第五節 援軍到来 5話目 きみょうでびみょうなコンビ
「兄貴! どいつをたたきのめせば良いですか!?」
「全員だ。全員叩きのめせ!!」
「アイアイサー!」
「アイ、アイ、ザァー!!」
大男はさておき、元気よく返事を返す少女の方は、その仕草といい見た目といい、普通の少女にしか思えない。
……繰り返すが、頭にアンテナが刺さっているが。
「ホムンクルス……か」
人造人間。そんなものは百年前の世界には無かった代物だ。
語源を考えればどちらかというと機械の部品で作り上げた人造人間の方が開発されそうだが、テクニカでは生体を生み出すことに成功していると言うことなのか?
そもそもホムンクルスというものをどうやって生み出したのか、どのような開発ルートを取っていればいきなりそんな兵隊量産みたいな真似が――
『……まずいことに気がついてしまった』
唐突に嫌な予感が頭をよぎる。
確か今は試作機といっていたな? つまりこれ以上開発が進めば、兵は畑からとれると揶揄されかねないようなホムンクルスの兵団すらも作り上げられる可能性があると言うことか!?
『……お前が作ったのか?』
「いや、俺じゃない。俺はあくまで技術提供を受けた技術者だ。まさか開発者本人がこんな戦地に来るとでも?」
仮にハッチを開けて出てきた奴が開発者本人だったらとすれば、この場で潰せばテクニカの技術発展を大幅に遅らせることができる。しかし予想通り、こいつはただ技術講習を受けただけの技術者にすぎない。
『だろうな……』
俺は抜刀していた刀を再び鞘へと収めると、指示を受けて動き出そうとしているホムンクルスの二人組へと注意を傾ける。
「とにかく兄貴の名に従って、お前を倒す!」
「ゴロス!」
『やってみろ』
随分とコミカルに動き回るものだが、実際はどちらも装甲をパンチ一撃で破壊する程の怪力を備えている化物。油断はできない。
『通常攻撃が鉄壊クラスとなると、それなりの筋力を――ッ!?』
「えいやぁ!!」
えいやぁで済まない程のクレーターが出来上がっているのは気のせい……じゃないな。
さっきまで俺が立っていた場所に少女の拳が振り下ろされ、バガンッ! という馬鹿げた破壊音と共に地面がえぐれる。
「なんじゃああいつは!? 地面をえぐったぞ!?」
「有り得ない……!」
キョウもチェイスも予想外の敵の登場に驚きを隠せずにいるが、俺にとってはまだまだ相手にとって不足「あり」だ。
「こんなもの、あの人の大震脚に比べたらまだまだ……!」
「オデモ、ヤル!!」
「なっ!?」
もう一人――ゼロ号と呼ばれた大男の動きは遅いかと思いきや、軽々と跳躍しては俺を踏みつぶそうと上から奇襲を仕掛けてくる。
「チィッ!」
当然踏みつぶそうとした跡も大きく地面はえぐれており、まともに食らえば致命傷なのは一目瞭然。
「ふざけやがって……」
距離を取りつつ、様子をうかがう。すると今度はキョウとチェイスへと目標を変更したのか、同じように力任せながらも殴り掛かり、地面にクレーターを新たに作っている。
「なんだこいつら!? 馬鹿力か!?」
「キョウ、下がって!」
チェイスはとっさに鎖で動きを縛ろうとホムンクルスの少女の身を絡めとるが、力勝負で負けているのか、逆に鎖を引っ張られて投げ飛ばされてしまう。
「そぉれー!!」
「あぁっ!」
「あぶねぇ! 抜刀法壱式ぃいっ! 鉄壊ッ!!」
キョウがとっさに鎖を叩き斬ったことでそのまま叩きつけられることはなかったものの、チェイスが負ったダメージは大きく、血の流れる肩を大きく揺らしながら呼吸をしている。
『っ、キョウ! チェイスを連れて一旦下がれ! 俺が時間を稼ぐ!』
「何言ってんだぁ! 俺も戦うぞ!」
『逆だ! 邪魔になるから言っているんだ!』
当然のように負傷するチェイスに向かってホムンクルスの二人は同時に襲い掛かるが――
「抜刀法・弐式――双絶空!!」
二つの斬撃を飛ばすことで不意を突くことができたのか、何とか退けさせたものの、あいかわらず隙あらばチェイスを始末しようとホムンクルスは躍起になっている。
「くっ、確かに大将の言う通りかもしれねぇ!」
そう言ってキョウは得意の足の速さで素早くチェイスの元へと駆け寄ると、急いで担ぎ上げて戦線離脱を開始しようとした。
「大将が逃がしてくれるってんだ! 死ぬんじゃねぇぞ!!」
「キョウ……」
「うがー! 逃がさないからー!」
そのすぐ背後――一号がまとめて叩き潰そうと飛び上がり、拳をまっすぐに振り下ろす。
「っ!? あぶない、キョウ!」
