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第六節 辿り着いた先にあるもの 5話目

「まさか貴様のような前作の英雄と呼ばれる男を取り押さえることができたとはな。それにしても随分とお粗末じゃないか」

「フフフフ、今のところ返す言葉もありませんね」


 拘束されている身でありながら、余裕の表情を崩すことなく応対するシロを、バトラは気にくわないといった表情で今度は脅しにかかる。


「何を根拠に強がっているかは知らないが、この後お前は処刑される。これはベヨシュタットにもすぐに伝わるだろうし、意味の理解できるプレイヤーは即座にベヨシュタットを離れることになるだろうな」


 この言葉からしてバトラという男もまたプレイヤーなのだということがうかがえる。しかしながら前作を囓っているプレイヤーではないと、この時点では理解ができる。

 前作における“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”の功績を、悪名を知っている者であるのならば、この時点でシロの話を聞くまでもなく殺しにかかっているはずなのだから。

 それをわざわざ興味本位で対話をしているこの男、果たしてそれだけの実力があるのだろうか。しかしながら相変わらずといって良い程にシロはそんな男を前にして笑みを一切消さずにいる。


「そこまでボクをかってくれるとは、ありがたいことですね」

「むぅ……お前本当に今の状況を理解できているのか!? お前はこの後、処刑されるんだぞ!!」


 対するバトラは苛立ちを募らせたのか、ついにはシロに対して大声をあげて罵倒を始める。


「俺はな、貴様等のような単なるゲームをするだけの穀潰しとは違うのだよ!! 俺はこの世界ゲームの構築の一端を担った会社の社長だぞ!?」

「……ほう」


 ――ここに来て初めて、シロさんの笑みが崩れた。それはバトラという男に恐れを成したからではない。バトラの言葉に、相手に対してここで初めて興味を持ったからだ。


「そのような人間が、何故わざわざ前線に来ているのです?」

「……良いだろう。死にいく人間に答えたとして、何の問題もあるまい……フンッ!」

「がはっ!?」

「あ、兄貴!?」


 シロさんに対しては聞かせても良かったのだろう。しかしクロウには聞かれる必要は無いと、腰元に挿げていたのであろうリボルバーでクロウを躊躇なく打ち抜く。


「ぐああっ……!」

「残念ながらこの話を知っておいて生きていていい人間などいないのでね。お前もついでに死んで貰う」


 それまで大人しく座っていたホムンクルスの内、ゼロ号が主人の危機に立ち上がってバトラの方へと走り向かう。


「オ、オデヲツクッテクデダヒトニ、アニギニナンテコトスルンダ!!」

「っ、よせ! 止めろー!!」

「全く、これだからはバカは嫌いなんだ」


 ドン、ドン、と空間を割るような銃撃音が鳴り響くと、ゼロ号は体から赤い液体を垂らしながら再び片膝をつく。


「ガ、ハッ……!?」


 拳銃たった二発で動きを封じるあたり、このバトラという男、それなりのレベルがあるようにうかがえる。

 そしてそんなゼロ号を見て、更に怒りをあらわにするものが一人。


「兄弟! くっそー! 兄弟までやりやがったなー!」

「ま、まて! 一号! お前まで手を出すな!!」

「こいつは兄貴も、兄弟もやりやがったんだ! ゆるさねー!!」

「馬鹿なガキだ。今のを見ても何も理解できなかったか?」


 ――さらに追加で三発の銃声が鳴り終えたころには、一号もまたその場に倒れ伏していた。


「き、きょうだい…あに、き……」

「くそっ! くそぉ!!」

「……それで? ここまでして聞かせたい貴方の自慢話とは?」


 シロさんも内心、相当に鬱憤が溜まったであろう。しかし彼は我慢をして平静を保ちつつ、情報を引き出そうとしている。

 そしてバトラは遂に、この世界ゲームの存在意義の一端について、大口を開いて話し始めた。


「……金本位制、そして管理通貨制というものを知っているか」

「ええ、金融業界に勤めているものであれば知っていて当然かと」


 金本位制とは、過去にあった金に関する制度のことだ。世界に流通している貨幣の価値を金と等しくすることで、ただの紙切れにそれだけの価値を付加すれば、当然人々は貨幣を使ってものを売買するだろう。ただし世間に流通する貨幣は、あくまでその元手である金と同じ価値分だけしか流通させない。それが金本位制。

