エピローグ Break A Order
荘厳な内装。国のイメージカラーでもある青を基調とした、上品でありながらも決して奢りを見せつけない装飾、それが初代剣王の提示した城内のつくりであり、今にも続く伝統となっている。
特に剣王が客人を正式に応対する時に使う謁見の間は、職人によって丁寧に仕上げられている。そして似合わない足の組み方で玉座に座っている者こそが――ベヨシュタット三代目剣王である。
『玉座で足を組む王などと……俺はここを拳王の国と勘違いしてしまったか?』
「いえ、あの不躾な男が三代目だそうですよ。一応」
この謁見の間、両脇が二階建てとなっていて手すり越しに下をのぞき見ることができる。元々はここから護衛が部屋を見張るという役割もあるのだが、今回俺達が使っているのは、まさに国王の姿をのぞき見るというその一点だけ。
『それにしても、本当に俺達がここにいても大丈夫なのか?』
「ええ。ボクの方は一回直接剣王と話をしたので」
『つまり今の王と繋がりは一応持てているということだな?』
「そうなりますね。百年前の功績ですが、出入り自由にしてくれているのはこちらにとって随分都合が良いものです」
相変わらずこの人はちゃっかりしている部分があるからな……個人的に敵には回したくないリストの五本指に入るだけのことはある。
『それで今回のギルドの功績報告は誰に任せている?』
「エニシさんですよ。彼。交渉系のスキルに極振りしているようですので。現実で営業職をやっているだけあって、その話術は折り紙付きです」
下を覗き込むと、いつものごとく営業スマイルのエニシが剣王の前でうやうやしく膝をついて頭を垂れている。早速この世界の礼儀ともいえるものを身につけているのか、王の前に立つ者として相応しい立ち振る舞いを見せている。
『それともう一人、お願いしていたはずだが』
「ええ。ガレリアの領主として二代目刀王を推挙する話もつけています」
噂話をすればなんとやら。例の二代目刀王、ティスタがこれまたエニシの隣で膝をついている。その姿はいつも俺達に見せているような間の抜けた姿ではなく、刀王として相応しい雰囲気を醸し出している。
『フン……やればできるじゃないか』
「さて、下は下で上手く行っていることを願いつつ、我々は我々の準備を早急に進めないと」
『そうだな。大規模戦闘に気を取られていたが、期限ももう折り返しまで来ている』
システマから聞き出した話によれば、一ヶ月先行の体験版の後、本編が大々的に発売されるようになっているらしい。その時には多くのプレイヤーがこの世界に引きずり込まれることになるとの話だが、果たしてどのような手立てで多くの人間を巻き込んでいくつもりなのか。
そして現在、その多くのプレイヤーの受け皿を作るべく俺達はギルドの規模の拡大を図っている。ガレリアの地をとるのに二週間もかかってしまったが、逆に考えればガレリアを中心にギルド活動が可能となることになる。
「活動拠点としてガレリアの地は優秀といえますからね」
『だが代わりにテクニカに狙われ続けているのも事実だろう? それを本当に大丈夫なのか?』
俺がガレリアの領主にティスタを推したのには大きく理由が二つ。一つ目はこのテクニカに狙われているという点から、領主に刀王を据えておけば早々に攻められないという期待が一つ。
もう一つは……担ぐ神輿は軽い方が良いということが理由になる。
「……それよりも最終目的の一つとして、今の三代目を隠居にまで追いやることですが――」
『分かっている。だが黒幕は違うだろう?』
俺もシロさんも、バトラという男のおかげでこのことに気がつくことができた。
――あんな下っ端みたいな輩でもあれだけの好待遇を受けているのであれば、もっと上の待遇を受けている者がいる筈、と。
「恐らく、あの側近でしょうね」
『ああ。俺達が本当に始末をつけるべき存在はそいつだ』
玉座に座る王の隣に立つ男。“相談役”という立ち位置らしいが、俺達に取っ手はどう考えてもこう捉えることしかできない。
――この世界において甘い汁をすすり続けているプレイヤーの一人だと。
『いずれ殺す。必ず殺す』
「おやおや、随分と物騒ですねぇ。ここでそんな話をしていては、誰に聞かれるか分かったものではありませんよ」
『聞かれようが構わない。いざとなれば今すぐにでも纏めて斬り殺す事くらい容易い』
だがここで剣王を斬ったとて反逆者としか思われないだろう。剣王が始末されても仕方がない、クーデターの大義名分と民衆からの支持を受けておかなければならない。
「その為にも我々以外のプレイヤーが必要ですね」
『できれば今でもベスかグスタフさんでもいれば良いんだが』
「その口ぶりですとイスカさんとキリエさんはそこまで期待していないように聞こえますが」
『あの二人も十年もしたらいい年になるだろ』
「ではベスさんは?」
『ベスは……まあ一応、“無礼奴”のメンバーだから、かな』
昔話にすがりついていても仕方がない。そう思っていてもシロさんと二人きりだとそういう話になってしまう。
「……ですがまぁ、四人を再び迎え入れた時に、落ちぶれたギルドは見せられませんからね」
『そうだな。今の俺達にできることはとにかくギルドを大きくすること、ただそれだけだ』
そうして俺はフードを深くかぶり直し、手すりに背を向けてその場を立ち去る。
「おや? どこに行くつもりですか?」
『昔話をしていたら、身体が疼いてきた。ただそれだけだ』
やはり俺は、何年経とうとこの世界がたまらなく好きらしい。
『ラスト!』
「はい、こちらに!」
ここにきて改めて俺は、彼女の姿を頭のてっぺんから足先までじっと目線を送る。ラストはまじまじと見つめられていることが少し恥ずかしいのか照れている様子を見せ、そして俺はその反応を前にして、改めてこう思った。
――確かにこれはゲームの中のお話で、仮想世界に過ぎないのかもしれない。だが俺にとってラストは確かにそこにいて、生きている。
「俺には、それだけで十分だ……」
「? 何かおっしゃいましたか?」
『いや、何も。それより早くも次の冒険がしたくて、身体がうずいてしょうがない。これからちょっとばかり近くのダンジョンに潜る。お前もついてこい!』
「勿論です! 主様とならばどこへでも!」
そうやって腰元の刀に手を添えながら、俺は城下町を駆け出していく。次への冒険に身を投じていくために――
これにて序章は終わりとなり、物語も一区切りとなります。ここまでで十万字行くとは思っていませんでした(・ω・;)。これから先も楽しめるような展開を作っていきたいと思いますので、応援や評価を頂ければ幸いです。ここまでご愛読頂いた読者様方へ、多大なる感謝を。




