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第二節 久しく見ぬもの 3話目

『――さて、そろそろ準備しておくか』


 【転送トランジ】による空間移動は即座に行われる訳ではない。とはいっても馬や列車に比べれば段違いに早いが、それでもこうした空間移動をする際には魔方陣の上に乗ってしばらく待つ待機時間キャストタイムがある。

 そしてまだ到着には少しばかり時間が残っているにもかかわらず、俺は腰元の刀の柄に右手を添え、近くに会話の為のキーボードを展開する。


「ふむ? どうされたのですか? 転送にはもう少し時間がかかりますけど――」

『気にするなラスト。念には念を、だ』


 これは偶然にも前作で敵側が【転送トランジ】を使ってきた際に気がついたものだが、この魔法の仕組みとしてはまず転送対象の足下に魔方陣を展開、次に魔法を使う者が知っている座標に魔方陣を同じく遠距離展開、これを済ませたあとに転送をするという仕組みだが――

 ――勘の良い人間プレイヤーは、転送先の魔方陣に攻撃を仕掛けておくことで一網打尽ができてしまうリスクを負わせることができるということになる。


「はて、主様は何をするつもりかは存じませんが……周りの風景も変わってきたようですし、そろそろ私も――ッ!?」


 ……案の定。


「何ですかこの砲弾は!? 偶然にしてもできすぎ――」


 同じく転送されてきた誰かが叫ぶが、俺にとってこれは想定内。


「偶然な訳、無いに決まってるだろッ!」


 抜刀法・弐式――絶空ぜっくうによる切断。頭上に落とされようとしていた砲弾は真っ二つに切り裂かれ、それぞれが別々の場所へと着弾、巨大な爆発を引き起こす。

 数十人規模の【転送】ならばこのように下手すれば砲弾一発で終わらせられる可能性もある――っていうより、俺が前作で周知徹底させていたことに何も対策を打たず平然ととばす辺り、やはりこの国は劣化しているだろ。


『まったく、呆れてものも言えないな』


 ふん、と息を漏らして俺は納刀を終えると、改めて周りを見回す。

 ゴドルナ鉱山。確か前作だと機械や銃火器、銃弾制作に必要な鉄や鉛がとれる貴重な鉱山帯だった記憶がある。無論、ベヨシュタットにおいても良質な鉄がとれることは良質な武器が作れることに直結することから、初期におさえておいた地域でもある。

 鉱山地帯から産出された鉄や鉛金属を加工するための工場らしき巨大な建物も幾つか見受けられるが、この辺りも文明が進んでいるといえるものなのか。


『いずれにしても、このままでは纏めて敵の機械ロボットに潰されるな』


 敵方は見渡す限り、機兵と呼ばれる小型のロボットに乗って攻め込んできている。中には砲弾を撃ち込めるような大型の四足歩行のロボットも見受けられるが、いずれもズシンズシンと地ならしをおこしながら鉱山方面へと攻め込んできている。

 ――至る所で戦火の硝煙が立ち昇る。

 久しぶりだがどこか懐かしさを感じる。

 ――戦場の空気が蘇ってきた。


『マシンバラか……』

「いえ、あれはマシンバラの技術を引き継いだ“テクニカ”と呼ばれる国の兵士のようです」

『随伴歩兵が持っているのは修理器具と援護用の銃火器のみ。キャストラインのような引きこもり集団戦法をしでかしてくる輩よりは数段マシか』


 既に転送された他のメンツは散り散りとなってそれぞれ武勲を上げようと戦いに身を投じている。ならば俺達も、遅れるわけにはいかない。


『ラスト』

「ハッ!」

『久々の戦争だ。楽しんでいこう』

「ッ! 御意に!」


 恐らくは俺とラストの表情を見て、チェイスは引いていただろう。

 どちらも同様に、闘争に愉悦を感じているような、不敵な笑みを浮かべているのだろうから。


「抜刀法・参式――霧捌きりばちッ!!」


 辻斬りのように、暴風のように。敵陣へと突入しては乱戦に舞い踊り、血を沸かせる。一閃ごとに敵をバサリバサリと斬り捨てては、更に敵陣奥へと入り込んでいく――


「チェイスとやら! 主様と私はこれよりお楽しみに行ってきますので、ギルドの招集には後で向かうとお伝えなさい!」

「で、でも先に集まりが――」

「問答無用! ではまた後ほど」


 俺の言いたいことは全てラストが言ってくれている。ならば後は、この戦いでどれだけ舞えるか。


「まだだ、まだ足りん!」

「主様! 後ろ――」


 遅い。振り向きざまに微塵に、そして見るまでもなく機械を鉄屑に変えていくこの感覚、すべてが戻ってきている。


「懐かしい……この感覚……!」


 戻ってきた。真っ黒なコートを身に纏い、戦場に暴君が戻ってきた。一太刀の下にまた一人、また一人と死んで(ロストして)散っていく感覚が、帰ってきた……!


『――殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション、ジョージ、いざ参る!』

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