第四節 ヴァンパイア 3話目
「……この状況が理解できないのか? 殆どの兵士が死亡という壊滅状態、後は拠点兵長を仕留めるだけという状況でお前に何ができる?」
よくもまあ深夜にこれだけの人員を集めたものだと感心するが、それだけだ。質より量とでも言いたいのか、この拡声器の男は。
この状況に置かれて何もできないわけじゃない。俺にはまだできることがある。
『……貴様を殺すことだ』
そうして俺は刀の柄に手を添えて、殺界のオーラを高めていく。
『そこで見ていろティスタ。……これが本物の刀王の力だ』
「刀王!? 貴様今何と――」
縮地により黒い残像を残しながら素早く敵の懐へと入り込み、黒刀の一瞬の斬撃が周りの兵士を切り刻んでいく。
「――抜刀法・参式」
霧捌。
「がはぁっ!」
「ぐっは……ぁ!」
『手ぬるい』
先程の暗殺部隊の真似事という訳ではないが、その場に残像を残しながら、辻斬りのように無差別に敵を切り刻んでいく。
「くっ! ちょこまかと逃げるな!!」
装甲車の砲台の回る速さなどたかが知れている。照準を合わせようとしている頃には目の前から消え去って次の小隊を血祭りに上げていく。
「いくら刀でもマシンガンには勝てないだろ!」
味方がいようとお構いなしに自動小銃を放つ敵兵。だが俺は刀を目の前で高速回転させることで弾丸を全て打ち落とし、その上で敵兵を縦に真っ二つに斬り捨てていく。
「な、何だってんだよ!? 銃は剣より強しじゃないのか!?」
『何を勘違いしている? これはゲームだぞ?』
技量が、実力が上の者が勝つ戦いだ。そして俺はレベル121。それに対してお前のレベルはいくつだ?
「抜刀法・参式――啼時雨」
横一列に並んで銃を放つ一団を真横に一閃、首を綺麗に刎ねて絶命へと追いやる。
「なんてこった! 随伴兵がいなくなったぞ!?」
『それで?』
さて、どうやって戦う? どうやって俺を仕留める? その無駄にでかいだけの砲でか? それとも横に付属している小銃か? あるいは降りて勝ち目のない白兵戦でも仕掛けるか?
『まだ随伴兵がいなくなったくらいだろ? 戦いを仕掛けたんだ、最後まであがいてみせろ』
「くっ……言わせておけばぁああああ!!」
ようやく砲塔で照準を合わせるのをあきらめたのか、相手はハッチから顔を出して銃を構えだす。
しかしもう遅い。
「抜刀法・終式――」
トドメを刺す。その為の終の型。
「――断罪」
抜刀し、両手で柄を握りしめる。そしてヒットストップが強烈にかかるような重々しい縦の振り下ろし。
この技に、斬れぬものなど存在しない。事実上のガード不可技。それが抜刀法・終式。
「……終いだ」
ゆっくりと刃を鞘の中へと収めていき、最後に鍔と柄とがぶつかる音がすると同時に装甲車が真っ二つにずれ、そのまま自ら爆発し消えていった。
『……普通だな』
特に上手く立ち回れた訳でも無い。ただただ普通に雑魚をいなしただけという評価を自らに下し、そしてティスタの方を振り返る。
『悪いがこの立ち回りは参考にしないでくれ。あまり上手いとは言えな――』
「す、凄いです師匠!! 私もこんな風に刀を扱えたら……!」
悪いがこの程度ならすぐにできる様になると思うぞ。前作だと侍は皆俺の動きを参考にしていたからとにかく素早く攻撃力の高い技をたたき込むスタイルが流行っていたな。
……その代わり紙装甲だからすぐに死亡していく人が大勢という、結局俺だけがやってるビルドになってしまったが。
『この場はしのぎきった。後は――』
ここに来てメッセージが再び飛んでくる。相手はシロさんだ。
「……成る程な」
どうやらシロさんが姿を現わさなかったのは拠点兵長を別の場所にかくまっていたのが理由だったようで、それでも別動隊が来ていて中々合流できなかったと謝罪のメッセージが俺の元に届いている。
『……ティスタ』
「はい!」
『お前はこの場に残ってシロという男の指示を仰げ。俺はラストを迎えに行ってくる』
ひとまずどこにでも着いてこようとする二代目刀王をこの場に残すと、俺は縮地でもってラストの出て行った方角へと走り出す。
『何も起こっていなければ良いが……』
特に無意味に仕留めるといったことが、ありそうな気がするからな。




