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第三節 曲者ぞろい 1話目

 首都に来てから三日目の朝、そろそろ屋根裏から脱却したいところ。


『シロさんは昨日の稼ぎからそのまま現地で野宿か。昨日のうちにシロさんに家をどこに建てたか聞いておけばよかったな。ある程度プレイヤー同士固まっていた方がいいだろうし』

「私は一緒の布団で主様と寝られるのならどこでもいいですわ」


 そりゃ、お前だけ得する問題だからな。そう言うだろうよ。

 とはいえゲーム内とはいえ寝心地の良い悪い程度はあるっていうことか。実際はヘッドギアつけたまま、どこぞの酸素カプセルか何かに突っ込まれているだけなのかもしれないが。

 ひとまずいつもの隠れ家(レストラン)で朝食を取りながら、昨日のうちにシロさんから受け取った現在のベヨシュタットの大まかな地図を広げる。百年前とは違って路線図が追記されている辺り、随分と交通の便が良くなっているようにも思える。


『首都に建てるのは考えから外すとして、できれば列車一本で首都まで来られるような、信頼できる土地に建てられればいいのだが――』

「だったらネルロとかどうです? ここより小規模ではあるものの市場もありますし、テクナッチ港みたいに変な領主やつが取り仕切っていない土地なので悪目立ちさえしなければ下手な探りもないですよ」


 地図とのにらめっこから顔を上げると、見覚えのある憲兵の姿が。

 俺の目の前に現れたのは、テクナッチ港にて俺に汽車のチケットを譲り、ギルドと引き合わせてくれたボリスだった。


『お前か。確かに言う通りにしたら、シロさんと出会うことができた。礼を言う』

「いやいや、舞い戻ってきた創設者様にそう言われると俺も冥利に尽きます。とはいっても、俺もまだギルドの下っ端ですから、キョウとかカイとかのように若いながらに強い面々に比べるとまだまだ」


 ということはこいつもギルド所属だったのか。

 ……ん? ちょっと待て。こいつ今自分のことを下っ端といったな? 

 そもそも冷静に考えたら今のギルドにはどれだけメンツがいるんだ? 俺とシロさんの昨日の会話だと幹部六人と下部メンバーがいるって話だったが……というか最初からあの人六人のこと“幹部”って言っていたよな?


『あー、ちょっといいかボリス。今の“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”にはどれだけの人間が所属している?』

「どれだけって……幹部六人に俺やエニシのような下っ端がそれなりにいる感じで、表立っていないだけでそれなりの規模はありますよ」


 道理でこの隠れ家的レストランにも朝からポツポツと人間が見受けられるわけだ。というか、使えそうな幹部以外の人数確認をおろそかにしているとか、ある意味効率厨のシロさんらしいというか、なんというか。

 想定していなかったギルドの拡大という事実を前に、理解に落とし込むように静かに息を漏らしつつ、俺はそこから改めて過去を思い返す。

 百年前はたったの六人の少数精鋭。その後の変革はよく分からないものの、上層部が六人体制なのは変わらず。ある意味では風習として残っているのだろう。


『ひとまず幹部六人の名前を教えてくれ』

「ええ、はい。まず斬り込み隊長のキョウ=リクガミに、ギルドの諸活動の補佐をするカイ=ハーロウでしょう、後は遊撃手のチェイス=アボットに――どぐはぁっ!?」


 それまで丁寧に指を折って数えていたボリスを妨害するかのように、背後から突如としてタックルをかます少女が姿を現わす。


「ボーリスっ! 一体何をしてるのさ!」

「お、お前はお呼びじゃないんだよアリサ。別のところで飯でも食ってろ」

「えぇー!? なんか楽しそうにしてるから混ぜて欲しいにゃー!」


 乱入してきた少女の風貌はというと、俺を真似しているのか何かは知らないが似たような黒い布のフードを被っていて、そしてその裏側から二つの突起が普通の人間ではないと主張している。


『もしかして亜人デミヒューマンか?』

「あっ! よく分かりましたね初代刀王様!」


 よく分かるも何も見ての通りだろう。猫のような尻尾もくねくねと動いているし。そしてこいつも俺のことを知っているのか。

 この雰囲気からして、あの時ボリス以外の気配を感じたのはこいつで間違いなさそうだ。


「うち、アリサっていいます! 百年前にうちの一族が初代の刀王様のおかげで救われたって聞いて、ずっとこのギルドを志願していました!」


 うわー、それ本人の前で言われるとむず痒さと共に妙なプレッシャーを感じるから止めて貰えませんかね。


「それで、ボリスがもしかしたらここ最近百年前の英傑達が復活していて、初代刀王様ももしかしたら復活したかもって話を聞いて急遽姿だけでも見たくて――ってあれ? ずっとうちばっかり喋っててごめんなさい!」

『いや、別に構わないが……』

「流石は我が主様。百年経ってもその栄光は色褪せることがないわ」


 というかボリスはいいとしてアリサまでちゃっかり同じテーブルに座らないで欲しい。多少はコミュ障が改善されたとはいえここまで急激に距離を縮められたら挙動不審になりかねない。


「よかったらその当時のこととか聞きたいんだけど、刀王さまぁー、聞かせてくれなぁい?」

「はいはい、後で聞け後で聞け。今は六大幹部についての話をしているんだ」


 しっしっ、とまさに動物を追いやるような動作をとるボリスであったが、アリサはキョトンとした表情で言葉を返す。


「幹部の人たちについて? だったら今から会いに行けばいいじゃん」

「いやいや、俺等みたいな下っ端がそんなにホイホイ会えるわけ――」

「だって、さっきここの主人マスターが何人か派遣して欲しいっていって、幹部の手伝いの依頼が来てるよ」

『それは本当か?』


 百聞は一見にしかず。別件で三人が動いていると聞いているが、悠長に待つよりはこちらから出向いていけるならそれもアリだ。


「一体誰が?」

「えぇーと、確かユンガー様だった気がするー」


 アリサが何気なく放った人物名が、何故かボリスを硬直させる。


「げっ……それだったら俺達は行かない方が良いんじゃないか……?」


 初めて聞く名前だが、どうやらギルド内でもあまり評判が良い人間ではないように窺える。しかしそれならば尚更見ておきたい。只でさえ曲者(?)揃いの幹部軍団なのだから、こちらから見定められるなら普段の姿を確認しておきたい。


『別に俺も向かうから良いだろう。何か問題でも?』

「い、いえ……なにぶん色々と気難しい人なので……」

『気にするな。そういう人間の扱いには慣れてる』


 十年前も、社会に出てからも、そういう人間の取り扱いやあしらい方は会得している。何も問題は無いはずだ。


『では早速向かおう。場所は?』

「ガルマス高原。近場だから途中まで馬車を借りれば良いよ。そこから徒歩で合流できると思う。はぐれた高原トロールの討伐だって」


 トロールか。その程度ならこの人数でも討伐できるだろう。

 そうと決まれば朝食を手早く済ませて主人に代金を支払い、ボリスとアリサに連れられるままに高原へと向かうことに。


『楽しみだ。次はどんな人間に出会えるのやら』



          ◆ ◆ ◆



「――フン……この美しき草原に、貴様等のような醜い化物は存在するに値しない」

「ゴブルッファァ!!」

「鳴き声もまさに醜い。……よかろう。醜いならば醜いなりに――」

 ――鳴け。戦慄わななけ! このユンガーに貴様の悲鳴を供物として捧げよ!

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