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第二節 久しく見ぬもの 7話目

 防衛戦の戦闘結果リザルトを確認し終えた俺達は、カイの【転送トランジ】で再び首都へと戻ってくることができた。中継役を行っていたエニシから事前にギルドとして申請していた分の報酬を受け取る為の報告に向かうというメッセージを貰った俺とシロさんは、ラストと現ギルドを支えるメンバーであるキョウにチェイス、そしてカイを連れて夕飯のために例のレストランへと足を運んでいる途中である。


『当分はここが根城になるって話だが、シロさんは別途隠れ家でもあるのか?』

「ええ。お金と装備()()は引継ぎできましたから」


 お金と装備“だけ”は?


『……失礼だがシロさん、ラースはどうしたんです?』

「……ボクもジョージさんみたいに、ラースの巣穴でログアウトするべきでしたね」


 そこからなんとなく察することができる。というよりも俺が恐れていた事態をシロさんの方が味わってしまっている可能性があるようだ。


『現在ラースはどこに?』

「さあ、分かりません。まだ巣穴にいるのか、はたまたどこかの国に戦術魔物(TM)として使役されているか。ジョージさんみたいに信頼関係を築いているわけではありませんでしたからね。別の輩に獲られていたとしても不思議ではありませんよ」


 【七つの大罪セブンス・シン】における憤怒を司る巨大な古代龍、ラース。風林火山から火山だけを抜き取ったような、まさに攻防最強の魔物。ラストのように身軽には行動できないものの、それを補うような巨体と超攻撃力はまさに災害そのもの。俺とシロさんだけでは御するのも難しく、それこそ“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”全員でかかってようやく鎮められた程の強大なモンスターだ。


