第二節 久しく見ぬもの 5話目
「ところでお前さんは何もんだ!? 見たところ俺と同じ侍に思えるが!」
いちいち「!」がつくほどの強い口調で喋らなくても聞こえてるんだが。
『ああ。正確には武士だが』
近接基本職である剣士から派生した職業、侍。更にそこから上位職である武士という職業が俺の今の職業。ということは、こいつは一つ下の職業の後輩(?)になるのか。
「武士!? すげえなあんた!! 俺の知ってる限りだとベヨシュタットで歴代に武士までいったのは“二代目”刀王含めて五人しかいないって話だからな!! ……あれ? おかしいな」
いや、俺もおかしいと首をかしげたい部分があるぞ。なんだよ“二代目”刀王って、初代は俺だとして今の代の刀王ってどんな奴なんだとこの場で問いただしたくなる。
『すまないが、二代目刀王について教えて――』
「あっ! そういえばギルドで一回集まるんだったわ! すまん! 今回の戦の大将首はあんたにやる! だが次は負けないからな!!」
そうしてキョウと名乗る男は再び土煙をあげて、どこか遠くへと走っていく。
あの健脚ぶりからして耐久力にも相当ステータスを振ってそうだな……俺とは正反対の侍か、面白そうだがあまり相手にはしたくないな。
「一体なんでしょう今の男は! 主様に対してあまりにも無礼な!」
『気にするなラスト。あいつも今のギルドのメンバーのようだ』
「……やはり主様が纏めてこその“殲滅し引き裂く剱”ですわ」
どうやら新たなギルドメンバーに対してラストは基本的に気に入っていない様子。そんなラストの肩に手を置きながら、俺はキョウという男の後を追う。
「行くのですか?」
『ああ。この戦もそろそろ終わる。敵も大方気づいて撤退を開始している』
指揮系統が崩れた今、この戦場を持たせる程の力が相手にあるとは思えない。それに先程までは着弾による戦火や兵士の突貫する叫び声が多く上がっていた戦場だったものが、徐々にだが静けさを取り戻しつつある。
『敵も甘く見ていたようだな。まあ仕方ない部分も大いにあるが』
まさか戦場に二人もレベル120がいるとは想像していなかっただろう。もし俺が逆の立場でそれを知っていれば、即刻撤退を提案するか、あるいはレベル150の戦術魔物を最低一体は投入するだろう。
「さて、予定通りに集合をするとしよう」
ありがたいことにあのキョウとかいう男、かなりの土煙を上げて走ってくれているようだからな。後を追うのが楽でしょうがない。
『少し急ぐために縮地を使う。ついてこいラスト』
「もちろんですわ」
ま、急いだところで下手すればキョウに追いついてしまって余計な注目を受けてしまうかもしれないが。
そうしておまけ程度に逃げ遅れた兵を辻斬りしながら土煙を追っていくと、しばらくして煙が途切れている場所へと到着する。
「……あれは!」
遠目に見ても目立つ。周りが黒っぽい鉱山地帯だからというのもあるだろうが、相変わらずあの人はいろんな意味で目立ってしまう。
絶対に見間違えない。俺とは真反対の真っ白なコート。片手にもった大剣に、胴体を丸々隠せる程の大楯。そして常に余裕を持った表情の裏には超がつく程のドSな考えを持つ男。
#FFFFFFこと、シロと呼ばれる男がそこにいる。
『おーい! シロさーん! お久し――ッ!』
……おいおい、味方に手を出すやつがどこに居る。
「貴様、何者だ。突然現れたかと思えば、シロ様の名を呼び捨てするとは」
すんでの所で俺の喉元に突きつけられようとしてた大型のナイフに、俺は刀を抜いて刃を合わせる。
『貴様の方こそ何者だ。俺はあの男に用があるだけだ』
「我が主君に用だと……ならばこの俺を打ち倒してからにするがいい!」
俺から距離を取ってようやく、その少年の全体像が俺の視界に映る。
白いシャツにベストという戦場より社交場に合いそうな服装。そして手に持っているのは大型のナイフ複数。
顔つきは中性的にも見えるが、声と態度で男だというのが即刻判断できる。
少年は明らかに敵対的な態度をとり続けるとともに、片手から更に両手にナイフを、合計八本構えて俺の前に立ち塞がる。
「シロ様に立ちはだかる敵は俺が全て滅する。“殲滅し引き裂く剱”の名にかけて、カイ・ハーロウが相手しよう!」
まったく、随分な忠犬を手懐けているようで。面倒だがここは相手をしてやろう。