第一節 メンター 6話目
体調不良で更新が遅れてしまい申し訳ありません。また少しずつ更新を重ねていこうと思います。
『全く余計な事をいってからに……』
「ごめんなさいパパ……」
だからそのパパ呼びが問題になっているんだろうがと言いたいところだが……まあいい。最初の時よりは不安も取り除けているようだが、まだ言葉の端々や態度の端々に不安感が見え隠れしている。
『確かにこのまま根無し草もあまり良くないな』
一応の拠点としてこのレリアンの街にギルドの建物があるわけだが、それとは別に自分の家があった方が良いだろうし。
『資金はまだあるな……よし』
このままレリアンを意味も無くふらつくのも時間の無駄だし、ひとまずこの子達を置いておける安全な場所の為にも家を買おう。しかもできれば少し町外れの方がいい。
『いざとなった時に、街の中心だと離脱させるのが難しいからな……』
言わずもがなレリアンは俺達ベヨシュタットが奪い取った街で、再び奪い返しに襲撃が来てもおかしくはない。
『となればベヨシュタット側の方角に建てるのが建設的か……』
建設物なだけに……ハッ! オヤジギャグ!? 違う違う! 俺はまだアラサーなだけでおっさんとは認めん! 認めんぞ!!
「主様? 一人で何をされているのです?」
『いや、何でもない。それより三人とも』
「ん? あたし達か?」
ユズハが自分自身を指差して首をかしげている。俺はそうだとユズハの方を見て頷くと、これからの目的を全員に伝える。
『今から家を買いに行く』
「い、え……?」
「そ、そんな簡単に買えるんでしょうか?」
アリサが不安がっているが、こっちはそれなりに資金を持っている。現実じゃ貯金なんてものはない俺だが、この世界だと現時点だとそれなりの資産家の自信はある。
『豪邸は悪目立ちする。普通より少し大きめの家を、郊外に建てるとしようか』
◆ ◆ ◆
レリアンを少し離れた郊外、ガレリア領内にある農村、クエッタ村。そこに広がる敷地を前にして、俺は腕を組んで仁王立ちをしている。
「どうでしょう? この農村でしたら土地代も安く、レリアンには一日で、首都にしても五日もあれば到着できるような村となっています。行商人も良く通りますし、治安も――」
『御託は良い。見れば分かる』
ステータスボード上に表示される情報を読み取っても、現時点だとここが一番適している。周りを見ても危険なモンスターも見当たらないし、小さい村ながらも衛兵が存在している。
『衛兵がいるのはありがたいな』
「主様?」
『いや、ちょっとしたリターンがあるって話だ』
「どうするのさパパ」
『だからそのパパ呼びは止めろといっているだろうに……』
とはいえ彼女達にとって親と呼べる存在は代えがたいものなのか、中々に止めようとはしない。
『土地はここに決めた。後は家の設計図だが……』
確か前作で無駄にレアドロップした家の設計図があったような……。
『……この家を建てて欲しい。設計図はここにある』
俺が溜めておいたレアリティの高いものの中に、建築物の設計図が存在している。建築物といえば使い道の一つとしてこうした普段の生活の拠点としての建築物もあれば、防衛戦時の一時的な砦を建築するための設計図や、攻撃戦における簡易拠点の設計図も存在している。
勿論設計図がなくとも建築物を作り出す事ができるが、強度などの数値上の問題でやはり元の設計図があるのと無いのとでは大きく異なってくる。更に器用さが高い人間や、建築スキルを持つ人間が造りあげたものはまさに桁違いの強度を誇る。
しかし今回はあくまで家の建築、普通の建築家が手がければ十分な代物ができるだろう。
『どれくらいの日数がかかる?』
「およそ五日程ですね」
『そうか。ではそれまではギルドの拠点で過ごすとしよう』
「ここに家が建つのですね」
そういうことになる。とはいえ、仮住まいとしてはあのギルドの拠点にしばらく居て貰う事になるが。
『……何か不安でもあるのか? ウタ』
三人の中でもしっかり者に思えるウタが、建築予定である土地を前にぼうっと前を見つめている。
「いえ、何も……」
『あるならあるで、正直に言って欲しい。確かにこの世界はゲームで、しかも俺とお前達とでは会って間もない仲だ。しかしそれでも、お前達がこの世界を生きていく中で何かあるとするのならば、俺は力になるつもりだ』
しかしウタは首を振るばかりで、そしてこちらの方を向いてこう言った。
「それでは私達だけがお世話になってばかりで、何も恩返しができません」
『恩返しも何も、別に俺はそれを目的に動いているわけじゃない』
見返りも何も考えず、ひとまず彼女達にとって安心な居場所を確保する。それが何かの役に立つわけじゃないが、それでいい。
『俺は俺がやりたいと思ったから動いている。ただそれだけだ』
「……分かりました。けどやっぱり、何か恩返しをしたいんです」
ウタはそう言って俺の方へとズイズイと近づいてくる。話の経緯を聞いていたのかアリサもユズハも頷いて、俺の方をじっと見つめている。
……と、ここで俺に良からぬ考えが浮かび上がる。
だがこれはいいのか? 本格的にシロさんから憲兵呼ばれる案件になりかねないぞ。
しばらく悩んだ後に、俺はありとあらゆる言い訳を自分に言い聞かせながら三人へと言葉を返す。
『そこまで言うなら良いだろう。だったら普段の家の家事手伝いをして貰う事にしよう』
「お、お手伝いさんですか?」
『そうだな、正確に言えば――』
――メイドになるな。あ、ちょっと待ったラスト。そんな目で俺を見ないでくれ。決して邪な考えなんて持ってないって誓うから。




