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エンディング……? ~Frontline Walker~

「――本当に、こうするしかなかったのか」

『ここで王が暗殺なされたとなれば、この国は混乱の極みに陥るのは間違いない。それに幸か不幸か王の正体を知っているのは、この場にいる者だけだ』


 導王の葬式は盛大な国葬とはいかず、首都近く、この国を見下ろせる高い丘の上へと静かに墓標が建てられるだけで、後は僅かな者達だけで、祈りの言葉が捧げられた。

 既に墓標には僅かに雪が積もり始め、まるでこのまま忘れ去られるのではないかという皆の不安を現しているようにも見える。

 墓の近くにはケファロの折れた曲剣が寄り添うように突き立てられており、共に戦い散った者として、同じく祈りの言葉が送られる。

 そしてこの結末に未だに納得いっていない者が一人。


「ぐっ……何故、我らが大いなる主が……ッ!」

「よさぬかガイデオン。これは皆で決めたことだ」


 その場にいたガイデオンが、悔しさのあまり拳を震わせる。俺との戦いの負傷に加えて不意打ちにより倒れていた己への怒り、そして自分自身で決着をつけられなかったことへの悔しさ――それら全てが、彼の体を震えさせている。


「…………」


 ヨハン、そしてジェイコブはひたすらに王の墓前にて膝をつき、頭を垂れ続けていた。彼らもまたガイデオンと同じ気持ちを持ちながらも、それを表に出すことなく、ただひたすらに祈りを捧げ続けている。


『……あの時言わなかった導王との約束の話を、お前達に伝えておく』

「っ!」

『導王は俺達と大きな約束をしていた。それは、お前達のことについてだ』

「……なんだと?」


 一つ言葉を間違えれば殺すとばかりに、ガイデオンが睨みを利かせる。そしてそれまで膝をついていたヨハンやジェイコブもまた、俺の話に耳を傾けるべく振り返る。


『この戦争が終ったあかつきに、お前達に戦う以外の新たな存在意義を……自由を与えてくれと言っていた』

「俺達に……」

「自由を……? ……そんな筈があるかぁ!! 我ら聖剣七人衆、王を護ることこそが――」

『剣だからといって、戦うことしかできないと言いたいのか?』

「その戦うことすらできなかった我らに、今更何の価値が――」

『戦うことだけがお前達の価値だと、導王がそう言っていたのか?』

「っ……!」


 そもそも自らを道具と決めつけたの、彼ら自身だ。“先代の”導王が何か言って聞かせたものではない。


『それに、“今の”導王は他の誰でもない俺だ』

「――ッッッ!!」


 ガイデオンにとっての地雷を踏み抜いたようだが、これは事実として揺るがないものだ。

 導王を倒したモリオンヌに王位が移り、そのモリオンヌを始末した今、俺が導王という称号を手にしている。だがガイデオンはそれを認めるつもりはなく、俺を殺さんと三度目の襟首の掴み上げをしている。


「一体どこの誰が、貴様を導王と認める!? 我らはあくまであの大いなる主に使える身であって、“貴様の道具ではない”!!」


 しかしその言葉を聞いた俺は、殺意に満ちたガイデオンを前にして、フッと笑った。


「……それこそが、導王が望んだ自由意思だ」

「なっ!?」

「お前達は言っていたな。自分達のことを導王の道具だと。本当にその通りの道具ならこの俺、すなわち今の導王に仕えるのが道具としての在り方だ……だがお前は違った。お前は自分の意思で、先代導王に仕えていたんだ」

「……それの何が言いたい!?」

「ここまで言ってまだ分からないのか? 導王は道具としてではなく、剣としてではなく、俺達と同じ“心”を持つ存在として、お前達に自由に道を選んで欲しかったんだ」

「っ……!」


 ここでようやく、ガイデオンは自分の中の矛盾に気がついた。そして同じようにヨハンもジェイコブも、ハッとした表情をして俺の方を見ている。


『俺だって同じだ。当然、俺は先代の導王の遺志を継いでこの国を見守っていく。それに加えて、俺の手ではなくお前達で、先代導王の愛したこの国を支えていくことを、その自由を与えるつもりだ』