 対する現在は、世界中にある金をかき集めた価値を上回る貨幣が世界中に流通している。人々は金と同じだけの価値があるという各国の信用の元発行された紙幣に価値を見いだし、それを使って取引を行っている。このことを確か管理通貨制度といった筈。

 ここまでは俺でもなんとなく理解できるが、それが何故ここで出てくるのかは理解できずにいる。


「それと仮想通貨、ゲーム的に落とし込むとするならR(リアル)M(マネー)T(トレード)。ここまでキーワードを並べればおおよそ察することができるか?」

「……成る程。随分ととんでもないことになってきましたね」


 どうやらバトラとシロさんとの間では通じ合っているようだが、それ以外の外野にとっては相変わらず蚊帳の外といった状況。

 そんな中でバトラはこの世界ゲームの存在意義を、そして何故大金を持っている俺やシロさんにお金をそう簡単に動かして貰っては困るのか、その理由を語り始める。


「――この世界ゲームはいずれ第二の現実世界として、価値を産む世界へと変貌する! お前たちが何気なく集めているこの世界の通貨がそのまま、仮想通貨として使えるようになるというのだよ!!」


 理屈としてはこうだった。現実世界とは違う、ある意味異世界とも呼べるこのゲーム空間を、システマ率いるプログラマー達はプレイヤーが現実さながらに生活を実感できるレベルになるべく、ここから更に開発を進めているのだという。

 その開発期間中で現実世界の多くの会社にシステマ達が持ちかけてきたのが、現実世界への反逆(リベリオンワールド)計画と呼ばれるものだという。


 ――つまりはこのゲームの世界を地球上に誕生した新たな仮想国として、できる限りの現実味リアリティを持たせることで現実世界の経済に干渉させようということか。


「そんなことをすれば、現実世界の経済がどうなるのか予想もつきませんね。少なくともボクのような大金を持っている人間もこの世界に多くいるでしょうから、最初は仮想通貨と言っても鼻で笑われそうな扱いをされそうですけど」

「無論、それを踏まえてこちらも動いているし、いずれお前たちの持つ仮想通貨も調整という意味も兼ねて我々の懐に、資産として入る予定だ……それにしても、本来現実でせっせと仕事をしてようやく僅かな賃金を得ているところを、この仮想世界の中だと一攫千金! 億万長者になっている可能性があるとはなぁ。随分と夢のある話じゃあないか」


 お前たち下民はゲームをしているだけで金を稼げて楽でいいな、と皮肉を言われているようだが、こっちはそのゲームをクリアするつもりで、この世界で培った全てをかけて死ぬ気で真っ向から立ち向かっている。

 決してお前らのように、金の為だけにやっているわけではない。


「そしてこれらはまだ計画の一部に過ぎないが……これ以上は言えないなぁ、言えないねぇ。言ったら多分、俺が消されるだろうからねぇ」


 ただでさえ現実世界を混乱に陥れるような計画を立てている上、俺たちのようなまっとうにゲームに挑んでいるプレイヤーを小馬鹿にするような発言。

 もはや、これ以上は聞く価値もなさそうだ。


「そうですか……しかしながらご安心を。システマが消さなくても、我々が貴方を消しますから」


 ――そしてシロさんの方もまた、これ以上話を聞く気はないようだった。


「その手錠で拘束された状況で? 一体何ができるというのだ? たった一人で――」

『確かに、たった一人だと何もできないだろうな』

「何ッ!?」


 様子を見て俺の方から闇討ちを仕掛けてやろうかと思ったが、中々興味深い話を聞くことができた。後は本来の目的であるガレリアの占領さえできれば、今回の作戦は終了となる。


