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第六節 辿り着いた先にあるもの 1話目

『残るは雑魚ばかりだったようだな』


 テクニカ所属の兵士。方々合わせて一個小隊分の死体の山を冷静に一瞥する俺の姿は、皆からすれば異様な光景に思えたであろう。


「流石は、初代刀王……これだけの死体の山を積み上げるとは……」


 結局チェイスはというとキョウに運ばれて防衛本陣の方で治療を受けたことで本国撤退までには至らず、結果として俺が引き連れた二人は継戦しようと思えばできる程度の被害に抑えることができた。


『そういえば、キョウ』

「どうした大将!」

『例の男とホムンクルスたちはどうした?』

「あの男ならそこに縛ってるぞ!」

「くっ、くそ!」

「ごめんよ兄貴ぃ……」

「ゴ、ゴメンナザイ……」


 キョウがそういって視線を送る先には、テクニカの指揮官とその僕であるホムンクルス、三人合わさってロープに縛られた姿があった。当初ホムンクルスの方は目が覚めるなり力任せにロープを引きちぎろうとしていたが、暴れれば指揮官の方を殺すと脅した途端に静かにその場に座り込んで大人しくしている様子。


「こいつ等を剣王に差し出せば、俺達“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”の地位も上がる筈!」


 キョウは鼻息を荒くしているが、この二人を前に俺はそんなものなど当初から頭に考えていない。


『いや、そいつらの身柄はギルドで預かる。国王には防衛成功の報告だけを済ませよう』

「何故だ大将!? こいつらを引き渡した方が絶対に――」

『俺にいい考えがある』


 今の頭の悪い剣王に引き渡したところで特に何も意味が無い。それにプレイヤーならば自らのレベルと引き換えにいくらでも情報を引き出せる。


『それよりもキョウ。この戦いを通して強くなった気がしたりとかないか?』

「ん? 俺か? ……特に何も無いな! いつも通りだ!」

『そうか……』


 噂であるNPCのレベルアップは本当にあるのだろうか? 本人に自覚がない以上、後は鑑定スキルを使って調べて貰うしかないか。


「…………」

「主様ぁー! こちらも片付きましたわぁー!」


 俺が考えに浸っている時に限って、俺に構ってくるような気がする。というかここは本陣から少し離れた場所のはずなのにどこから飛んできたんだ。


『どうしたラスト、戦いが完全に終わったわけでもないのに本陣の守りを放棄するとは』

「あんなむさ苦しいところからいち早く離れたかったので。ついでに報告のためですわ」


 報告がついでかよ。それとここぞとばかりに頭にしがみつくな胸を押しつけてくるな。真面目に考えていたというのに目の前の柔らかい感触のせいで考えが一切まとまらなくなってしまうだろうが。


『分かった分かった、分かったから離れろ』


 頭からは離れさせるが、腕にしがみつくくらいは別に構わない。ラストはラストなりに頑張っていた事は認めざるを得ない。


『そっちの被害は?』

「死者はゼロですわ、主様」

『流石だ、ラスト』

「おやおや、折角頭数揃えてきたんですが、終わっていたようですね」


 どうやら俺と同じ奇襲を考えていたのか、ベヨシュタット側ではなくテクニカ側からシロさんとドワーフの団体が大勢姿を現わす。


「なんじゃい、もう終わっておるんか!」

「儂等の力、見せつけてやりたがったがのう!」

「なんですか、あの毛むくじゃらの小汚い爺共は」

『下手なことを口にするなラスト。ドワーフの連中は気難しい面倒な輩なんだ』


 小柄で毛むくじゃらだが、力においてはあのホムンクルスに勝るとも劣らない種族、それがドワーフ。だが今回その応援が来るまでもなく、俺が指揮を執って勝利をおさめてしまっている。


『折角ドワーフの援軍を連れてきて貰ったのに、先にこっちで片づけちまった』

「いえいえ、どうせ敵軍次第ですぐに終わる戦いだとは踏んでいましたので」


 そして彼は戦いが終わった時のための別プランを考えていたようで、ようやく戦いが終わって一息ついている俺に対してニコニコとした顔で面倒な提案をしてきた。


「でしたらこのままガレリア奪還といきませんか? 折角これだけの手駒が揃っていいるわけですし」

『ガレリア領の奪還だと……?』


 確かに外国との交易には有用な街であるレリアンもあるし、こちらの手中に領地を再び収められれば首都から戦線を離すことができる。

 だがそれだけに敵も防御を固めているだろう。それこそレリアンの街全体を主要拠点としているのだから、この場所の比にならない程の防衛網が敷かれているはず。


「これだけの人員がいれば、ガレリア奪還も不可能ではありません。それに――」


 一目見ただけで要人を拿捕したのだと理解したのか、シロさんはホムンクルスと男の方を見て普段以上にニコニコとした表情を浮かべて奇策を提案する。


「この方達がいれば、我々もスムーズに内部へと入り込むことができるでしょうし」


 相変わらず、とんでもないことを考える人だ。



          ◆ ◆ ◆



「――こっちですわ、主様」

『一体何だ? わざわざこんな周りから見えづらい場所に呼び出して』


 防衛拠点でシロさん達が次のガレリア進軍の作戦会議をしている最中、俺はラストに連れられて先刻まで奇襲の為に身を隠していた背の高い草むらの方へと引っ張り込まれる。


『何がしたいんだ?』

「はぁ、はぁ、主様……」


 発情したように顔を赤らめながらずずい、と迫られると嫌な予感しかしない。


「先日、あの影の女を捕まえたらご褒美をくださるとおっしゃっておりましたわね?」

「あ……」


 完全に忘れていた。ということは――


「そのご褒美、今頂きたく思いまして」

『待てラスト。まだ次のガレリア侵攻が残っている。ここで下手なことをすれば――』

「ご安心くださいませ。だからこそこうして周りから見られない場所に、そして【遮断領域ステルスフィールド】まで使っているのです」


 あ、これ完全に詰んだわ。


『いや、待て! 俺はこのコート一丁しか防具を用意していないから汚すわけには――』

「ご安心ください主様。主様のご褒美は、全てこのラストの中に注いで頂ければ良いのですから――」

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