第二節 新たな戦術魔物 2話目
風邪を引いてからいまいち体調が立ち直らないという辛みの中投稿です。(・ω・`)
「――それでは私達は近くの街で待っておりますので」
『ああ。良い知らせを約束しよう』
月の輝く夜に俺達が馬車から降ろされたのは、この百年間で新たに戦渦に巻き込まれた街、グルーム。かつてはレリアンのような活気のある街だっただろう。しかし今となって目の前に広がっているのは戦火
に焼かれた建物や、濁り汚れた水が噴き出す噴水など、陰鬱さを曝け出すどころか不気味さを三倍増しにしている。
「お気をつけて。噂に寄れば鴉だけではなく、異形の化物まで住み着いているとか」
『ん? 待て、そんな話など聞いてない――』
俺が声をかける前にまるでその場から逃げるようにして、馬車は走り出す。
闇夜に舞う大鴉などという大層なクエスト名、しかも難易度は不明。普通であればクエストはS,A,B,Cとそれぞれ難易度によって分けられ、プレイヤーのレベルや知名度によってある程度分配されているはずだが、今回は難易度“不明”という新要素が混ぜられている。
『……誰でも受けられるが、失敗した際のリスクは一切負わない、か』
しかも今のような重要な情報を後出して出されたりと、何かと不安定要素が多すぎる。
「主様、もし勢い余って殺してしまってもお許し願います」
「おお、怖い怖い。まあそうならないためにもボクが呼ばれているわけですが」
今回のパーティは俺とラスト、そして急遽【転送】で帰還して貰ったシロさんの三人だ。
「しかし本当に確信があるんですよね? 確かに七つの大罪はそれだけで計画に割り込ませる価値がありますが――」
『もし俺が知っている奴なら、十中八九当たりと見ていいはずだ』
ただ、もう一つの異形種については全くもって自信が無いが。
そうして俺達が街へと一歩足を踏み入れた途端に、生暖かい向かい風が拒絶するかのように俺達の頬を撫でていく。
『……ラスト』
「はっ」
既に戦闘モードに入っているのか、いつもの口調から堅いものへと変わっている。無論、その方がありがたいものだが。
『念のため生体反応がないか探知魔法を使ってくれ』
「承知しました……主様」
『ん?』
俺はいつもの取引が始まったかと思ったが、どうやら探知魔法を使うまでもなく敵対者と思わしき生物、否、生物と断定していいものか分からない何かが俺達の前に姿を現わす。
「……亡霊の集合体、といったところですか」
この街で多くの人間が血を流したのだろう。そしてその血を啜って膨れ上がった悪意の塊が、巨大な一枚の黒布を纏って中空へと浮かび上がる。
「どうやら、カラスではなさそうですね」
『……破魔之太刀は用意できているか?』
「こちらに」
レベルも三桁は確実、これは討伐報酬もそれなりに貰わなければならないな。