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第三節 曲者ぞろい 3話目

「お待ちください主様。ここは私にやらせていただけますでしょうか」

「ん? 『なんだ、珍しいな』」


 先程から妙に大人しいとは思っていたが、ここで口出しをしてくるとは思わなかった。ラストは刀を構える俺の前に遮るように俺の前に立ち、そして相手に対して脅しつけるように右手に得意の猛毒の針をいくつも生成する。


「余りにも呆けた発言、このような不埒ものの始末は私にお任せを」

「これはこれは美しい女性だ、思わず息を呑んでしまう程に」


 そりゃそうだろうよ。彼女は【七つの大罪セブンス・シン】の色欲を司る魔物、それこそ美において彼女の右に出るものなど存在しない。特に今は着替えも済ませたから奴隷と呼ばれる筋合いも一切無い、完璧な美女だ。

 ……性格さえまともなら。


「だがこの状況で前に出ること、その意味が分からぬ訳でもあるまい」

「あらあら、女には手を出せないとか掃いて捨てるような下らない縛り付けでもしているのかしら? それとも私に負けるのが怖い?」

『あぁー、あんまり無茶苦茶なことはするなよ』

「ええ主様、分かっておりますとも」


 満面の笑みで振り替えるあたり、絶対分かりきった上で何かしでかすつもりだよこの悪魔は。


「……そこまで言うのならば、このサーベルの錆にしてやろう!」


 どうやら先程トロールを五等分したのも同じ得物サーベルのようだ。高貴な身分に相応しい金で装飾された華美な一振りだが、残念ながらそんな華美なだけの代物で倒せるほど、俺の戦術魔物(TM)は甘くない。


「幽玄の夢想曲トロイメライ……」


 とはいえ腐っても幹部を担っている身、相手がただ者ではないことくらいは理解できたのだろう。自身を含め四人に分身し、それぞれが囲うようにしてラストの様子をうかがっている。

 それにしてもサーベルか……前作だと直剣と同じカテゴリだったせいか、このような新規に追加された技、そして独立したサーベルという武器種を俺はまだ知らない。しかし幻術の類いとなれば、まったく技を見破れないという訳でもない。


「幻術……下らない」


 確かにその手のエキスパートであるお前(ラスト)にとってはそうかもしれないが、それでもちょっとは警戒してやれよとは思ってしまう。


「下らんだと? クククク、ならば四方からの同時斬撃を受けてみよ! 喰らえっ! 細断の四重奏カルテッ――」

「【血硝姫之荊壁レッドスパインシールド】」

「――おいおい、本当に殺しかねない技を使うなよ」


 呪文の示す名の通り、血で塗り固められた荊が術者の身を守るように周囲から生え、接触してしまった対象に対して猛毒の針で反撃をするという攻防一体の魔法。何も対策を積んでいない近接職ならこれ一つで完封ができてしまうというとんでもない魔法だ。

 そして予測通り、幻影は突如現れた荊によって一つ一つ貫かれては消えてゆき、最後に残ったのは本体のみ。


「あらあらー? 随分と顔色が悪いけど何かに()()()()のかしらぁ?」


 不敵にあざ嗤うラストと、対照的に猛毒に犯されて顔色を真っ青にする男。そこまでだと思った俺は荊を刀で切り離し、拘束状態にあった男を解放する。


『これを飲め。回復するわけじゃないが応急処置にはなるだろう』


 このまま放置しておけばいずれ猛毒で体力(LP)がゼロになる。そうなっては俺も寝覚めが悪いので、一時的に体力が徐々に回復する高級な薬を渡し、毒によるスリップダメージと体力自動回復を打ち消し合わせて帳尻を合わせる。


『ボリス、アリサ。この男に十分おきにこのポーションを飲ませ続けろ。毒については耐久力(DUR)次第だが三時間もあれば自然解毒されるはずだ』


 これが【刺突心崩塵ハートキルスティンガー】ならば諦めざるを得ないが、【血硝姫之荊壁レッドスパインシールド】ならばまだ回復薬を飲ませ続ければ生き残れる。


『そして二人ともそいつを連れて先に戻っていろ。俺達は残りのトロールを始末してから帰投する』


 ステータスボードのクエスト欄にはまだ五体中三体しか倒していないという結果が示されており、俺とラストで残りの二体を倒すことをボリスとアリサに伝える。


「ジョージ様はどうやって戻られるのですか!? 馬車も無しに――」

『気にするな。帰る方法ならばいくらでもある』


 そういえば思い出してきた。確かラストも【転送トランジ】を覚えていたはず。ならば首都の場所とこの場所で転送魔法を使えば余裕で戻ることができる。


『とにかくそいつを連れていけ。いいな、十分おきに薬を必ず飲ませるんだぞ』

「わ、わかりました。初代刀王様も、お気をつけて」


 瀕死のユンガーを乗せた馬車の見送りを終えると、俺は改めてラストの方を振り向く。


『……さて、そんなことより一体何が気に入らなかったんだ。ラスト』

「別に、何でもありませんわ」


 何でも無い男を猛毒に追い込む奴がいるか。


『何か機嫌でも損ねるようなことがあったのか?』


 諫めるために頭を易しく撫でていると、ラストはそれだけでは足りないと抱きついてきては顔を上げて俺の顔を覗き込もうとする。


『……一体どうした?』

「……別に、主様のことを自分が一番知っているかのような口ぶりのあの男が気に入らなかっただけです。……主様の顔すら知らなかった癖に」


 それだけのことで瀕死に追いやるとは……随分と嫉妬深い魔物だと呆れたが、それでも可愛げがあると思ってしまうのは長年の付き合いの弊害だろうか。


『……お前が一番俺のことを知っていることくらい分かってるさ』

「っ、主様!」


 分かったから他に変な気を起こす前にトロール二体を狩って帰るぞ。

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