第六節 辿り着いた先にあるもの 6話目
「――片付きましたね」
『ああ。後は外の残党狩りに出る』
黒刀から血がしたたり落ちる。俺は軽く振って血をはらうと、腰元の鞘へと再び刃を収める。
硬直したまま玉座に座するは首の無き領主。それはこのレリアンという地が陥落したことを知らしめるには充分だった。
「主様、とうとうこの地を奪い取ったのですね」
『ああ。それと黒刀だが、またお前に返しておく。代わりにまた蝦蟇野太刀を』
「はい。こちらに」
ラストから再び蝦蟇野太刀を受け取ると腰元へと挿げ直し、そして今回の協力者の方へと体を向ける。
『……立てるか?』
「俺のことはいい……それよりも、そいつらを……!」
自分の命よりもバトラの凶弾によって倒れた試作一号、そしてゼロ号の方を心配する技術者は、銃弾を撃ち込まれ、体液を漏らすホムンクルス達の元へとはいずりながら近づいていく。
「頼む……助けてくれ……」
『……回復薬があったはずだ。ラスト』
「はい。こちらに」
ラストから薬を受け取ると、俺はクロウの望み通り試作一号、そしてゼロ号に先に薬を飲ませる。
「うぅ……」
「出血によるスリップダメージが酷いですね……人造人間とはいえ薬を飲ませたから少し延命できるでしょうが、それでも本格的な治癒法がないと」
シロさんの方もクロウに回復薬を渡して動ける状態までに体力を復活させると、クロウはすぐに試作一号の方へと駆け寄って抱き起こす。
「一号! それにゼロ号! ……くそっ、培養液とポッドを用意しないと」
『それはレリアンにあるのか?』
「ある。が、お前達が爆破した」
あー……そういうことか。武器庫にあるってことか。
「制作はどうでしょう?」
「できないことはない。だがすぐには――」
『ひとまず応急治療はできるはずだ。ホムンクルスといえど人間と同じように体液が漏れ出ることは防げるはず』
こっちの世界でも俺達人間は出血などの状態異常に対し、時間経過による自然治癒というものである意味対処できる。しかしホムンクルスは違うようで、耐久力による自然治癒の促進などは一切無いようだ。
「こいつの皮膚は培養液からでしか生成されない。つまり出血などの傷が残るようなダメージは全てポッドに漬ける必要があるんだ」
「要領は分かりましたが、しばらくの間は回復薬で間に合わせるしか――」
「無理だ」
シロさんの言葉を遮るように、クロウは諦めの言葉をつぶやく。
「今すぐ培養液を用意できないと、こいつら二人とも死んじまう」
ここでシロさんが俺の方をじっと見ているが――爆破するのを指示したのはあんたの方だろうが……。
『……過ぎてしまったことはしょうがない。また造れば――』
「“また”だと!? お前は引き連れている戦術魔物を、また取りに行けばいいからと見殺しにできるのかよ!?」
「――っ!? ……すまなかった」
……ああその通りだ、簡単に諦められるものじゃない。俺自身がなぜこの場に立っているのか。その理由がまさにその通りだからだ。
『軽率なことを言って悪かった……だが現実問題、この状況をどうする?』
「オ、オデヲ……」
「っ!?」
「オデノ、チヲツカッデクデ……」
「なっ……何を言い出すんだゼロ号!!」
培養液を漏らすわけにはいかない――しかしゼロ号は、地面を這いずりながら一号の方へと向かっている。
「オデノチナラ、イチゴウヲ……」
「でも、そうなったらゼロ号、お前は――」
「イインダ……」
本来ならば、普段であるならば――もっと楽しくて、心落ち着ける場所で見せるはずの笑顔が、今はただ創造主の為に、その背中を押すために向けられている。
「オデハ、イツデモ……イチゴウト、イッショニ……」
「……輸血管の用意をする」
「クロウさん、それは――」
「いいんだ。これは……ゼロ号が初めて、自分で決めたことなんだ」
AIとして――だがそれは確かに、ゼロ号の意思として、確かに紡がれた一つの答え。
そしてそれは俺がラストに感じたものと同じ――人工知能として、NPCとしての筈が、そうとは扱えない想いと重なる。
『……クロウ』
「ん?」
