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第三節 曲者ぞろい 2話目

 ガルマス高原。首都近くにしては敵のレベルが2から10程度と低レベル帯なものだが、時折レベル60の高原トロールが徘徊することから初心者の経験値稼ぎにはあまり向かない地域であることは知れ渡っている。

 高原を吹く風も気持ちよく、風景や地理的にはかなりよい土地なのだが、トロールの関係もあって人がめったに通らない場所だ。


『わざわざ馬車を借りる必要は無かったと思うが』


 馬車に乗っての移動は歩くよりは楽だが、このくらいの場所なら首都から歩いても良いような気がする。


「いやいや、流石に丸一日歩くのはきついですよ」


 丸一日か……前作の俺達ならそれ以上の時間をかけていろんな場所を文字通り踏破していた記憶があるぞ。それこそここから一年通して雪が積もるシュベルク山くらいまで、刀王になっても歩いていたことすらある。


「そろそろ着きますよ。準備してください」


 手綱を握っていたボリスが後ろを振り向いて声をかけてくる。外をのぞき見るとそこには現実世界では有り得ないような濁り無き青空と、風に波打つ草原がどこまでも広がっている。


「……懐かしいな」


 最初期の頃に他に人のいない経験値稼ぎの穴場スポットとしてシロさんとベスとモンスターを狩りまくったのが昨日のように思い返される。あの時も確か遠くに見えたトロールを見てレアポップかとウキウキで近づいて、レベル差にビビって一時撤退したっけか。


「そんなトロールが今となってはただの雑魚とは、これもゲームのあるあるネタってか」


 かつての強敵も今ではただの雑魚モブの一つに過ぎない。物思いにふけりながら腕を組んで草原を見渡していると、平坦な地に明らかな大岩のような影が姿を現わす。


「……噂をすれば」


 高原トロール。俺にとってははした経験値にもならないが、これをかることが今のギルドメンバーにとって手助けになるのならば加勢する他ない。

 少し離れた場所に馬車を停めさせ、最初は手を出さずに二人の実力を測ることを決める。


『……ボリス、アリサ』

「はい」

「はーい」

『お前達で倒してみろ』

「えっ? あのトロールをですか?」


 ここまでで実は一つ気になっていることがある。あのシロさんが噂程度と言っていたNPCの成長についてだ。

 前作だとNPCの育成は不可能、つまり一度定められたレベルはそのままゲーム終了まで上がることは無かった。スキルも何もかも、一切合切固定化されていたはずだ。

 だが噂の通りだとすれば俺達と同様に、NPCもPCのようにレベルが上がり、ステータスが割り振られ、スキルが上昇するように解釈できる。ラストのレベルが上がるかどうかで調べてもいいのかもしれないが、流石に150が上限のままでプレイヤーと横並びになると予想するのが自然に思えるし、仮に上がるとしてもそもそも元が150レベルなだけあって生半可な経験値稼ぎでは検証できない。

 だからこそ試す必要がある。レベルもそこそこといった様子のこいつらに手伝って貰う形で。


『安心しろ。死ぬ前には加勢してやる』

「で、ですがあれはちょっと……」

「何言ってんのボリス! これはチャンスだよ!」


 石橋を叩くかのように消極的なボリスに対して、アリサは何とかしてやってのけようとしている。


「ここで刀王様に認めて貰えれば、一気に幹部になれるかも!」

「そりゃそうかもしれねぇが……」


 いまだ踏ん切りのつかないボリスを見かねたのか、アリサは一人突出してトロールへと向かっていく。


「主様、一体何をお考えで?」

『今のところは何でもない。だがもしかしたら、お前にも関係があることなのかもしれない』


 そうして出遅れたボリスの後を追って、俺とラストもまたトロールの方へと向かっていく。

 近くで見れば一目で分かる。鈍い動きに苔の生えた身体。

 全身が青銅色の巨人。それが高原トロールの特徴だ。本来ならばもっと標高の高い場所に出現するはずだが、何故かこの比較的危険度が低い場所でも稀に姿を現わしている。


「じゃあ早速、うちの実力を見てもらいましょう!」


 そう言ってアリサが取り出したのは、ククリ刀と呼ばれる種類の湾曲したナイフ。そしてカイとは違って接近戦を得意としているようで、トロールの鈍い拳の振り下ろしを軽々と回避してはそのまま腕を駆け上がっていく。


「にゃー!!」


 そのまま肩に傷口をつけつつそのまま離脱するが、トロールの体力はまだまだ余裕が残っている。


「ったく、無茶だけはするなよ」


 直剣ブロードソードに鉄製の盾。おおよそ騎士ナイトとしての標準装備を身につけたボリスは、トロールの攻撃を盾でそらし、一撃一撃とカウンターで堅実にダメージを与えていく。


「こうして見ていると懐かしいな……だが、どちらもレベルの割にスキルを使わないな……」


 隙を見て放つことを考えているのか、あるいは覚えていないのか。可能性としてはどちらも考えられる。


「ボリスの方はバスターブレイクくらい使っても良いと思うんだが」

「っ! 主様!」


 考えに気を取られている隙に事態が動いたようで、ラストに促されるままに視線を戻すと、それまでピョンピョンと跳ねていたアリサがトロールの手中に収まってしまい、拘束攻撃をくらってしまっている。


「ぐっ、かはっ……!」


 必死に握られた手を外そうとするも、トロール相手には相当な筋力(STR)が必要になってくる。つまり現状として彼女一人では拘束を解く方法は存在しない。


「大丈夫かアリサ!? 今助けるぞ!」


 とはいってもアリサを握った手を含む両手でのラッシュをただ防ぐだけでは、反撃はままならない。


「まずいな……」


 あのまま地面に叩きつけられ、そして踏みつけのコンボまで入ってしまえばアリサは確実に死ぬ。流石の状況悪化に割って入ろうと、腰元に手を添えたまま縮地を使おうとしたが――


「――斬裂の五重奏曲クインテット!!」


 トロールの身体に、星のような五つの線が通過する。直後、肉体は五つに分かれ、トロールは無残にも五つの肉塊へと化してしまう。


「――またしても援護という名の妨害に来たか、ボリス・カルマン」


 声だけで分かる高慢さ。しかしながらただの傲慢な男と断言するには早計だろう。体力がまだ3分の2もあったトロールを、技一つで仕留めたのだから。


「……俺はそうなると思って反対したんですけどね」

「フン。下らない」


 襟首を正すように指を這わせ、オールバックの髪を整えるように髪を後ろへと追いやる。が、一本だけが前髪となって降りてきている辺り間抜けているようにも思える。

 行動一つ一つに高貴さと奢り高ぶりが混ざっているが、それだけの実力と地位が、目の前の男には備わっている。


『お前が今回増援を依頼した男か?』

「ん? 貴様は……何者だ?」


 おっ? ここに来て俺を知らない男発見か? これはある意味チャンスだ。

 一瞥するなり眉をひそめた男に対して俺は静かに刀を抜くと、切っ先を真っ直ぐそのまま向けて挑発をする。


『なーに、この程度のモンスターに手こずっている幹部がどの程度の実力か、はかってやろうと思ってな』

「随分となめた口をきく男だ……その舌を切り取って、初代刀王へ差し出すための供物としよう」


 ん? ちょっと待て! 初代刀王は今目の前にいる奴だってこと、こいつ理解できてないだろ!?

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