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第二節 肩慣らし 2話目

「主様、僭越ながらここまでする必要は無いのでは?」

『いいんだ。感覚を掴むためには技をどんどん出す必要がある。それに今ので集中スキルとかいくつか補助バフスキルの存在とかも思い出したところだ』


 特定の装備が無ければ大殺界だいさっかいは無理だが、殺界さっかい程度はいつでも纏えるようにしておいたほうがいいからな。


『それで、そっちの方は大丈夫か?』

「あの、ありがとうございます!」

「ふ、我が主様に助けられた幸運を一生かけて噛み締めるがいい」


 べつにそこまで大仰なことはしていないはずだが。それにしても何というか、本当に非戦闘要員だということが改めて見て取れる。

 恐らくは十代の少女であろう、しかしながら慌てた様子でペコペコと頭を下げ、その度に背中に背負っていた大きな荷物が不安定に揺れ動いている。その衝撃を身体で受け止めているせいか、かけている眼鏡までもがずれてしまったようで、顔を上げると同時に眼鏡をかけなおしつつ、こちらの方をじっと見つめている。

 その顔つきは純朴な少女そのもので、行商人のような活動的な仕事よりも、町の一角で雑貨屋を手伝った方がイメージに合うだろう。

 そんな少女であるが、ここでまさか助けられるとは思っていなかったようで、俺がもうじゅうぶんだという態度を取っていてもかしこまり続けている。


「本当に、ありがとうございます! 私、この先の港町に行商に行っている途中でして、少しでも早く町に到着しようと森を横断してたらこうなってしまって……」

『なるほど、行商人か。よく護衛もつけずに一人で歩いているな』


 それにしても本当に不思議なものだ。普通行商人ならば護衛の一人や二人くらい雇っていても何らおかしくはない。

 ……それでもさっきのような特殊なモンスターに襲われたらどうしようもないかもしれないが。


「実は私、まだ修行中でして……護衛を雇うようなお金も持っていないんです」

『それでもここらを歩くなら雇うべきだと思うが』


 だが丁度いい。ここで俺の方もある取引を持ちかけることができる。


『そちらが良ければ町まで護衛するが?』

「へっ? ……っ! いえいえ! 私本当に見習いなんで、お金なんて持ってなくて――」

『金の必要は無い。偶然俺もそっちの方に用があるからな』

「ほ、本当ですか!?」


 少女は喜んでいるが、その一方で二人旅に早速お邪魔虫が沸いたといわんばかりに殺意を湧かせる者が一人。


「折角の……折角の主様との二人旅が始まったばかりだというのに……!」

『安心しろラスト。港まで行ったらそこで別れる』


 まあ何にせよひとまず安心だ。そしてこいつがプレイヤーの可能性もほぼ無い。

 普通なら何故俺が直接喋らないのか、仮想キーボードを何故使うのか絶対に疑問に思うはず。しかしシステマが用意したこの世界の住人ならば、そんな疑問を持つことも無いだろう。


「やっぱりおばあ様の言うとおり、お侍様はいい人なのですね!」

『おばあ様?』

「はっ! いえ! こっちの話です!」


 何やらジンクスがあるようだが、一帯どんなジンクスなんだか。


「そういえば自己紹介がまだでした。私、マルタっていいます!」


 名前を聞かれた俺は、この時思わず渋ってしまった。ここで下手に名を晒せば、彼女の噂話から俺のことを嗅ぎつける奴がいるかも知れない。

 ゲームはまだ体験版の状態だが、体験版だからこそ前作の俺のことを知っている人間がいる可能性も高い。ここで正直に教える必要も無いだろう。


『俺は……名を名乗る程でも無い。ただの侍だ』

「では、黒侍さんと呼ばせていただきますね!」

『黒侍……?』

「ええそうです! 真っ黒なコートを着ているので!」

『ああそう』


 前作で刀王時代より前に呼ばれていた蒼侍あおざむらいに近しい何かを感じるが、まあいいだろう。


「では黒侍さん、一緒にテクナッチ港まで出発進行です!」

「黙っていれば主様に馴れ馴れしくしおって……ぐぬぬぬぬ!」

『だから落ち着けよラスト……』


 ほんと、前作から思うが色欲よりも嫉妬の方があってるんじゃないか……?


「このまま歩き続ければ、明け方には到着しますよ!」

『そういえば今の時刻は……?』


 ステータスボードを開けば流石に時間くらいは把握できるが、地図の所持か地理学スキルがない限りこの辺りの地形情報は相変わらず不明のまま。


『飛んでいっても良いかもしれないが、それこそ悪目立ちするからな……』


 仕方がない、地道に歩く他ないだろう。


「……ところで、お気づきですか?」

『何が? ……ああ、そういうことか』


 先程の血の臭いを嗅ぎ取ってか、周囲に新たに敵対的な気配が湧き出てくる。


『……適当な威嚇スキルでも使っておけ』

「承知いたしました」


 一時的にもマルタのパーティに所属しているようなものだから、ラストの威嚇スキルはマルタには通らないようになっている筈。


「……では、少しばかり脅しつけておきましょう」


 ほんの少し、うっすらと青白いオーラを纏ったラストは、その光を放出するかのように威嚇スキルを発動させる。


「ッ! ギャアッ、ギャアッ、ギャアッ!」

「きゃいん、きゃいん!」

「えっ、何が起こったんです!?」

『気にするな。先を急ぐぞ』


 俺達にとってはそよ風かもしれないが、敵方の方はどう感じ取ったのだろうか。

 ――少なくとも、この森のほぼ全ての生物が尻尾を巻いて退散していったのは間違いないだろう。

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