第三節 荒れ地の王 1話目
「――それでは、ボクは今からジェラスを連れて経験値稼ぎに向かいます。おまけでどう運用すれば効果的なのかを探りたいとも思いますので」
『了解、お疲れ様でした』
レリアンまで戻ってくる間、ジェラスはずっと首輪を外すようにシロさんに願い出ていた。しかし天然ドSのあの人がそれを聞いて尚更外すわけもなく、勝手に首が絞まって瀕死になっていく様子を横目にニコニコとしていたことを俺は忘れない。
「さて……」
このまま野道を真っ直ぐ歩けば、そのままレリアンへと到着する。あの人はまたランダム生成されたダンジョンに潜るのだろう。経験値稼ぎと言っていたが、それはジェラスも含まれるのだろうか。
「ジェラスのレベル145……確かNPCのレベル最大値は50も引き上げられたとシロさんは言っていたが……」
ラストもそろそろ1レベルくらいは上がっても良さそうだが……全然上がらないな。プレイヤーと違ってNPCの必要経験値は多いのか?
「そう考えると俺も経験値稼ぎを考えておかないと……って、まだ先行体験版だからそんなに気にする必要も無いか」
レベルだけなら恐らく一番先行しているのはシロさんだろうし。色々と考えがちだがまずはレリアンの地盤固めに専念することが大事だ。
「あの、主様……」
「ん?」
「少々根を詰めしすぎているのではないのでしょうか……?」
『そんなことはないだろ』
「しかし……」
言いたいことは分かっている。七つの大罪に近い存在とも相対した直後だというのに、俺がまた次の行動を起こそうとしている。だが正式にサービスが始まった際には、さらなるプレイヤーの流入が想定される。迎え入れるにしろ敵として戦うことになるにしろ、先行組としてやるべきことはやっておかなくては。
『やれる内に色々とやっておきたいこともあるんだ。それに――メッセージが来た』
差出人はシロさん辺りかと思っていたら違っていたようで、この前の戦いで味方に引き入れることができたクロウという技術者からのものだった。
『……今度はリベレーターがガレリアに攻め込んでくるとの情報が手に入ったから応戦に参加する。現在の交戦地点はスピット湿地帯……湿地帯か』
地理的には足を取られやすいから近接職が多いこちら側が圧倒的に不利なんだが。というかリベレーターまで襲撃に来るとかガレリアは意外にも激戦区なのか?
「どうしたものか……」
ステータスボードから地図を開いて場所を確認すると、近場に森があることが分かる。俺は折り返しのメッセージで湿地帯ではなく近くの森に交戦地点を移せないかと提案してみたが、更に帰ってきたメッセージにはこう記されていた。
「こっち側の老害特攻隊長が敵陣に一人突っ込んでいったせいでバックアップしながら前線を無理矢理進まされている……か」
しかし押し返しているとなるとそれなりの実力者の筈……しかも見たところまだどこのギルドにも所属していない雰囲気の様子。となると現時点で考えるべき最善手は一つ。
『……ラスト!』
「行ってはなりません、主様にはご休息が必要なのですよ!」
「っ!」
ここまで食い下がってくるとは思っていなかった俺は、とっさに次の言葉を言い出せなかった。
確かに彼女の言う通り、休息はいずれとらなければならない。だが、今ではないことも確かだ。
『……分かっている。だったらどこかのタイミングで、お前と二人でゆっくりとしよう。約束だ』
「……主様がそこまでおっしゃるのでしたら」
ラストが俺の身を案じてここまで言ってくれているのだ、約束は必ず守ろう。
◆ ◆ ◆
――同時刻。俺の知らないところで、俺の知らない戦場で、一人戦う男がいた。
男は戦場の誰よりも筋骨隆々で、戦場の誰よりも雄々しく、戦場の誰よりも髭が濃かった。
“吹き荒ぶ暴風”の異名を冠する戦士は両手に握る規格外の戦斧を振り回し、天に向かって吠え叫んだ。
「リベレーター軍の面々よ!! 敵はここだ!! グスタフはここだ!! どこからでもかかってくるがいいッ!!」
また新たな戦いの匂いを漂わせながら、次の話へと行きたいと思います。ここまでまた楽しんでいただけたのであれば、恐縮ですが評価等いただければ幸いです(作者の励みになります)。(・ω・´)