「抜刀法・二式――絶空! 『……俺を差し置いて仕留められると思うな』」
直前で斬撃を当てたことで相手は体勢を崩し、キョウからわずかに拳が逸れ、そのまま地面を叩く。
「ははははっ! 一体誰と比べているのかは知らないが、今貴様の前にいるのは怪力無双のホムンクルスだということを思い知るが――ぐはぁっ!?」
「あっ、兄貴ごめん」
そうして地面をえぐった際に飛び散った破片の一つが見事にヒットし、ホムンクルスが兄貴だと慕っていた男がそのまま気絶してしまう。
「っしゃあぁ! 今のうちに俺が首を取ってや――」
『待てキョウ! お前はそのまま撤退しろ!』
「なんじゃと!?」
『俺が片をつける!』
ここで仮に抹消ではなく生け捕りにさえできれば、後でいくらでも情報を吐かせることができる。何なら誘導次第でこちら側につかせることもできる。その為にもあの男はホムンクルス二体とセットで生かしておく必要がある。その場合、殺しを目的とするキョウにはチェイスを連れて去ってもらった方がやりやすい。
「大将がそういうならしょうがない、でも次は俺が首獲ってみせるからな!」
捨て台詞を吐きながら退却するキョウの退路を守るように、俺はホムンクルスの二匹との間に割って立つ。
『さーて、あいつらを倒す前に俺の相手をしてもらおうか』
「ぐぬぬ……知らぬ間に兄貴を倒すなんて、許さねー!」
お前がさっき自分で倒したんだろ、というか謝ったばかりじゃねぇかという言葉を飲み込みつつも、俺は一号が放つ素人丸出しのテレフォンパンチを軽く回避し、更に死角から攻めてきたゼロ号の攻撃もいなし距離をとる。
「さて、どうしたものか……」
「よーし、こうなったら合体攻撃だ!」
「ヤッテヤルゾ!」
合体攻撃だと?
不審な言葉に俺は余裕をもって回避をするべくさらに距離をとっていると、一号が自ら体を丸めるような体制をとり、そうしてできた一号ボールをゼロ号が拾い上げる。
「……まさか――」
「イクドォー!! キャノン、ボォオオオル!!」
ブォオン、という風切り音とともに、丸まった一号がこちらに向かって剛速球で飛んでくる。
「うおぅっ!?」
とっさに横に転がることで回避できたものの、背後で砲弾でも着弾したかのような轟音と土煙が舞い上がる。
「まさかとは思うが、あいつらに当たってねぇだろうな……」
咄嗟のこととはいえ敵の攻撃を後ろに逸らしてしまったことに後悔しながらも、俺は土煙の上がっている地面周辺を注意深く見やる。
「くっそー! 避けられたか!」
「オデ、チャントナゲタド!」
「わかってるよー! こいつが避けたのが悪いんだい!」
いや、避けなかったら大ダメージ確定だろ。刀でいなすにしても筋力的に負けそうだったし回避せざるを得ないだろ。
土煙から立ち上がっている様子を伺う限り、避けられたことによる自傷ダメージは見受けられない。
そうなると早いうちにどちらかを黙らせなければ、これ以外のコンビネーション攻撃まで繰り出されたら面倒なことになる。
「とはいえ、どっちからダウンさせるべきか……」
先に一号を倒すべきか、それともゼロ号を止めるべきか――
「……考えるのも面倒だ」
俺は刀を抜くと、この状態でしか行えない抜刀術でもって決着をつけることを決める。
「……縮地」
一瞬ふらついたように見せかけて、即座に一号の背後へと俺は回り込む。
筋力はあってもスピードはまるでお話にならないようで、背後から斬りつけるその瞬間に、一号はようやく俺の姿を捕らえる。
「えっ!? いつの間に――」
「抜刀法・肆式――」
――断鋼。
「ぐっ……へぇ」
文字通り、背後から叩き斬ったが肆式ゆえにあくまで峰打ち。体力もミリ程度ではあるが確実に残るため、気絶で済ませることができるだろう。
そして続いてゼロ号の背後にも回り込み、刀を大きく振りかぶる。
「……エッ――」
「――お前も、寝ていろ」
こうしてホムンクルスを含むその場の制圧は完全に完了した。後はこいつらを回収できれば大将の捕縛と同じ扱い、この戦いも俺達の勝利で終わらせられる。
……さて。
『……残党狩りといこうか』
それまで戦いを遠くから見守っていた、僅かながらの敵兵に対して俺は冷酷に告げる。
「えぇっ!?」
当然、余った敵の戦力は少しでも削っておいて損は無い。それにお前らを倒せば経験値にもなる。
『安心しろ。お前達の血肉は俺達の経験値となって役に立てる』
「ふ、ふざけんなよ!? 俺達がこのレベルまで、60レベルまであげるのにどれだけ苦労したか――」
『そんなもの、お互い様だろう?』
接待ありのPVPとか、どんだけクソゲーなんだっての――