『それにしても中々面白い話だ。現実世界への反逆(リベリオンワールド)などと、中々皮肉じみた名前だ』

「おっ、お前はまさか!?」

『シロさんを知っているって事は、俺も知っていて当然だな』


 そして――ポチッとな。


「ッ!? 何の音だ!?」


 これ見よがしにスイッチを押したが、今頃武器庫や車庫が火柱を上げているだろう。足元から地響きが伝わると共に、フードの奥でニヤリと笑う俺やいつもの営業スマイルを取り戻したシロさんに対して、バトラはようやくここで自分が大きな失態を犯したことを自覚する。


「貴様等、俺をコケにしやがって!! 俺を誰だと思ってやがる!! この世界の一端を作り上げ(プログラムし)た会社の社長だぞ!! お前達などシステマに頼めば――」

「ミーを呼んだかな?」

「っ! よく来た! 流石は開発われわれ側のAIだ!」


 ここぞとばかりに姿を現わすシステマと、それにすがりつくバトラ。しかし俺やシロさんは知っている。

 ――そいつは、ゲームに関しては異様なまでにフェアだということを。


「システマ! こいつらを消去(コロ)せ! 俺はこの地位と引き換えにお前の手伝いをしたはずだ!!」

「うんうん。確かにその地位とレベルは開発支援と引き換えにあげたものだヨ。……ただ、いくらこっち側だからって、プレイヤーとして存在している以上、この世界ゲーム摂理ルールは守って貰わないとネ」


 ――死亡(ロスト)した者は記憶も含めて全てを失い、リセットされるというただ一つの現実ルールを。そしてシステマはプレイヤー同士の戦い――PVPにおいて一方に加担することは決してないということを。


「ああ……あああ……! そんな……俺は……何のためにここまで尽くして……」


 その言葉の意味、そしてこの状況をようやく飲み込めたバトラは、膝からガクリと力なく崩れ落ちる。


「……さて、あの男のレベルはちょうど100ですし、それなりの経験値になるのでは?」

『シロさんは良いのか? 同時攻撃で経験値を分け合った方が――』

「ボクは既に127まであげたので構いませんよ」


 相変わらずいつの間にかレベル差つけてくるよなこの人は。

 俺は『それじゃあありがたく』とひと言告げると、腰元に挿げていた黒刀をバトラの目の前でゆっくりと引き抜く。


『外は既にドワーフ共が爆弾を至るところで爆弾をばらまいて発破している。それに逃げ出す者は全て俺達のギルドの者が狩り尽くしているだろうよ』

「や、止めてくれ! そ、そうだ!! 金だ! お前達の侵攻戦の報酬の二倍を支払ってやろう!!」

「お金なら前作から引き継いでいるので必要ないかと」

『そうだな。この先仮想通貨になるにしても、既に十分な資産を持っているし』

「な、ならば地位をくれてやる! そ、そうだ!! 今からでも遅くない! テクニカの械王に俺が掛け合ってやる! ベヨシュタットなどという崩れかけの国よりもいいポストを用意してやる!! だからお前も俺たちと同じ支配する側に回ろう! な!?」


 残念ながらその言葉は俺の神経を逆なでするだけで、逆効果なんだよな。


『悪いが俺は初代剣王から刀王の称号を貰う程の恩義を受けている。その恩義に反する程――』


 ――俺はお前のように落ちぶれてはいない。

 実は今回最初は三人称の文で、途中から主人公であるジョージの一人称の文章になっているのですが、どこからかは文をよーく見ていただければ察することができるかと思います。

 そして次回でようやく大きな話の一区切りとなり、そしてジョージ達の背後にある大きな計画の一端など、伏線を蒔けたと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。続きを読みたい、または作品に更に興味を持って頂けたのであれば、下の欄より評価を頂ければ幸いです。

(´・ω・)<作者にとって励みになります。どうかこれから先も、本作品を応援して頂ければ幸いです

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