第三節 曲者ぞろい 4話目
『あと一体……どこにいるんだよ』
「まったく見当たりませんわね……」
クエスト系あるある。決められた数の敵を倒さなければならないのに、最後らへんになると何故か対象の敵がリポップしなくなる現象が発生。
時刻的には既に夕刻を過ぎており、ボリス達もあの男を連れて首都近郊へと戻れているであろう時間帯にまで差し掛かっている。
『このまま見つけきれずに帰るなんて名が廃る真似はしたくないな』
「ですが主様、探知魔法ですら見つけられないとなれば、ここにはもういないのでは?」
一応クエストが出ているということは指定数必ず高原を徘徊しているはずだが、一通り歩き回っても姿形すら見当たらない。当然ラストを疑う余地など無い。ということは――
「……はぁ」
仕方なくヘルプ欄からこの世界の管理人であるシステマを呼びだし、状況を説明してバグフィックスを頼むことに。
「おや? どうしたんだいユーの方から呼び出すなんてさ」
『高原トロールの討伐で最後の一体が見当たらない。高原の端から端まで歩き回ったがポップしていないんじゃないか?』
「そんなことは無いはずだよ。だってほら、周りを見渡せば必ず――あれ?」
おい。
『……まさかバグでいなかったってオチは無いだろうな?』
「ま、まっさかー!! ……ちょっと待っててね。今こっちで周辺モンスターをリストアップして探すから」
なんで十年も経ってこんな初歩的なミスを残してんだよと突っ込みをいれたいところだが、どうやら十年前とは違ってポップはしているらしい。
「うーん、いるにはいるんだけど、何故かこの高原からもの凄い勢いで離れていっているんだよね」
『軸系のバグか?』
「違うんだよね……あぁー、そういうこと」
一人で勝手に納得したのか、システマはポンと手を叩いてにっこりとした表情で手元に呼び出していたボードから俺の方へと視線を移してこう言った。
「うーん、できるなら急いで討伐に向かった方が良いかもね。方角は教えるけど、そこから先は頑張って探してね」
『なんだと? バグじゃないのか?』
「うん。ただ本当に急がないと、一人犠牲者が出るかも」
犠牲者と聞いてはのほほんとはできない。それにこの言い草だと死なれたらそれなりにプレイヤーにとって不利になる人物が関わっている可能性がありそうだ。
『ならば急がせて貰おう。方角を教えてくれ』
「ここから北西に真っ直ぐ進んでいくと同じような開けた平原があるから、あとは探してね」
『礼を言う』
早速縮地の準備を整えると、ラストに合図を送って北西へと一気に走り出す。
『北西だそうだ』
「では急ぎましょう。主様、加速の必要はありますか?」
『ああ。できればバフをかけて貰えるとありがたい』
ラストの手助けを受けて、俺は沈みゆく日を追うかのごとく北西へと真っ直ぐに進んでいった。
◆ ◆ ◆
先程のガルマス高原とは似て異なる平原。高原では背の低い草が一面に広がるばかりだったが、この平原では所々に岩が顔を出している。名前は知らないが、地形的には異なる場所だと理解できる。
そして突出した岩の中に、一方向に動き続けている物体が混ざっている。
『見つけたぞ。何かを追っているようだな』
「あれは…………あぁー……」
ラストの反応からするに彼女の好ましい人物では無いことは間違いない――というより、俺以外で彼女が好む人間を見たことが無い。シロさんですらとりあえず俺と一緒だからこそ最低限のコミュニケーションを取るくらいで、基本的に信用していない様子。
そんな彼女が見つけた人物だが、近づいていくごとに俺にとっても知っている特徴が見えてくる。
「……また追われているのか」
本人よりも大きな荷物。それを揺らしながら必死に逃げ惑う少女なんて、俺の知る限り一人しかいない。
「抜刀法・壱式――」
刎斬。文字通り一撃でトロールの首を刎ねて即死に追いやったところで、俺はそれまで逃げ惑っていた少女の名を呼んで足を止めさせる。
『何をやっているんだ、マルタ』
「ひぇ? あれ? 貴方はいつかの黒侍さん!?」
やはりこの少女、何かとトラブルメーカーな気がしてきた。