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プロローグ ゲームのあるべき姿

「――この街の復興、ギルド人員のかき集め、そして何よりも更なる地位と名声が必要……中々に課題が山積みではありませんか」

『そうだな』


 そういえば俺のデスクの上に山積みとなっている資料は今頃どうなっているのだろうか、という考えが頭をよぎるが、そんなものこの世界ゲームにおいてはどうでもいい話だ。

 侵攻戦から翌日。元レリアン領主の家をそのまますぐに改装へととりかかり、今となってはギルド“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”のアジトとして役割を果たしている。そして建物内の会議部屋にて、俺とシロさんが向かい合って椅子に座しているところから始まる。


「まさかこの世界が、第二の世界に成り代わるとは……」

仮想現実(VR)が、現実に割り込んでくる……面白いことを考えているようだな』


 シロさんを潜り込ませての侵攻戦にて、冥土の土産にとバトラが発した言葉。それはいまだ俺達二人にとって共通の議題となり続けている。

 その意味を要所だけを纏めれば、こう意訳することができる。

 ――仮想世界(ゲーム)が、現実世界のひとつになろうとしている、と。


「……ジョージさん的には、どう思います?」

『何がだ?』

「現実世界とこの世界、貴方ならばどちらを重視しますか?」

『それは勿論――』


 ――というところでキーボードを打つ手が止まる。そしてそれをシロさんは見透かしたかのように、更に畳みかけるように言葉を続ける。


「確かに必ずしも現実世界における自分自身が、この世界よりも素晴らしい地位や身分にあるとは思えません。ボクとて現実には金融業に務めていましたが、本当に現実世界むこうが充実しているのであれば、このような息抜き(ゲーム)の類いなど必要ないと考えて当然です」

『……一体何が言いたい』


 たまにこの人は深い意味を含んだ持論を述べることがある。確かに俺達が生きている世界こそが現実で、この世界はあくまで仮想現実(VR)であり、現実ではない。しかしそれがどうしたというのか。

元々俺が十年後になってもこの世界ゲームにいる理由は、たった一つだけ。


『あんたがどんな風に俺のことを思うかは知らないが、先に一つだけ言わせて貰う。俺はラストに再び会うためだけにこの世界(ゲーム)に飛び込んだ。それだけだ』


 元々は百年後の世界(ゲーム)でラストがどうしているのかを確認したかっただけのつもりが、いつの間にか大きな陰謀に触れてしまっている現状。しかしそれでも俺は変割るつもりはない。

 ――ラストと一緒にこの世界(ゲーム)を生きるだけだ。

 しかしシロさんは特に驚愕する様子もなく、ただ口元に手を当てて苦笑をしている。


「クスクス……そんなこと、お二人の様子を見れば分かりますよ。ボクが言いたいのは――」


 そんな我々にとって大切な世界(ゲーム)にまで、素知らぬ顔のまま土足で踏み込んでくる屑共を屠り去りたい、そう思いませんか?


「――ということです」

「…………」


 この人は笑顔のまま過激な言動をかますことが稀に良くある。だが、その意見には賛成だ。


『確かにな……こっちの世界に同じ資産価値を持たせるとか二つの世界を両立させるような都合のいい話を述べてきているが、あいつらは何も分かっちゃいない』

「ええ。ゲームにはゲームにしかない矜持というものがあります。まずはそれを身をもって学習して頂かなくては」

「そうだそうだー! もっと言ってやれー!」

「ん? げっ!? お前は!?」


 思わず素で嫌がる声を挙げてしまっては、煽りに来た少年に唖然とした表情を向けられてしまう。


「システマ……この話を知ったボク達を消しに来ましたか?」


 そういえばこの話、一部の人間しか知らない筈の話だったか。となるとシロさんがそう考えるのは至極当然。

 しかし俺達が考えていた展開とは全く真反対の反応を目の前の世界ゲーム管理人は示している。


「イヤイヤ、どっちかといえばミーはユー達と同じ考えだヨ! ゲームは楽しいものだし、確かにもう一つの現実世界になるとかはミーも考えてるし面白そうだけド、そこに仮想通貨だとかビジネスの面白くもない話を突っ込んでくるなんてサ!」

『だがそんな奴等に協力を依頼したんだろ? それも本来ならばかなり苦労してレベルアップしなければならないところを、楽に100レベルもくれてやって』

「うっ……そこはまあ、この世界ゲームを更にアップデートするための取引だから仕方ないということで」


 そうしてシステマは苦笑いを浮かべているが、すぐにまた少年のような朗らかな表情に戻り、無作法にも会議室のテーブルの上に立って俺とシロさんとを交互に見やる。


「そして残念なことにミーは運営側――管理人(ゲームマスター)であって、神じゃない。神ならば一方に肩入れしようが問題ないけド、GMが一人のプレイヤーを贔屓するわけにはいかない。つまりユー達がバトラを倒したとしても、それはあくまでゲームに則ってのことでミーは何も罰することはできないし、バトラに再びアドバンテージをあげることもできない。あくまでゲームは平等に、だからネ」


 それはつまり、遠回しにこう言っているともとれる。俺達がこの先奴等をいくら始末しようが、管理人システマは手を出さないということだ。


「まあそれとは別に、ユー達が一生かけても楽しめるようにアップデートは続けるし、そしてこのゲームはクリアさせないけどネ。それこそ、この世界が現実世界と思ってもらえるくらいに」

『前回も二年かかったんだから、今回もたっぷり楽しませて貰う。それだけだ』

「ウンウン、管理人として期待に応えたいひと言だネェ!」


 一人のユーザーとして満足の得る答えだったのか、システマはにんまりと笑顔のままで、その場から姿を消していった。

 一日空きましたが、新編突入です。プロローグはシリアスな話となっていますが、全体としてはギルドの名声を上げるために主人公が東奔西走する話です。

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