『ゼロ号は確かに、立派な奴だった』
「……ああ。俺が今後作ることができないだろう最高傑作であり、最高の子供だ」
そうして輸血管が繋がれるのを見届けた俺は、この救命活動が邪魔されないよう外の残党狩りへと出ることに。
「では、クロウさんはここに残るような形で?」
『そうだな。クロウはここで待っていてくれ。後は俺達が、すべてを終わらせる』
「……分かった。お前たちも気をつけろよ」
そうして俺はクロウを置いて、外へと走り出す。
「主様、私が先行してもよろしくて?」
『構わない。行くぞ――』
◆ ◆ ◆
此度の掃討戦は、そう長続きしなかった。最初の一手で武器庫と車庫を破壊され、僅かながらも装備で迎え撃つもドワーフ達による無差別爆破、そして――
「抜刀法・参式――霧捌ッ!」
「ブレイドダンス・アサルト!」
敵を倒して回っている内に互いにどちらのキル数が上かという無意識の勝負をしてしまっていた俺達は、あらゆる技を駆使して数を競り合っていた。
『相変わらず、複数集まっていたら両剣の方が有利か!』
ブレイドダンスという名前の通り、バトンを振り回すかのように両剣を軽々と回転させながら振り回し、辺り一面を丸鋸が通ったかのように切り裂いていく。
「そっちの方こそ相変わらず辻斬りまがいのことをして、移動しながらキル数稼げるのはずるいかと思いますよ!」
そして俺も抜刀後すぐさまに刀を振り回しながら突進を仕掛ける霧捌という抜刀法を使って次々と敵を薙ぎ倒していく。今回は蝦蟇野太刀のおかげで炎が付加されており、その破壊力は建造物を巻き込む形で増している。
『念の為、予備の蝦蟇の油を用意しておいて良かった』
俺達の戦法を踏まえた上で敵も考えてのことか、屋根の上から銃撃を仕掛けてきたり、あるいは僅かに残ったロボットを使って俺達を迎え撃ったりと反撃している。しかしそれらも全て焼け石に水。
「くっそぉ!! 何だってんだよ! 攻めてる側がいつの間にか防衛に回ってるなんてどんな悪い冗談だ!?」
『冗談で済んでいると思うか? この状況が』
車両のハッチから半身を乗り出しながら悔しがる男を通りすがりに斬り捨てながら、俺は更に街を駆け回る。
「おう! 大将!! もう領主の首は取ったのか!?」
「師匠! ご無事だったのですね!」
『随分とあっけない形だったが、レリアンの総大将は俺が殺した』
途中同じように抜刀法で戦場をかけ回るキョウとティスタと広場で合流すると、彼らを追っていたテクニカの兵士がそれを取り囲むようにして続々と姿を現わす。
「絶対にこの包囲陣を崩すな!! 誤射で味方を撃ってしまっても構わない、この場で全員倒せ!」
「うぉおおおおおおおお!!」
「うお!? こりゃまずいな!」
「ああ、確かにまずい。だが……」
俺はこの野太刀のような属性が付加される刀を使うことで、一部の技が更に凶悪な性能へと変貌することを知っている。
そして今が、それを使う時だ。
「『お前達、伏せていろ……』 抜刀法・参式――」
「やべっ!」
「ッ!?」
技の危険性を本能で感じ取ったのか、あるいは知識で理解したのか。いずれにしても二人がその場に膝を折ってしゃがんだ瞬間――頭上を刃が通り過ぎていく。
「――飢刃乱舞!!」
無数の斬撃が周囲に襲いかかり、敵はおろかその背後にある建物にまで焼き切ったような斬撃跡を残していく。
斬撃と共に発生する熱風によって壁に叩きつけられた兵士達は、そのまま起き上がることなく死亡していった。
「あっぶねー……」
「凄い……私も精進を重ねれば、こんなことが……!」
周囲の惨劇に息を呑む二人だが、俺に取ってよくある光景でしかない。
『そろそろ殆どがしまいだろう。シロさんと連絡を取って、集まろう』
遂に勝ちどきをあげる時が、やってきた。
俺達が、“殲滅し引き裂く剱”が再び栄光への道を歩み始めた――
これにてレリアン侵攻戦は終わりとなり、後は少しエピローグを挟んで次の大きなお話へと進んでいきたいと思います。今のところ予定としてはギルド強化および地位や名声の向上のために主人公が走り回る話となりそうです。