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第二節 久しく見ぬもの 4話目

「な、なんだこいつは!? 一人で突っ込んで来やがった!?」

「待て! 落ち着いて取りかこ――がはっ!?」

「抜刀法・参式――」


 ――絶空乱舞刃ぜっくうらんぶじん。三百六十度全方位に絶空をばらまいて殺すという、乱戦向きの技。特に敵に囲まれた時に周囲を弾き飛ばすことに使える便利な技だ。


「くそ!! 真っ白な騎士ナイトが現れたかと思ったら、今度は黒い侍かよ!?」

「ベヨシュタットは人手不足じゃ無かったのか!? 斥候スパイの話だと鉱山は優先度が低く簡単にとれるとの情報だったぞ!?」


 鉱山の優先度が低い? 馬鹿げた話だ。


『鉱山は取らせん。貴様等には屑鉄がお似合いだ』

「くっ、ふざけるなぁあああああ!!」


 機兵を取り巻く兵の内の一人が、とっておきとして背中に背負っておいた大砲ハンドキャノンを手に取ってこちらへと照準を合わせる。


「死ねぇ!!」


 砲弾の発射とともに跳躍、そしてコマのように回転。すり抜けざまに肩口から斜めに斬り捨てて着地。


「ごはぁっ!!」

「素早い相手、しかも接近状態でわざわざ大砲を使うとは無駄なことを……」


 チェイスにも教えたが、接近戦で遅い攻撃など自殺行為でしかない。俺は刀身についた血を振り落とすと、更に敵陣の敷いてある山の上の方へと真っ直ぐに突っ込んでいく。


「さーて、大将首でも持って帰れば少しは役に立てるか……」


 進行方向に立ちはだかる雑兵を次々と斬り捨てて、狙うは先程遠目に見えていた四足歩行の大型機械。明らかにそれを中心にすべてが動いているように見えることから、機械の中にいる人間が今回の戦争の糸を引いているとみて間違いない。

 あとは鈍っている感覚を取り戻すために実戦あるのみ。背後に立たれようが、横に立たれようが、スムーズに持ち手を変えて対応する癖が、徐々に徐々に戻ってきている。


「ば、馬鹿な!? これではまるで、まるで――」

『まるで“刀王”のようだ、とでも言いたいのか?』


 突き進む道の最後の一人を斬り捨てたところで振り返ると、そこかしこに死体ばかりが散らばっている状況で、後を追ってきているとしても遠巻きに様子を見る輩ばかりが目に入る。


『……どうした? かかってこい』

「くっ、どうやって奴を仕留めれば――ぐはっ!?」

「残念ながら、主様を満足させるような輩はおらず、虫ケラばかりということでしょう」


 突如として死の棘が降り注ぎ、残りの敵も次々とうち倒されていく。恐らくは俺が通った後の僅かな残党狩りをしていたのであろう、いつの間にか俺の背後を守るかのようにラストが寄り添い立っていることに気が付く。

 こうなるともはや俺達に死角など無い。否、元から無かったようなものか。


『どうする? 勇敢にもここで戦って散るか、それとも畜生のように悲鳴を上げて逃げ去るか』


 わずかに残った残党に対して、俺は最後の警告をする。

 今なら逃がしてやってもいい。だがこれ以上残るのならば――



 ――確実に“消す”。


「ひっ、ひいいいいい!!」


 流石にレベル差、あるいは実力差を理解できたのか、最後まで俺の言葉を聞くまでもなく撤退を開始している。

 そんな中でたった一機、退避する兵士を追うようにして、山の上から機械が一機下ってくる。


『……残ったのは貴様だけか』

「そこらの雑兵(NPC)と、この俺を一緒にして貰っては困る」

「フッ……『だろうな』」


 やはり一個軍隊を率いるだけの力は持ち得ている、か。

 前作の機械を引き継いで、更に今作で急ごしらえの改造を仕込んだ、というところか。

 大型の四足機械が、俺の前に立ち塞がる。斜面に立っているからかその大きさは本来よりも大きな影を地面に落としている。


「誰かと思えば、前作の有名人じゃないか」


 機械に付属している拡声器から男の声が、友好的な口調でありながらも俺と同じ、闘争を求めて戦いに来ている。


「面白い。同じ引継ぎ組同士、壮絶に戦おうじゃないか」

『同じだと? 笑わせるな』


 引き継ぎといっても俺とお前では受け継いだもののレベルが違う。そしてともに戦う者の存在も。


『貴様もすぐにリセットさせてやる』

「はははっ! 望むところだ。蒼侍ぃいいいー!!」


 四つ足の内の一つが、振り下ろされる。足裏に仕込まれているのは巨大な杭打ち機(パイルバンカー)。完全に足下の相手を踏み潰すための装備であり、そして俺にとっては丁度いい破壊対象となり得る。


「潰れて死ねぇ!!」

『こんなもので死ぬのなら俺はここまで生き残っていない』


 切っ先でわずかに軸をずらし、そのまま即座に足先をスライス、バランスを崩したところをスライディングで反対側へと逃げ切り、そのまま一気に倒れた機械の表面を駆け上がる。


「なっ――」

「抜刀法・壱式――」


 ――居合。

 

「ばか、な――」


 コックピットから縦に一刀両断。すり抜けざまに真っ二つに割れたロボットは山の斜面に沿って転がり落ちていき、はるか下まで落下した後に巨大な爆発を引き起こした。


「……あ」


 今のが敵の大将だったとして、爆発させちゃったら何もドロップ品がとれないじゃん。


「何やってんだ俺……」


 溜息をつきながら僅かにでも残っていないかと斜面を下っていると、反対側から恐らくさっきまで俺が戦っていた機械を追っていたと思わしき一人の男と鉢合わせになる。


「はぁっ、はぁっ……さっきの爆発があったってことは……なんじゃこりゃ! もう終わったのか!!」

『ん? 誰だお前は』


 見る限りだとベヨシュタット側の人間か? 軽装に近い鎧はどうでもいいが、腰元の刀身の長い直刀は少しばかり興味を引かれる。

 そしてこの男の目に宿る意思、まるで俺と同じ大将首だけを取りに来たように思える。

 血に飢えた猛犬のような、戦い以外に一切の興味を示さない眼。服装もそうだが、髪型も一切おしゃれに気をつかっていないボサボサ髪。

 だがこれだけは理解できる。ここまで新たに出会った人間の中では、こいつが一番強い。

「俺か!? 俺はキョウ・リクガミ。“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”の切り込み隊長をやってる男だ!」


 ……成る程。少しは期待ができそうだ。

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