「我々の……手で……?」

「そんなこと……無理だ。わしらはあくまで剣、国の指揮を執るなど――」

『やり方なら俺達が教える。それをどう活かすかはお前達次第だ』


 ただの普通の剣ならば、戦うことしかできないだろう。だが自由に考え、言葉を発し、行動する意思を持った剣ならばどうだ。


『この国のこと、そして先代導王のことはお前達が一番知っている。……その意思を継ぐ自由も、お前達だけが持っている』


 俺はあくまで称号としてのお飾りの王だ。だがこの剣達であれば――王の意思を継ぐ自由を持つ者であれば、導王はそこに存在し続けられる。


『俺はその道に至るまでの導きはするが、その先はお前達次第だ』

「…………」

「……分かった」


 全員が沈黙する中で、ヨハンが口を開く。


「そこまで言うのならば、我々だけで王なき空の座を、導王の意思で満たしてみせよう」

「っ、できるのか!? ヨハン!?」

「できる出来ない、ではない。やるしかないだろう。それともここまで言われておいて、この男にこの国の行く末を任せるつもりか?」

「……クックック、ハッハッハッハッ! ハァーッハッハッハッ!!」


 そんなヨハンの挑発的な提言などお断りだと一周するように、ガイデオンは大きな声を挙げて笑う。


「……確かにそうだ。こんなふざけた“現”導王に道具として仕えるなど、まっぴらごめんだァ!」


 そうしてガイデオンは俺達に向けてこう言い放った。


「さあ、何処へでも行くがいい! 我らが“導きの王”、導王よ!! 我らは導王が誇る国の民を、我らだけで導いてみせよう!!」

『……その意気だ』


 さて、これだけ発破をかければ、この国も大丈夫だろう。もし何かが起こったのなら、俺が即座に手を差し伸べよう。

 ――それほどまでに、かの導王はこの国を愛していたのだから。


「……これでよかったんだよな、アイゼ」


 そうして最後に俺は背中に背負っていたアイゼを引き抜き、語り掛ける。


「……後はお前の仲間たちが、この国を護ってくれるだろうよ」


 そうして俺は弔いの意を込めて、導王の墓の傍に、ケファロと同じようにしてひび割れた剣を突き立てた。


「……そうじゃな。アイゼにもきっと聞こえているだろう」


 そう言ってゼバルベルは祈りを捧げる俺の目の前でアイゼを引き抜き――ってちょっと待て。


「アイゼは弔わないのか!?」

「ん? 何を言っている?」

「何を勝手にアイゼを死んだことにしているんだ?」


 ゼバルベル、そしてジェイコブは俺の行いに首を傾げている――えっ? 違うの?


「アイゼの剣はひび割れて、もはや復活は無理なんじゃ――」

「この傷なら致命的とはいえ、希望を捨てるほどではない。暫く魔力の濃い地域に突き立てておけば、復活の可能性は十分にある。……今はただ、深い眠りについておるだけだ」

「暫く、といっても、この近辺で一番魔力の濃い場所でも十年はかかるだろうがな。まあ、ここから更に北にある“ヴァーミリオン・ヘル”とかいう高濃度の魔力が漂う極寒の洞窟奥深くなら、もっと早いかもしれないが――って、ちょっと待て! 何をする気だ!?」


