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第二節 新たな戦術魔物 4話目

「抜刀法・参式――裂牙烈風ざがれっぷう!!」


 流石に一太刀で落とせる程ではないが、それでも二度三度と切り刻めばレベル100の亡霊でも俺の敵ではない。


『要領さえ掴めば単なる雑魚処理だな』

「ええ、そうですね。ただこの薄気味悪い風景を早く片付けないとですが」


 斬っても斬ってもどこからともなく沸いて出てくる亡霊の群れ。それはそれで経験値稼ぎができるからいいかもしれないが――ってちょっと待て。


『シロさん!』

「何ですか! 今は増援含めてこの数を捌ききることの方が――」

『それなんですけど、経験値入ってますかこれ!?』


 そこでシロさんも気がついたようで、さっきから俺よりも討伐数が多いはずのシロさんが一切経験値を得ていないことから、これがモンスターなのかという大きな点で疑問が湧いてくる。


「……入ってきていませんね」

『となるとこれは召喚された魔物の可能性があるな……』


 不正行為(Dope)防止のため、敵が召喚してくるモンスター等、特別な状況で無限に湧いてくる敵からは基本的に経験値を得ることができない。つまり今の状況で経験値を一切得られていないということは、目の前にいる亡霊の群れは自然ポップのものではなく、何者かが召喚したモンスターか、あるいは別の解決の糸口のあるイベントキャラの可能性が高い。


「だとしてもどうしましょうか。この数の敵を一気に蹴散らす技は――」

『持っているでしょ。シロさん』


 俺はフードの奥でニヤリと笑った。この人が一体多数を想定した技を覚えていないなんて、そんな馬鹿げた話等有り得ない。


『――封龍滅獄斬バハムート・アポカリプスでしたっけ?』

「……はぁ、そんなものを覚えていたんですね」


 恐らくこんな経験値も貰えないような敵を相手にTPを大量消費するような技を使いたくはなかったのだろう。しかし結局はどこかで区切りをつけなければ、じり貧は免れない。


「仕方ないですね……ではもし七つの大罪(セブンス・シン)だった場合は確実に仕留めてくださいよ。そうでなかった場合――」

『分かってますって。その時も俺が全部始末つけますから、安心して――』


 そうして俺が最後まで仮想キーボードを打ち込み終える前に、シロさんは既に直剣を両手で構えて祈るように空にかざしている。


「緋蒼剣ほどではありませんが、そこそこの威力で撃たせていただきますよ」


 力が込められた剣が蒼々と輝き、そして振り下ろした瞬間――翼竜を模った斬撃が、一直線に全てを薙ぎ倒していく。


封龍滅獄斬バハムート・アポカリプスッ!!」


 亡霊達は悲鳴を上げる間もなく龍の斬撃つばさに引き裂かれ、既に倒壊しかけていた家屋も全て龍の暴風はばたきによって薙ぎ倒されていく。


『分かっていても相変わらず凄まじい威力だ……』


 これを真っ正面から受けるのは俺ですら遠慮したいところだ。いなすことはできたとしてもダメージはゼロではない。ただでさえ紙切れのような防御の俺だからこそ、その余波だけを喰らったとしても瀕死は免れない。

 しかしまあ撃ち出すまでにタメがあるぶん有情といえるか。


『……さて』

「全部薙ぎ倒しましたが……相変わらず経験値は手に入らずといったところでしょうか」


 この場合の手に入らないというのは、雑魚モンスターが垂れ流すような少量の経験値ではなく、ボスモンスターを倒した時に得られるような明らかな桁違いの経験値のことだ。


『……いや、誰かいるぞ』

「あれは……主様、お下がりください!!」


 ラストがここまで反応するということは、ようやく現れたということか。


七つの大罪(セブンス・シン)の嫉妬担当……エンヴィーが』


 鴉のように黒い翼を生やし、人々の嫉妬心を煽って甘言を流し、そして人の繋がりも全て暴風を巻き起こすかのように荒らし回る、ラストについで精神攻撃の得意な戦術魔物。

 しかし俺達の前に現れたのは、そんなエンヴィーとは似て非なるもの。

 シスター服に袖を通し、人々の嫉妬というような汚らわしい心とは正反対の清浄さを示すかのような雰囲気を持つ女性。くすんだ赤い髪に似合う金色の瞳には慈しみが見えるが……ラストが一切の警戒を解かない辺りが危険人物であることを示している。


「エンヴィー? はて? 誰のことやら? 私の名はジェラス」


 ――嫉妬を司る悪魔。ジェラスともうします。

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