『ラースを失ったのは痛手だな……』

「しかしまだ彼女ラストがいるのなら立て直しは楽では?」

「残念ながら私が尽くすのは主様だけだ」

「ええ、もちろんわかっていますとも。ですが同じギルドのメンバーとして、力を貸していただくことは可能でしょう?」


 それはそうかもしれない。でもまずは、祝杯も兼ねて腹ごしらえをするとしよう――



          ◆ ◆ ◆



「がつぐぁつ! ゴクッゴクッ!! ……ぷはーっ! いやーっ! 今回のいくさは手柄を立てられなかったが、戦いの後の飯の味は変わらず美味いわ!!」


 ……それにしてもよく食えるなこの男は。一体胃袋のどこに入っているんだ。さっきまで丸々残っていた肉の丸焼きらしきものがもう骨だけになっているぞ。


「もぐ、ぐむ、ぎゅむ……ごくん。キョウ、食べ過ぎ」

「お前も人のことは言えないだろ……相変わらず行儀の悪い女だ」


 チェイスもまた大食らいのようで、食べ終えた皿を何枚もすでに重ねている。

 カイはというと、服装同様に上品にナイフとフォークを扱っている。元はどこかの名家出身か何かだろうか。

 そんなギルドの三人とはテーブルを別にして、俺とシロ、そしてラストは現状の再確認を行う。


『それで今のところ味方として使えそうなのは、あいつらぐらいか?』

「ええ。現状は彼ら幹部とエニシさんのような下部メンバーでやりくりしていくしかないかと。それとは別に、今回の続編におきましてある程度の情報を仕入れてきました」

『仕入れ元は?』

「あのAIです」


 黒幕システマからの情報か。あのAIは倫理観ゼロだが、前の制作者と同様ゲームに関しては嘘偽りなくフェアな存在だから信用はできるだろう。


「まず最初に、ボク達のレベル上限と武器のレアリティ上限が上がりました」

『何レベルに?』

「共に150レベル。つまり後30レベルは問題なく上げることができます」


 言われてみれば俺も結構PVPで敵を倒してしまっているから既にレベルが1上がっているようだ。後でステータス割り振りを済ませておかねば。

 それはそうと、シロさんの方は――


『――げっ、もう5レベルも上げたんですか』

「ええ。幸運にも戦争以外でPVPを仕掛けてくる人が多かったので、纏めて始末したら結構上がりました」


 恐らく既に相当数の引継ぎ組をリセットに追いやってきたのだろう。おお、怖いこわい。


『相変わらずあんただけは敵に回したくないな』

「お互い様でしょう。PVPにおいてなら圧倒的に貴方が上でしょうに」

『PVPでもPVEでもとっさに機転が利くよう万能型に割り振り済ませている人が、よくいったものだ』

「フフ、それは過去作での話です。今作でのビルドの完成形はまだ見えてこないので、割り振りもこれから考えていくところです。さて、手に入れた情報の続きですが――」


 このまま互いに昔話に花を咲かせたいところだが、シロさんの口ぶりからして情報はまだ他にもある様子。


「これは引継ぎ組全員が注意して欲しいとのことでしたが、引き継いだ中でお金があるでしょう?」

『ああ。結構な金額残していたな』

「そのお金ですが、経済が荒れるから一気には使わないで欲しいとのことです」

『経済が荒れる? それは世界観を守るためという意味で?』

「いえ。言葉を濁していましたが、もっと別の意図があるように思えます」


 別の意図……? 別にいくら金を使ったとしてもゲーム内ならほぼ最終的にNPCとの物品売買やプレイヤー同士の取引の際の手数料でシステム的に回収されるだろうし、RMTしようにも一般プレイヤーはログアウトできない状況なのだから問題は無いだろうに。


『……妙な話だな』

「ええ。この話は一気に大量のお金を使おうとしたプレイヤーには注意として流されるようで、ボクも首都郊外にとりあえず大きな土地と家を買い占めようとして止められました」


 そう言ってシロさんは困り顔で苦笑を浮かべているが、俺にとってシステマの忠告はもっと別の意味があるように思える。


「そして最後に、NPCに対するゲーム用語なのですが、相変わらず理解されないようです」

『だろうな』

「しかしステータスに関しては数値ではなく得意不得意といった形で話してはくれるみたいです。詳しく知りたければ鑑定スキルを使うしかありませんが」


 なるべくこの世界観を壊したくないという制作者の意図から、NPCはその世界に住む十人として、俺達が喋るレベルやステータス、スキルといった類いの用語をあまり理解できない様になっている。当然ながらラストに「お前のレベルは?」 と率直に聞いたところで理解ができるはずもなく、頭の上にはてなが浮かび上がるように小首をかしげるだろう。

 しかしそれも問う側の尋ね方次第、あるいは鑑定スキルで直接見るなりである程度は推測ができるということだ。


「後はまだ細かく変更点があるようですが……それらに関しては今のところ伏せられていますね」

『今のところそれだけ聞ければ十分だろう。多分』

「ええ。いざとなったらまたヘルプコマンドで呼び出せば良いでしょうし。さて、と」


 食事を終え、シロさんは即座に立ち上がる。恐らくは深夜にまた一人で近辺に経験値狩りに出かけるのだろう。


『誰か連れて行かなくていいのか?』

「ええ。“今”のギルドを支えている幹部は全員NPCですし、NPCも成長するとの噂も流れていますが、確定情報でないあやふやな時点で経験値稼ぎをしても意味がないので。それに現状ギルドで動くメリットも特にないですし」


 ん? 今の言い方だと俺もシロさんも今のギルドには所属しないような言い方だが?


『まさか“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”を捨てるとでも?』

「それこそまさかの話ですよ。我々はある意味では既に引退した身。引継ぎ組は基本的に百年前から蘇ったか、あるいは異世界から再びこちらへと舞い戻ってきたという設定らしいですので、その通りに我々は一歩身を引き、後輩にギルドを託すだけです」


 ……そうなるとすれば、だ。


『もしかして“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”の前身ともなったあのギルドを復活させるつもりか?』

「ええ、そのつもりです。今のところ我々は“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”の裏で糸を引く身であったほうが色々と動きやすいでしょうから」


 シロさんはにこりと笑っているが、その笑みも、それに返した俺の笑みも恐らくは少しばかり邪な感情が交ざっていたに違いない。


『つまり、俺とシロさんとベスで作ったあのギルドを復活させるということか?』

「ええ。ついでですので復活させましょう。あの超無法集団――」


 ――“無礼奴ブレイド”を。

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