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第一節 メンター 4話目

 数時間で夜も明け、フードの奥にも僅かに日差しが届く。


「ん……朝か」


 時計がなくとも同じような時間に起きられるのは、社畜だったころにできた習性なのだろうか。あるいは大木に寄りかかるという普段とは違う寝る姿勢だったのが合わなかったのだろうか。いずれにしても身体を起こさねば――


「――って、どういうことだこれは」


 確か昨日の段階だと全員バラバラに寝かせていた筈だが……妙に身体が重たく感じると思ったら、こういうことか。

「……全員、起きろ!」

「いやん、主様ったらぐへへへへ……はっ!」


 一体どんな夢を見ればそんな寝言が出てくるんだよ。朝っぱらから戦慄させるのは止めてくれ。

 目を覚ましてすぐに身体を起こそうとしたが、まず右腕にラストが文字通り絡みついているわけで、更に反対側の腕や俺の膝には三人の少女がそれぞれ抱き枕代わりにしがみついている。


「むにゃむにゃ……おはようございます……」

「まだもう少し……眠い……」

「うーん……はっ! アリサ! ユズハ!」


 最初に目覚めたウタが状況を把握したのか、俺の顔を見るなり赤面して残りの二人を起こしにかかる。


「ほら起きて! おじさん先に起きちゃってるよ!」


 おじさんって事はおっさんからはランクアップしたのか……それにしてもラストが昨日から俺がそういう呼ばれ方をする度にもの凄い殺気を放っているのに気がついていないのか?


『頼むから手を出すなよ……』

「しかし主様、私からすれば全然十年前からお変わりないようにしか……」


 そりゃ社畜時代は伸び放題だった髭を剃っていれば少しは若く見えるだろうよ。


「ふぁああああ……よく寝た……あっ」

「お、おはようございます!」


 なんかアリサに至っては俺のコートによだれまで垂らしていたようで、焦って起きた拍子にびよーんとよだれが口から伸びている。


「……全く」


 しかし昨日のように起きたらいなくなっていた、なんてことが無かったようで良かった。全員がここにいるなら、別にコートが多少汚れたくらいはどうでもいい。


「さて、と」


 衣服についていた草や葉っぱを払いのけて立ち上がり、軽く背伸びをする。

 朝になったしガレリアへはまだまだ道中長い。この調子で歩きだと軽く見積もってもあと二週間は――


「……まずいな」

「何がまずいのでしょう?」


 俺の独り言を聞き取っていたラストが、不安げに俺の顔を覗き込む。


『いや、このままだと別の予定に支障が出てしまうと思ってな。やはり【転送トランジ】を使って急いで戻ろう』


 前回は警戒されていたが、今ならこの提案も受け取って貰えるはず。

 俺はステータスボードから取り出しておいた携帯食を食べている三人の方へと向かうと、三人に改めて提案を行う。


『ちょっと聞いてくれ。このまま冒険を続けたいかもしれないが、やはり転送魔法で急いで移動しなければ――』

「うん、いいよ」

『そうか――って、結論出すの早いな』


 一番ごねると思っていたユズハの方からあっさりと快諾を貰ったわけだが、残りの二人はどうだろうか。


「私も、ユズハちゃんが行くなら一緒に行く!」

「私も賛成。昨日みたいな危ない目に遭わないとも限らないし」

『そうか。なら食事が終わったら転送の支度をする。ラストも準備しておいてくれ』

「承知しました」


 結局三人はこちらで保護する形になるわけだが……ここまで予測してシステマは俺に依頼したのか? 別に構いはしないが、問題はこの三人を今後どうするかだ。


『ギルドに置いておくのは……いや、あまり良くないな』


 三人ともそもそもネットゲーム自体が不慣れな気がする。


「というより、前作で高校生の癖にギルド幹部やってたキリエの方が特殊なだけか?」


 思わず独り言を呟いてしまったが、そういえばキリエは十年後ということで今だと丁度社会人三年目になるのだろうか。というより俺と同じでこの世界にログインしていたりとか、可能性はゼロではなさそうに思えるが……。


「……いない人間の事を考えるだけ無駄か」


 今はシロさんと俺と、残りの新しい幹部(NPC)でギルドを切り盛りすることに考えを纏めておかなければ。

 そういった考えごとを巡らせながらも、三人が日持ちするパンを食べ終わったのを見計らって俺の元へと呼び寄せる。


『よし、全員忘れ物は無いな?』

「忘れ物も何も、何も持たされないまま放り出されてるっての」


 そういえばそうか。着ているものといえば一般的な市民が身につけていそうな少しぼろいシャツとズボンという貧相な装備。本来ならば最初の町でもう少しまともな装備が貰える筈だが、その課程をすっ飛ばしているから仕方ないか。


『【転送トランジ】で直接レリアンに飛ぶ。任せたぞ』

「このラストにお任せを」


 三人を近くに寄せて、ラストに魔方陣を展開させる。するとやはり初心者らしく、魔方陣の出現に驚きを隠せず、目を見開いている。


「おお……すっげー。なあ、あたし達もこんなことできるのか!?」

『まあ、その……鍛錬すればな』


 今から向かうのは魔法よりも剣術をメインとする国だとはいえず、俺は言葉を濁したままに三人とラストと共にレリアンへと転送されていった。

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