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第四節 ヴァンパイア 4話目

「逃がさない……主様からのご褒美のためにも……!」


 風に揺らめく木々の間。闇夜に紛れ、風に揺らめく影。しかし戦術魔物たるラストの目は、真っ直ぐと捉えていた。

 拠点を襲撃した暗殺集団の頭領、ロルカの姿を。


「【簡易召喚コール黒猟犬ブラックハウンド】!」


 本格的な契約を結んで行う召喚魔法とは異なり、身近にいるとされる低級悪魔や精霊を魔力で無理矢理押さえつけて使役する。それが簡易召喚コールと呼ばれる魔法の仕組みである。

 勿論、熟練のプレイヤーにとっては足止め程度にしかならないが、こうして追い打ちをかけるという点ではその足止めや妨害をするには十分なコストパフォーマンスを発揮する。

 そして――


「ぐぁっ!?」

「あらあらぁー? 道端の小石にでも躓いたのかしらぁ?」


 彼女はそう言って言葉に含みを持たせるが、事実は違う。闇夜のように真っ黒な猟犬に影を噛まれ、そのダメージによって影への偽装が解除されてしまっている。


「くっ、このっ!」

「さてさて、主様の元に早く帰りたいし、このままひと思いに――あら?」


 ここでラストは異変に気がついたのか、追っていた足を止めて遠巻きにロルカの様子をうかがっている。そしてここでようやく、俺も縮地でラストの元に追いつく。


『よくやったラスト。後は俺が――』

「主様、お気をつけて。この女、ただ者ではありません」


 言われるまでは俺も気がつかなかった。こけた拍子に見せた首筋には、彼女ロルカが普通の人間ではないと知らしめる刻印がつけられていることに。


『……吸血鬼、だと?』

「っ! ……フフッ、見られては仕方が無いわね。そうよ、リベリオンワールドになってから新たに追加された呪いに、私は犯されているってワケ。生かさず殺さず、ただただあのお方の下僕として駒のように働くしかないって事」


 自身の置かれた状況を皮肉るように、ロルカは苦笑している。


『……プレイヤーが吸血鬼化など、有り得ない』

「つまり新たに追加された要素ってこと」


 プレイヤーは種族として人間以外は選択不可能だった。前作でも敵《NPC》として吸血鬼がいたが、その際にも血を吸われる一撃でやられた場合、そのまま血を吸われ続けて死ぬ(ロスト)の筈だった。

 それがこうして死ぬわけではなく、NPCの眷属として働かされているとはどういうことなのか。NPCにしか適用されなかったものが、何故プレイヤーにも平等に適用されてしまっているのか。


『それでお前は、リセットすらできずにこうして動いているのか』

「正確には、終わりのないお使いクエストをこなすためだけに動かされているだけ。ゲームにおいては一番つまらないものよ」

『そうか……ラスト』

「はっ」

『……破魔ノ太刀ハマノタチをくれ』

「まさか、主様……いえ、承知しました」


 そうしてラストが異空間に預かっていた刀から一振り、この場において最も役に立つ一振りを俺の手へと渡す。


「……何かしら、それは」

『……お前を解放してやる。とはいっても、結果はリセットだがな』


 破魔ノ太刀ハマノタチ。この刀は呪文スペルカットが可能で、唯一魔法攻撃を文字通り叩き斬る事ができる代物だ。

 刀身は真っ白であり、刃紋はもんの代わりに反呪文アンチスペルの魔法文字が刻まれている。そしてこれの隠されたもう一つの力、それが呪いを払うという破邪の力。味方の前で振るえば呪いに関するバッドステータスが即座に解除されるという破格の能力を持っている。

 俺は太刀を静かに抜くと、刀身を見せることでロルカに対する答えを示す。ロルカもまたこれまで積み上げてきたものがリセットされるという辛さと、ようやくこの呪縛から解放されるという安堵の入り混じった複雑な笑みを浮かべている。


『……来世で会おう』

「ええ。また、敵同士かもしれないけどね」

『……さらばだ』


 ――できる限り苦痛もないように、俺は一太刀の元にロルカの介錯を済ませた。


「…………」

「……主様?」

『……いくぞ、ラスト』


 随分と胸くそ悪いもので、この以前のゲームには無かったリアリティ追及のためだけの改悪要素に疑問だけが残される。


『……以前のお前ならばプレイヤーの行動を無駄に制限するような要素は気に入らないと言っていたはずだがな』


 一体この世界に他に何をもたらそうとしているんだ。あのAIは――

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