 ジェイコブの補足を聞くなり、俺はゼバルベルの手から剣をぶんどり、即座に背中の鞘へと納めていく。


『だったら話は早い。次の行き先は決まったな』

「えっ、ちょっ、主様!? もしかしてその女を――」

『ああ。俺のせいでこうなったんだ。最後まで責任を取るつもりだ』


 一度命を救ってもらったのだから、今度は俺がアイゼを救う番だ。


「しかも、最後まで責任を取るって……」

『先に言っておくが、お前の想像している意味とは違うからな』

「おいおい、流石に人が踏み入る場所じゃないぞ」

『大丈夫だ。何とかする』


 それにしてもヴァーミリオン・ヘルか……何やら高難易度のダンジョンの予感。

 そうして近々の新たな目標も立った今、俺はその場に別れを告げる。


『ギルドの方には連絡は入れておく。後はそいつらと一緒に国の復興を進めていけ。何かあったら俺に連絡も来るはずだ』

「貴様等の手を借りるまでもなく、復興程度やってみせる。だから安心して失せるがいい」

『ああそうかよ、じゃあ帰りはアイゼを連れて帰ってくるから、それまでにまずは復興をキッチリ済ませておくんだな!!』


 そうして俺はその場に背を向け、去っていく。それと同時に俺は即座にシロさんにコンタクトを取るべく、メッセージを送る。


「うわ、何かメッセージが色々来てたみたいだな……なになに、拳王率いるメンツとの五対五の勝負?」


 どうやら向こうは向こうで色々と条件が出されているようだが……今はそれには付き合えない。


「……だとしても一ヶ月、あの人達には待ってもらおう」


 今回の戦いを通して、得られたものは大きい。今のベヨシュタットの国内でのギルドの様相、俺達のギルドの立ち位置――そして、俺自身の弱さも。

 ひとまずソーサクラフとの予定以上の強固な関係を結べたことをメインに、そして導王の一件についても軽く報告をして、俺はステータスボードを閉じる。


「……一ヶ月後に、俺は再び最前線に立ってみせる」

「主様、その際には――」

「当然お前も一緒だ、ラスト。戦って、冒険して、成長して――一ヶ月で追いついてみせるぞ!」

「はいっ!!」


 そうして俺とラストはは吹雪が強まっていく中、真っ白になっていく世界の中へと消えていく――




 ――最前線に立てるよう、更に強くなっていく為に。今度こそ王の名に恥じぬよう、強い侍となる為に。

 ここまで途中数年単位筆をおいてこともあった中、長い期間ご愛読いただき本当にありがとうございましたm(__)m。

 これにてジョージの旅を追う話は一旦終了……なのですが、新シリーズとして新たに続編を立ち上げるつもりです(`・ω・´)。

 いったん終わったのは、まずは最初にもあった通り数年単位筆をおいていたことに対してまずは一区切り完結させるというけじめをつけたかったからです(´・ω・`)。それと一人称視点での描写ではそれぞれの心情や過去について深堀が難しいと感じたので、三人称視点で続編を新たに立ち上げなおしたいという気持ちもあるからです。

 この後は数週間おきに幕間をいくつか挟んで、来年2月1日から再度新シリーズとして続編を書いていくつもりであります('ω')ノ。その他詳細(続編で書く予定のストーリーラインや複線回収のお品書き等々)もまた後日活動報告にてあげさせていただこうと思います。

 もしこの続きを見てみたい、このVRMMOの戦記を追っていきたいと思っていただけたのなら、主人公のジョージが最後に残した言葉とは言いませんが、一か月ちょこっとの書き溜め期間をお待ちいただければ幸いです(´・ω・`)。

 重ね重ねになりますが、本作に長期間お付き合いいただき、本当にありがとうございました(`・ω・´)。

追記:活動報告に今後について詳細を記載しております。よろしければ目を通していただければ幸いです。(`・ω・´)ゞ

追々記:幕間を投稿しました。「~幕間~ VRMMOの続編で周りが強くなってきたので、ギルドの皆がそれぞれ一ヶ月のレベリングをすることになりました」https://ncode.syosetu.com/n3612jy/

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― 新着の感想 ―
陳腐な感想で申し訳ないですが、ジョージたちの物語はとても面白かったです。続編に期待して待機してます。応援してます。
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