第九節 今は亡き王に捧ぐ―― 1話目
――そうして俺達が足を止めたのは、王城へと向かう唯一の石橋の手前だった。
「…………」
“「――石橋の両脇、ところどころに鎮座しているガーゴイルが見えますよね?」”
「……ああ、そうだったな」
今でも石橋の両脇には物言わぬ石像が、いない筈の王を護るべく鎮座し並んでいる。
そうして左右に並ぶ石像を見ながらかつてアイゼから受けた忠告の言葉を頭の中で反すうし、最後に俺はその橋の真ん中に立っている二人の剣の姿をまっすぐと両目で捉える。
「ここまで来たか……」
「出迎え、という訳でもないだろう?」
ヨハンの言葉からして俺がここまでたどり着くとは思っていなかったようで、俺の実力を認めながらも、先に散ったと思われる剣達に思いをはせている様子。
そして俺の問いに対して、老いてなおも冴えた瞳を携えた老人が答えを返す。
「半分は、そうなるな」
「そうか……」
もう半分は、ここで決着をつけるということなのだろう。俺は静かに腰元に挿げている刀の柄に手を添えたが、相手はまだ剣を抜く様子はない。
「……何故構えない」
「ここで戦いたいというのであれば、望み通りに我々も剣を抜こう。だがもし……もし真実を共に解き明かしたいというのであれば、そのまま刀を納めたまま、ついてきてもらえないか」
「……どうした、急に戦いを止めるとは」
てっきりここで最後の戦いが始まるものだと、俺は腹をくくっていた。
あのアイゼからして頭一つ抜けた実力を持つとされる、聖剣七人衆最強であろうヨハンと、老兵でありながらその眼光は恐らく一切変わっていない、確固たる経験と実力の持ち主であるゼバルベル。これら二振りの剣を前にして覚悟を決めていたが、予想に反した答えに俺は思わず問いを返した。
「ガイデオンやジェイコブから既に話は聞いている……貴公は、自身を犯人ではないと言っていることを」
「だがそれを認めなかったのが、そいつら二人じゃなかったのか」
「ああ……だが、こうして聖剣七人衆を、あのケファロのように破壊するのではなく、次あくまで打ち倒すだけに留めているという状況に疑問があってな」
そうしてゼバルベルは俺の方を――正確には俺の背中に背負われている剣に指をさす。
「アイゼにしても、そうなのだろう?」
「……ああ。一騎討ちだったが、殺してはいない」
「やはりそうか……実は大いなる主が殺された際には、護衛としてケファロもついていたのだが……残念ながら、奴の刃はへし折られ、もはや修復は不可能となってしまっている」
「なっ……」
あの曲剣の少年が殺されているという新たな情報に驚きを隠せないながらも、俺はゼバルベルの続く言葉に耳を傾ける。
「こちらとしても、これ以上無益に友を失いたくはない。もし本当に、貴公がやっていないというのならば、一体誰がやったのかを含めて見て欲しくてな」
「……いいだろう」
そうして俺とラストは最初の時と同様に、前後を二人に挟まれた状態で城の中へと足を踏み入れていくこととなった――