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第九節 今は亡き王に捧ぐ―― 2話目

 ――玉座の間は、犯行現場そのままの状況だった。玉座に座していたのは、その目から光を失い、虚ろな表情で顔を伏せる導王。何度見ても感情が大きく揺れ動かされるのか、ヨハンは唇をぐっと噛み締め、憤りを抑えようとしている。

 そして俺もまた、その凄惨な現場を前にして、冷静さを貫くことなどできなかった。


「……一体誰がこんな真似をした」

「分からぬ。ただ、真っ向から袈裟掛けに受けたであろう刀傷が、貴公が手をかけたのではないかという疑いにはなっている」


 死体を動かして確認したのかと聞いてみたが、彼らにとって導王は死体となろうとも触れることすら畏れ多いとして、そのままにしてあるのだという。


「畏れ多いという気持ちは分かるが、いずれにしても埋葬しなければいけないだろう?」

「わしらは所詮ただの剣じゃ。殺し方は知っていても、弔い方など知りはしない」

「チッ、仮に知らなかったとしても、そのままにしておくこともないだろうに」


 死体解剖――とまではいかないが、刀傷以外にも何か致命傷を負っている可能性はないか、調べなければいけない。


「……現実リアルだと身内の遺体ですら棺越しでしかまともに運んだりしたことない俺が、まさか王の亡骸を直接持ち上げることになるとはな」


 そうして俺はこの国の葬儀屋から棺を貰ってくることをゼバルベルに指示しながら、ひとまずは導王を玉座から降ろそうと、背中側に腕を回そうとした。


「……なんだ、これは?」


 そうして背中側に手を回した際に何か違和感があることに気がついた俺は、導王の状態を丸めるように伏せさせ、背中の違和感の正体を見定めようとした。


「これは――」

「ああっ! このジュデス、大いなる主の弔いをしようと棺などを用意してきたというのに、何をなされているのですか!?」


 声の主は、先日モリモリモリオンヌによって深い傷を負わされたジュデスだった。話によれば、王の遺体をそのままにしておけないと、朝のうちに棺の用意をしていたところだったのだという。


「大いなる主がなくなったのです。国葬になると思い、ご遺体の方も――」

「ちょっと待て」


 ここで俺はもう一つ違和感を覚えた。それは先程のゼバルベルの言葉を聞いたからこその違和感。


「――葬儀の準備? お前がか?」

「えっ、ええそうですとも! 大いなる主が亡くなられたのです、弔いをしなければ――」

「ゼバルベル、お前確かさっき言っていたな? “自分たち剣には殺し方が分かっていても、弔い方を知らない”、と」

「…………」


 俺の言葉を前にして、全員が閉口した。特にジュデスに至っては表情まで変わってしまっているのか、先ほどまでの悲しみと焦燥が混ざったような顔つきを、周りに見せないように伏せている。


「……そしてもう一つ」


 俺は導王の亡骸を抱き上げると、皆に見えるように導王の背中側を向ける。


「背中の刺し傷……これはどんな種類の剣で刺せばこのような傷がつく?」


 玉座に隠されていた、もう一つの傷。俺はこの傷のつけ方を知っているが、あえてその場にいる剣達に問いかける。


「……それは、まさに不意打ちをするかのように、暗殺をするかのように、背後から短剣で刺さなければつけられない傷だ」


 唯一答えを返してくれたのがヨハンだった。そしてヨハンの怒りの視線が、そのまま傷とつけた犯人の方へと向けられていく。


「――ジュデスッ!! 貴様が裏切り者だったのか!!」


 剣を抜き、怒りに任せた突進がジュデスへと向かっていく。しかしジュデスはあくまで顔を伏せたまま、一切の反応を示さない。

 そうしてこのままヨハンによる一撃のもと、裏切り者が粛清されるかと思ったが――


「――【甲式閃光熱波(アルファレイ)】!!」

「ガハァッ!?」


 横槍――ではなく、ヨハンのわき腹を貫いたのは一筋の光。


「……っ、出てこいモリオンヌ!!」


 俺は即座に、この光線を撃った者の名前を叫ぶ。するとそれまで誰もいなかった筈の玉座の後ろ側から、一人の男が姿を現す。


「やれやれ、一度は罪をおっ被せられたのはいいものの、まさか死体の処分に手間取ってこうなってしまうとは。先回りをして裏でジェイコブとガイデオンを戦闘不能に追い込んでおいて正解でした」

「ぐっ……お前達が、我らが主を!!」

「ええ。お陰で私が次の導王として、特殊スキルと“おまけに”称号を得られました」

「流石はモリモリモリオンヌ様、このような状況に置かれましても冷静沈着でございます」


 そうしてそそくさとモリオンヌの傍へと寄ったジュデスは、そのまま導王を殺した姿である短剣へとその身を潜め、モリオンヌの手に収まっていく。


「てっきり戦いの際にはヨハンなりガイデオンなりが装備されるかと思いましたが、まさか本人のステータスの問題で曲剣ショーテルしか扱えなかったとは……いやはや、拍子抜けの王でしたよ」

「きっ、貴様が我が主を! 我が主の名を貶めたのかァッ!!」


 ラストによって召喚された毒の棘は、一瞬にして玉座を蜂の巣にしていく――筈だった。


「【空間歪曲エリアルディストーション】は、何も貴方だけの専売特許という訳ではありませんよ」


 【刺突心崩塵ハートキルスティンガー】による面の攻撃は、モリオンヌによってはられたバリアを前に軌道を捻じ曲げられていく。そうして背後の壁に多数の毒の棘が刺されど、モリオンヌの周りにだけは一切攻撃が通っていなかった。


「なっ!?」

「【空間歪曲エリアルディストーション】か……ならば!」


 空間断裂――これならば問答無用に斬撃を浴びせられる。


「抜刀法・参式――裂牙烈風ざがれっぷうッ!!」


 幾重にも重なる斬撃を繰り出し、モリオンヌの体は微塵斬りにされていく――筈が、今度はまるで蜃気楼のようにモリオンヌの姿が消えていく。


「フフフ……では今度はこちらから、仕掛けさせていただきましょう――」

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