い敵を誰が討ち取るか。
答えは簡単。
「――早い者勝ちといきましょうか」
◆ ◆ ◆
途中ラストの探知魔法で誘導の補助を受けながら、俺は真っ直ぐに敵司令官の方へと向かっていく。
司令官を倒すために挟み撃ちは諦めざるを得なかったが、音響石から聞こえる敵の悲鳴からして加勢は必要なさそうだ。
「追い打ちをかけるためにも、急いで敵の司令官を倒さねば」
「主様、正面!」
――とっさの声に、俺は全身に蒼いオーラを纏って腰元の刀の柄に手を添えた。直後に前方から重厚なスナイパーライフルの発砲音とともに、五十口径から放たれた弾丸が俺の眼前に迫り来る。しかし――
「シィッ!!」
縦に一閃、弾丸を斬り伏せることで二つに分かれた弾丸がそれぞれ横をすり抜けていく。
残心という侍職固有のアクティブスキルを使えば、普段よりも集中してより鋭い斬撃を繰り出すことができる上、更に攻撃にクリティカル効果が上乗せされる。おまけにこのスキルを伸ばしているおかげで精神力も強化され、精神的バッドステータスに耐性を持つことができている。
弾丸の雨あられとなればもう一つ上のスキルである殺界を使う必要があるだろうが、単発ならばこの程度で十分。
『泥を被っていたのにバレた……暗視スコープか!』
熱によって生き物を判別する赤外線ゴーグルではなく、夜でも昼間のように見えるとされる暗視ゴーグルを使っている――ということは、この先にいるのが大将と見て間違いない。
『敵大将……その首貰ったッ!!』
次弾を装填する暇なんて与えない。縮地でもって一気に距離を縮め、一太刀で全て決める。
「抜刀法・参式――啼時雨!」
クリティカルを重ねた一撃の下、俺は敵司令官の素っ首を一太刀で刎ね落とした。
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