第五節 援軍到来 1話目
――あれから一週間と経つが、特に何かが起こる気配はない。ラストと俺、そしてティスタで周囲の見回りを行い、残った兵は拠点の修復に取りかかっている。今のところ、何も問題は発生していないように思える。
塀の中でも数少ない魔導師を集めて瓦礫からできる限り頑丈な壁を作るように命じ、残った兵で出来合いのバリケードを作成して隙間を埋めていく。ラストに時間逆行の魔法を使わせて修復してもいいが、それをするには既に相当の時間が経ってしまっている。
見通しのいい昼間の平原を眺めながら、俺は防護壁の上で飛び道具から身を隠すための遮蔽物に寄りかかって日向ぼっこをしていた。
それにしても――
『……ドワーフか』
シロさんがかき集めてくると言っていた、力自慢の種族。背丈は小さくともその腕力は並の人間の倍以上。
鉄鉱を扱わせれば一流、反面大食らいで酒飲みで我が強いという、中々に扱いが難しい種族だ。
『ドワーフを兵として呼び寄せられるのは心強いが、兵糧が心許ないな……』
ここに来て一週間、メッセージのやりとりをしながらであるが徴兵に成功し、折り返し向かってきているとのこと。だが奴等が食料を自前でもって来ていたとしても、毎夜毎夜の戦いの宴を開催されたら絶対足りなくなる。
『それに俺自身酒に弱いし……』
本来ならば近接職に必須である耐久力にすらまともに割り振っていない、攻撃とクリティカル極振りのこの俺が、あのドワーフの牛飲馬食についていけるはずがない。
『それにそろそろ奴等が到着する頃だしな』
こうして準備期間が設けられたのは、こっちにとってもう一つの幸運を呼び寄せている。
「師匠! ベヨシュタット側から援軍と思わしき軍勢が!」
『シロさん……ではなさそうだな。数はいくらだ?』
俺の問いに答えるために、ティスタが首都方面の壁の上に飛び乗って遠くを眺める。
「……馬が五十騎、向かってきます!」
ということは――
『ようやく来たか』
“殲滅し引き裂く剱”の応援が。
「我等“殲滅し引き裂く剱”、ただいまよりこの地の防衛に加勢させて貰う!」
拠点中央の広場まで援軍を招き入れると、白馬に乗ったユンガーを筆頭に、キョウ、チェイス、そしてカイが援軍の前に立って俺の元へとうやうやしく膝をつく。
「どうかこのユンガーに、汚名返上の機会を!!」
『良くこれだけかき集めてくれた。礼を言う』
とはいえ五十は……先兵も三桁いかない程の少数だったが、次に来るのは確実に三桁後半、最悪千を越える可能性もある。
『敵がどれだけこの拠点を重要視しているか……とはいっても、首都まで一週間圏内は普通にまずいが』
中央広場にあるテーブルの上で、この地周辺の地図を開く。周囲にはめぼしい領地や鉱床等の資源地は見当たらないものの、近くにはユニークな施設が備わっている場所が一ヶ所だけ存在する。
「こっからだと他にブライトチェスター駐屯地が近くにあるぞ」
ここまでの長旅で腹が減っていたのか、パンをかじりながらキョウが地図の上の一ヶ所を指さす。
「ここは新兵養成学校だから、俺なら供給を断つためにここを狙うぞ!」
大声のせいでパンくずが地図の上に散らかるが、キョウの言うこと自体は至極当然だ。もし俺が敵ならば、次にそこを狙うだろう。
『進軍するまで馬で三日、十分に狙えるだけの距離になっている。それに首都も一週間の進軍圏内。これはまずいな……』
というよりも、冷静に考えたら首都まで一週間圏内まで進軍されているって地味にまずくないか?
『そもそもどうしてここまで進軍を許したんだ? 軍師は一体誰だ?』
「三代目になり色々と体制が変わってからはこんな感じですよ。全く、尻拭いをさせられるような形でイライラしますね」
恐らくこれが初めてのまともな会話になるだろう。ギルドの幹部であるカイは苛立つあまりに歯ぎしりをしている。
「ここに攻め入る際に使われているこのレリアンという土地も、元々はベヨシュタットにとっても外国との交易に有用な土地だったんです。それをあの三代目が防御を手薄にしていたから……!」
有用な土地も奪還され、そしてこの現状があるというわけか。
『……人心を掴むのも下手、軍略も下手。一体何が残っているんだろうな』
俺がそうして溜息をついていると――
「――師匠! 今度は敵です!! それも……かなりの規模です!」
『聞いたか? 全員来てもらってすぐで悪いが、防衛に回って貰う。それぞれ伝達はこの音響石を通して行う。では――』
――防衛戦第二ウェーブ、開始だ。




