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第六節 辿り着いた先にあるもの 3話目

「……そろそろレリアンだ。狙撃兵は配置されていないが、出入り口にある門には熱探知センサーがある。【遮断領域ステルスフィールド】がどこまで通用するかは知らないが、門近くになったら装甲車から離れておけ」

『了解した。ラスト、そろそろ準備をしておけ』

「承知しました」


 ハッチを空けたまま装甲車を走らせ続けつつ、クロウは俺に対して警告を促す。警告を受け取った俺はラストに【遮断領域ステルスフィールド】の準備をするように声をかける。

 広大な土地を歩くこと数日、ようやくガレリアという土地へと足を踏み入れることができた。そしてその中心区にあるレリアンという街に、この領地を治める貴族がいるらしい。


『改めて確認だがレリアンが街の名前で、ガレリアが領地の名前で合ってるのか? そしてレリアンの街を抑えればガレリア領を占拠できたと言っていいんだよな?』

「ええ、その認識で合っています」

『随分と大きな話になってきたもんだ』

「それだけリターンが大きいこともお忘れなく」


 音響石越しに装甲車内で拘束されているシロさんと連絡を取り合っているが、正直俺はまだクロウという男を完璧には信頼していない。勿論それは、シロさんも同じだ。


『……信用して大丈夫そうか? この男は』

「大丈夫かと思います。この手のエンジニアが信じているのは、自分の作った作品だけでしょうから」


 どうやら俺の知らない間にクロウとは随分打ち解けていたようで、現実での身の上話も聞かされたのだという。

 彼が言うからには、現実ではいくら自分が努力して作ったプログラムだったとしても、それは全て上司の手柄になるのだという。ここでもそれは似たようなもので、正直なところ辟易としていた部分もあったようだ。


「だからこそ先程から試作機といいつつホムンクルスに対して愛着を持っているのでしょう。そういう人は信頼できます、今のところは」

『成る程な』


 人よりも物に執着する。極端な話好きな開発さえできれば場所や国は問わないらしい。


『ならばこっちのギルドに引き込んで兵器開発部門でも立ち上げるか?』

「それもいいですが、事を急ぐこともないでしょう。今は目の前のことに集中した方がよろしいかと」

『それもそうだ』


 話も一区切りついたところで、例の門が見えてくる。周囲は簡易的な石造りの壁が立ち並んでいるようで、門という外界との遮断機能よりは関所の飾りのように思われる。


『ラスト、【遮断領域ステルスフィールド】』

「既に行っていますわ」


 流石は俺の見込んだ戦術魔物――と褒めたいところだが、成功までは気を抜くことができない。


『確認だが、ラストと俺はこの後車両の方を追う。恐らくは敵の車両庫か武器庫へと格納されるはずだから、そこでこれを押す』


 そういって俺が手元に取り出したのは破壊した戦車の廃材を使ってクロウが作りあげたという起爆装置。スイッチを入れれば最後、車両に仕込んでいる大量の火薬が火を噴くことになっている。


『そして不発だった場合は蝦蟇野太刀ガマノダチで車両ごと斬る』


 蝦蟇野太刀ガマノダチ。レベルは他の太刀よりも低くレアリティ76の代物だが、戦闘開始の最初の抜刀限定で鞘の鯉口こいくちに仕込んであるガマの油が刀身に移り、そして抜刀時の摩擦によって刀が燃え上がるというギミックが仕込まれているユニークな野太刀だ。

 問題は少々大型で取り回しが少し遅くなるが、それでも単発の銃弾を切り落とすくらいは難なくこなせるだろう。

 ……問題はマシンガン系が来た場合だが。


「通してくれ。先に送ったメッセージの通り、負けはしたが敵の中でも有力な奴を捕まえてきたぞ」


 予定通り装甲車は門の前で停車し、クロウは装甲車の上から門番へと声をかける。プレイヤーが門番をするのは珍しいと思いながら、俺とラストは言われたとおりに門から離れた場所で姿を隠して様子をうかがう。


「その話本当なんだろうな? 捕虜を出して見せてくれ」


 指示通りにクロウによって手錠で拘束されたシロさんを見せると、門番は納得した様子で首を深く縦に振り、そして念のためだと門を開いてセンサーを起動させる。


「門を通れ」

『いいかラスト。門が閉まるギリギリで滑り込むぞ』


 壁を上っても良いかもしれないが、万が一不自然な足音や土煙を立ててしまった場合が面倒なことになる。それよりも縮地を使って一発で忍び込むことができれば、相手には強い風が吹いた位にしか思われないだろう。

 装甲車が静かに門を通り過ぎていく最中にも、門番は注意深く装甲車の全体を舐めるように見回す。そして当然ながらハッチから身を乗り出しているシロさんの姿も。


「……問題なし。装甲車はルート5でこちらで預かる。捕虜は――」

「俺が直接バトラに届ける。俺の手柄だからな」

「……バトラ“様”をつけておけ。どこで聞かれているか分からないからな」

「心配要らねえよ。ここら一帯のセンサーを取り付けたは誰だと思ってるんだ?」


 会話の中身から推測するに、どうやら街中にもセンサーが張り巡らされているらしい。こうなったら【遮断領域ステルスフィールド】の解除は難しいだろう。


「……よし! 門を閉めろ!!」

『ラスト』

「はい……って、主様!?」


 ラストは俺と違って縮地ほど短距離を俊敏に移動できる魔法やスキルを持っていないからな。こうして抱きかかえていくほかあるまい。


「主様に抱かれるなんて……」

「少し静かにしていろ――」


 縮地を使った場合の一歩は走った場合より更にとてつもなく大きい。一瞬で門の前から中へと、たった一歩で踏み入ることができる。


「うおっ!? 凄い風だ!」

「何だ今のは? この辺でそんなに強い風なんて吹いたことない筈だが」

「いやー、びっくりしたな」


 どうやらびっくりした程度で何の警戒もする気配もなさそうだ。


「先を急ぐぞ。外から攻め込む合図は俺達の爆破が合図だからな」

「まって主様、もう少しこのまま――」

「駄目だ」


 俺はラストを丁寧に降ろすと、再び装甲車の後をつける。

「主様のいけず……」

『分かった分かった、帰還したらいくらでも抱いてやる』

「“抱いて”……ッ!? 主様、その言葉お忘れなきよう……!」


 なーんか勘違いさせているような気がするが大丈夫か、俺。

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