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第六節 辿り着いた先にあるもの 4話目

「初めてですよ。市中引き回しなんて経験するのは」

「そりゃそうだろうよ。俺達の世界ですらこんな古典的なことは過去の産物だからな」


 装甲車のハッチから上半身を晒しながら、ニコニコとした表情を一切崩さずにいる。周りからすれば異様な光景だっただろう。

 本来ならばロストすることへの悔やみから下を向く、絶望の表情を浮かべるところを、シロという男は一切の絶望もなくまるでここからまだ助かるとでも勘違いしているかのように余裕の表情を浮かべている。

 そうして街の中枢へ装甲車をゆっくりと進めていると、前方を二人の兵士が足止めをしている。


「捕虜を降ろしてくれ。装甲車を預かる」

「どこに持って行くつもりだ?」

「どこって、車庫に入れるだけだが。捕虜はここから歩かせる。何か問題でも?」

「オッケー、問題ない」


 確かに問題ない。俺達にとっても。


『ラスト。俺達は一旦装甲車の方を追うぞ。下手に整備されそうになったら即座に潰しにかかる』

「承知しました」


 本拠地はシロさんが落としてくれるだろうが、早めに潰して合流を急ごう――



          ◆ ◆ ◆



 ――装甲車から無理矢理降ろされれば、彼がシロと呼ばれるもう一つの所以が理解できるだろう。

 真っ黒な暴君が着こなすタイラントコートとは対照的な、聖人君子が身につける真っ白な装備、その名もセイクリッドコート。こちらは全属性耐性がそこまで高くないものの、タイラントコートとは対照的に圧倒的な基礎防御力(DEF)を誇る代物。レアリティレベルはタイラントコートと同じ118だが、このコートと同列に語れる防具はそうそうに存在しない。

 そして現在試作一号と呼ばれるホムンクルスに没収されているが、彼を象徴する剣として、グリップの両側に刃が備わっているという普通の剣とは異なる両剣、その名も緋蒼剣という装備がある。これは前作における最高レアリティである120を誇る代物であり、過去にはギルドメンバー総出で取得に向かったという記憶もある。

 刃の部分は清らかさを示すかのように真っ白でありながらも、片側ずつにそれぞれ緋色と青色のオーラを纏っている。元々の刀身に宿る聖属性、更に炎と氷の二つの属性を重ね持つという多重属性装備の中では最多クラスの三属性を持つ伝説の武器である。それをホムンクルスの少女は知ってか知らずか雑に持ち歩いているわけで、シロという男が内心どう思っているのかは気になるところでもあるだろう。

 そうして更に進んでいくと、広場へと街道が繋がっていく。そこにはガレリアを治める領主が新たに立てたのであろう、仰々しいまでに巨大な建物が建てられている。


「ここがバトラ様の住まう建物だ。会議場も内包しているからそれなりの大きさだろう」

「確かに大きいですね。ここに例の領主様がいると」


 傍目に見れば、その会話はどのように聞こえたのであろうか。捕虜との会話にしては、随分と打ち解けているようにも思われたかもしれない。

 ――事実として、打ち解けているが。


「こっちだ」


 手錠に着いた紐で建物の方へと引っ張られながらも、シロはふと辺りを見回す。見渡す限りでは特に侵攻を受けた傷跡は見えず、代わりにテクニカらしく道端を機械が作業をしていたり、石畳で舗装された道路を車が走っている光景が目に映る。

 その後もクロウに引っ張られるがままに建物内部へと足を踏み入れることになり、ついて行くにつれてこの土地の領主へと近づいている事への証左なのか、妙な緊張感が廊下の奥から肌にひしひしと伝わってくる。


「先に連絡は入れてある。後はしくじるなよ」

「しくじった場合、ボクも貴方も死にますからね。そんなことが無いように注意するつもりです」


 領主への謁見の間へと続く扉の前で、クロウとシロは最後の打ち合わせをする。といっても敵陣ど真ん中であるからして、堂々とできたものではなく軽い確認程度でしかないが。


「それじゃ、開けるぞ」


 扉を開いた先。窓から日が差し込む荘厳な縦長の部屋の奥に、椅子が一つ。そこに深く腰をかけて座り、蓄えている髭を触る男がいる。


「バトラ様。件の捕虜を連れてきました」

「連れてきましたー!」

「ツレデ、ギマジダ」


 椅子の遙か手前にてクロウが膝をつき、それの真似をするかのようにホムンクルスの二人も膝をつけて座り込む。


「うむうむ、良くやった」


 上機嫌で足を組み、捕虜と目を合わせる男。シロは笑顔のままに視線を返しているが、男にとってもそれは滑稽に見えたようで、思わずニヤリと笑ってしまう。


「まさかベヨシュタットで噂の男を捕まえることができたとはな」

「ええ。ボクもお会いできて光栄ですよ」

「フフ、フハハハハッ!!」


 この時互いに笑い合っていたが、その後に最後まで嗤っていたのは――たった一人だというのは間違いないだろう。

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