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第三節 荒れ地の王 5話目

 日も既に傾き始め、辺りはうっすらと暗闇が広がり始めている。

 それに伴ってもう一つの作戦についてだが、先にグスタフさんと話をつけておかなくてはならない。


『では今からもう一つの作戦を話したいところだが……先にこっちもだいたい十人で一チーム、計五チーム作って欲しい』

「んん? どうするつもりだ?」

『内訳はできる限り各チームに一人は遠距離職を配置できるようにしておいてくれ。その間に俺とグスタフさんで確認しておく点を整理する』


 そう言って俺はグスタフさんとその場を離れ、改めて森のエルフ族について確認を取る。


『さっき言ったことは本当だな?』

「うむ。ジョージ殿が過去に匿って貰っていたエルフ族の生き残りがいる村だ」


 この世界ゲーム内においては百年前のことになるが、俺は前作において一度だけ仲間ともはぐれて瀕死になった経験がある。その時に俺を匿ってくれたのがこのベヨシュタット国内に僅かにいるとされるエルフ族だった。その後も俺とエルフ族は何かと互いに助け合ったこともあり、互いに切っても切れない関係を持っている。

 それが百年経った今でも通用するかは知らないが、少なくともただのNPCだと片付ける訳にはいかない。


『ならばこの戦いが終わった後に顔を出してみるのもありか――』

「ダ・メ・で・す主様! 私というものがいるのに!」

『いや、それとこれは別だし、だいたいお前も何回か会ってるから知らない間柄でもないだろ』

「それでも……むぅうううう……」


 ラストは不満が残っているようだが、礼を欠くのは初代剣王も許さなかったし……。


『……とにかくエルフのことは後回しにするとして、現状を打破する作戦についてだ』

「そうだった。ジョージ殿は作戦があると言っていたが――」

『簡単な話だ。俺とグスタフさんで横隊を突っ切って混乱を招く。そして敵が百八十度向きを変え俺達を狙いだしたところで控えていた奴等が動いて後ろから挟み撃ちという形を取る』


 つまり俺とグスタフさんが囮になることで無理矢理挟み撃ちを取る作戦だ。下手すれば集中砲火を受けるかもしれないが、霧という悪天候と更に夜間の視界の悪さ。敵は各部隊に一つだけ渡されたであろう赤外線ゴーグルしか頼りにならないという情報の元に立てた作戦だ。


『俺もグスタフさんも気配を絶つことに関しては得意分野だ。しかも相手の索敵手段は既に割れている。これなら沼地でも十分に立ち回れる』

「しかし敵は横隊で来ると言っていたが、総大将はどこに配置するつもりだ?」

『問題はそこなんだよな……』


 局地戦になっているとはいえ、大将あるいは司令官さえ倒せば敵全体にアナウンスが入ってそこから瓦解して撤退戦に切り替わる。撤退戦にさえ切り返せればこちらとしてはどうとでもなるわけだが、肝心の司令官の配置までは音響石で今のところ拾えていない。


『横隊のどこに司令官がいるのか、真ん中か、両端のどちらか?』

「恐らくはその三択だろうが、それだと我等では手が足りぬ」

『ラストが一ヶ所引き受けてくれるならいいんだが……』

「ダメです。こういう危険な時に主の側にいなくて一体何だというのでしょう」


 ですよねー、ってかここぞとばかりにぎゅっとしがみつくなアピールは十分分かったから無駄に当たってるの意識とかしちゃうから。


「うーむ、そうなるとあの中で誰か引き受けられるものがいれば――」

『いや、一人いるようだ』


 すぐ近くに。


「――あたしが受けてやろうか?」

「……誰だお前は。何の用でここまできた!?」


 振り返るとそこに立っていたのは、迷彩柄のズボンに上はタンクトップ一枚だけきたショートボブの女兵士だった。鋭い目つきでこちらを値踏みするように見ているが、俺達よりはレベル的には格下だ。


「いつからそこにいた!?」

『心配する必要はない、グスタフさん。エルフの詳細については聞かれていない。作戦の話を始めた辺りから気配はしていたが』

「へぇー、バレてたのか。凄いなあんた」


 恐らく職業は遊撃部隊ゲリラなのだろうが、俺相手に気配を絶つのは不可能だ。


「エルフのことは個別に気になるが、今はそんなことはどうでもいい。ビジネスの話だ」


 フリーの傭兵らしく、ビジネスで動く猟犬といったところか。


『話は盗み聞きしていた通りだ。三カ所の内一カ所の担当』

「いくら出せる?」


 金の話が先か……面倒な女だ。


『生きて帰ってきたら言い値を出してやる。これでいいか?』

「いいだろう。ただし払わなかったら――」

『“元”刀王が金も払えない情けないやつと言い振り回されたくないからな。しっかり払ってやる』


 でもまあ、ふっかけてきたら流石に考えるけどな。


「分かった。契約成立だ」


 よほど自信があるのだろう。それ以上は何も聞くことなく集団の方へと女は踵を返して戻っていく。


『それじゃ、よろしくな。あー、名前は――』

黒猫くろねこトマトだ。黒猫でいい」


 ……随分と面白い名前で登録してやがるな。

 かなりリスキーな作戦を展開することになりそうです。

 

 ここまでまた楽しんでいただけたのであれば、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)

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