第一節 メンター 5話目
転送空間という名のローディングが終わり、周囲の景色が俺達にとっての拠点でありこの三人にとっての新たな居場所となる街へと変わっていく。
「おお……誰かと思ったら貴方達だったか」
「その子達は一体……?」
『気にするな。拾ってきただけだ』
街の中心となる広場に到着した俺達を迎え入れたのは、レリアンに住む市民達だった。既に多くの市民には俺達の事が認知されているが、当然こいつらは全員NPC。しかし少女達三人にとっては、生身の反応と同じに見える様子。
「すっげー……これって本当にゲームの世界なのか?」
『三人はゲームとかした事はあるか?』
「あたしだけ。だけどこんなゲームじゃなくてコントローラを使うやつ」
成る程……だとすれば、ユズハをそれなりに鍛える事ができれば、家の番や、このレリアンの守備も任せる事ができるようになるかも……いや、キリエのようなやり手にまで育てるのも時間がかかるし、家の番程度が出来れば上等と思っておこう。
「ん? 今何か言ったかおじさん」
『いや何も』
それと……うーん、年齢的にも分かっているがおじさん呼びは凹むな……。
「ウタもアリサもこれが初めて――っていうか改めて考えるとすげーな。本当に地面に触ってるみたいだ」
その場に座り込んでペタペタと石畳を触るユズハであったが、それよりも先を急ぐ必要がある。
『ひとまず三人は俺達のギルドに見習いとして所属して貰う』
「ギルドぉ?」
「って、何ですかそれ?」
ギルドの仕組みを知らない……当然か。
『簡単に言えばゲーム内のチーム、いや、家族みたいなものか』
「かぞく……!」
しまった廃人特有の臭い言い回しで言い過ぎたかもしれない。というか孤児院の子ども達の前で家族だなんてほざいた俺はなんて馬鹿なんだ。
『いやすまない、少し言い過ぎた――』
「家族かー、じゃあおじさんって呼び方じゃおかしいのか」
「じゃあなんて呼べば良いんでしょうか……」
『いや、だから家族は少し言い過ぎ――』
「じ、じゃあ……パパ! とか……?」
俺やラストを含めた四人が、アリサのひと言に固まってしまう。
「えっ? ……いやいやいや! べべべ、別に変な意味とかじゃなくて――」
「主様がパパ……だとすれば私は……ぶはぁっ!」
『落ち着けラスト! まず俺が何時パパ呼びを許可した!?』
「そうですよ。このままだとジョージさんを憲兵に突き出さないといけなくなりますからね」
「うおぅ!?」
どうしてこういう時に限ってシロさんがこの場に居合わせているのか。しばらくはこれをネタに色々言われそうで面倒なことになりそうだ。
「それにしても貴方がそういうご趣味だったとは。意外や意外」
『っ! ちょっと来てくれシロさん』
そのままシロさんを連れて俺は三人の元を離れて事情を話す。ここでまた変な誤解を与えてしまっても面倒極まりないのは目に見えている。
「何ですか藪から棒に」
『今あの子達に下手な誤解を与えないでくれ。折角ここまで連れてきたのに』
「……まさか本当に――」
「違うから! あいつらは事情があって連れてきたんだよ!」
シロさんの珍しい訝しみ顔を前に思わず口で否定するが、いまだに半信半疑の様子。
「……一応、直接聞きましょうか」
『ああ、そっちの方が早いかもな』
普通に身の上話を聞かせてやればシロさんもこの子達を引き取る事に反対はしないだろうし、まさか三人の方も変な事言わないだろうし。
「コホン。申し訳ありませんが、貴方達は一体?」
「うわ、真っ白なお兄さんだ」
「ちょっとかっこいいかも……?」
ちょっと待てお前等俺の時と最初の対応が違いすぎないか? いやフードを被っていれば確かに不審者に見えなくもないかも知れないが!
しかしアリサやウタとは違って、ユズハだけはしっかりとこの場においても答えを返す雰囲気を保っている。
「あたし達か? あたし達はそこのおじさん――じゃなかった、パパに引き取ってもらったんだ」
「……ふーん、成る程ですね」
……へ、へへ。余計に面倒な事になってきたぜ。




