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第四節 ヴァンパイア 1話目

「全くもって有り得ないですわ! 主様もこのような足引っ張りをつれていくなんて!」

「大丈夫だ。賊相手には負け無しだから戦場でも何とかなる」

『……ラストの言う通り、置いてくればよかったかもしれないと思えてきた』


 この二代目刀王アホのどこをどう信じれば何とかなると思えるのか。賊といっても精々よくてレベル60程度の輩が相手で、対するティスタのレベルはというと体感で3桁は超えていると想定できる。プレイヤーの感覚としてはこれで負ける方がおかしいと考えてしまう。

 転送中の空間で巻き起こるラストとティスタのいざこざだが、俺はラストの味方にならざるを得ない。


『何度も言うが、自分の身は自分で守れよ。死んで空位になろうものなら俺が再び奪いにいくだけだからな』


 大きな荷物を抱えた状態で、ウィンセント領に敷かれている防衛拠点へと転移を完了する。夜空を見上げれば星が瞬き、夜でも明かりの多い現実世界では見られぬような光景が広がっている。

 そこから視線を下に降ろしていくと、松明が拠点に敷かれた防護壁とバリケードをぼうっと照らしているのが目に映る。そして辺りには夜警が多めに敷かれていたようで、魔方陣から現れた俺達に向けて一斉に剣先が向けられる。


「何者だ!」

『相当にピリピリしているようだな……』


 シロさんが襲撃の情報提供を済ませてはいるのだろうが、見る限りではNPCばかりで頼りなく感じる。ここで戦っている内に他の引継ぎ組でも見つけられれば良いのだが。

 そんなこんなでこの場をどう切り抜けようかと考えていると、ティスタが一歩前へと出る。


「ここは私が話をつけよう」


 成る程、腐っても二代目刀王。説得力はそこらの人間よりはあるはずだ。


「私は二代目刀王、ティスタ・ハンハードだ! ウィンセント領に敵国が攻め込んできていると聞いて加勢に来た!!」

「二代目刀王が加勢に……?」

「おかしい。二代目は貴族の護衛にしか回らないはず」

「何にせよ、手伝って貰えるなら手伝って貰おうぜ」


 誤解は解けたようだが、溜息しか出ない。刀王は貴族のお抱え護衛の称号じゃないということを、今一度知らしめる必要がありそうだ。


「これで誤解を解くことができたぞ」

『それはそうだが……まあいい』


 ラストとティスタを連れ、拠点の状況把握の為に辺りを歩き回る。急な襲撃には備えていたのか、兵士達も手際よくバリケードを張り、周囲警戒を怠っていない。


「あんた達、ぼーっとしている暇があったら見張りくらいはしてくれないか?」

「それもそうだな」

『いや、その必要は無い』

「? 何故だ?」


 この程度も察知できないとは、なんとも平和な刀王だ。


「主様」

『分かっている。状況次第で飛び道具での攻撃を許可する』

「承知しました」


 皆が戦いの準備をしている広場のど真ん中――松明の明狩りによって揺らめいていた影が、風の揺らめきとは無関係に揺らめき、生き物のように動きを変えていく。


「……シッ!」


 辺りが気づかずに作業を進めていく中で俺は躊躇なく刀を抜き、そして広場をうごめく影に向けて縦に一閃、斬りつける。


「うおっ!? なんだ!?」

「分からん、突然あのフードの男が地面を斬ったぞ!?」


 周りからすれば突然行われた奇行にしか思えないだろう。しかし俺はこのスキルを知っている。


『ワノクニ……暗殺者か!』

「なぁんだ、バレちゃったか。ササッと拠点兵長を潰して貴方達の敗北で終わらせたかったのに」


 影は黒く渦巻き、その場に一人の人間の姿を模らせる。そして影が晴れればそこには、真っ黒な衣服に身を包んだ金髪の女性が敵陣ど真ん中であるにも関わらず余裕そうに立っている。


『俺がいるのにそう簡単に取らせるかよ』

「あら? もしかして引継ぎ組かしら? だったらちょっとこっちも本気で落としにかからないとまずいわね」


 どうやら相手も引継ぎ組。だとすればこの戦いの緊張感は一気に高まっていくことになる。


「こっちにも何人か引継ぎ組がいるんだけど、まさか初戦の相手が刀王だとは運が無いわー」

『俺のことを知っているとは光栄だな』

「だって喋れば良いのにわざわざそんなキーボードを使っているなんて、一人しかいないじゃない」


 懐かしむようだが敵同士。会話の内容もお互いに挑発的になってしまう。

 そしてそんな最中に、会話の間に割って入る無粋者が一人。


「それ以上動くな! 抵抗するならこちらもただではおかないぞ!」


 馬鹿! レベルも無い兵士が不用意に近づいてんじゃ――


「邪魔」

「がっ――」


 恐らくは服の袖に仕込んでいたのであろう、針のような暗器が兵士の喉を一刺しで絶命に追いやる。


「どう? 今からでもベヨシュタットから寝返らない? 噂だと随分と腐った体制敷いているらしいじゃない」

『腐ってもベヨシュタット、だ』

「残念。じゃ――」


 ――質より量で押しつぶさせて貰うわ。

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