第二節 久しく見ぬもの 1話目
いつのまにか四桁を超える多くの読者様にブックマークしていただいていることに気がつき、遅れながらこの場をお借りして感謝を。
隠し通路を戻る途中、様々な考えを巡らせる。
「さて、どうしたものか……」
思わず口から言葉を漏らしてしまう程、今の事態には悩んだ。完全に敵国に潜入するスパイと同じような感覚に陥っている。
ひとまずうちで担ぎ上げるべきはあの第二王子だろうことは間違いないが、問題はこちらに大義名分を持たせるためにどう動いていけば良いのか、今のところ皆目見当がつかない。
『さて、どこから手をつけようか……』
いきなり乗り込んで皆殺しにしたところで混乱は免れないことは分かりきっているが、一番手っ取り早いのがこれしかないんだよなぁ。
『やっぱりこういう時にシロさんとかいたら他の考えも出てくるんだろうけどな……』
顎に手を当てながら思案を膨らませている内に、時間切れとでもいわんばかりに再びレストラン地下の隠し扉の前へとたどり着く。
「では今宵はこちらの二階の方でお休みください。勿論、外の目が気になるようでしたら屋根裏の隠し部屋もありますので」
そう言いつつレストラン一階へと上っていくと、既に閉店しているのか寡黙で筋骨隆々な男が黙々とテーブルを拭き掃除をしている光景を目にする。
あの男も、恐らくは第二王子と繋がっている人間なのだろう。そう考えるとどこか気品があるように見えなくも無いような、そうは見えないような。
それはさておき、首都にまで噂は回っていないものの、現時点で子爵を一人殺してしまっていることを俺は思い出す。
『屋根裏か。確かに俺自身は子爵を一人斬っているし、その方がありがたいかもな』
「――っ!? 是非私も屋根裏の誰にも見られない部屋が良いかと!」
ちょっと待てラストの言い方的にむしろ窓がある方が俺の身の安全の確保がなされるのではないか?
『いいか? 絶対に変な気を起こすなよ!? 前振りじゃ無いからな!?』
「ええ、ええ。勿論、勿論分かっていますわ!」
ヤバい目がキラキラ輝くとか生易しい表現じゃない、ギラギラとした肉食獣の目をしている。
『……やっぱり普通に二階で寝た方が――』
「ではこちらの隠し階段より屋根裏へと上がってください。夜食の方は後ほどお持ちするそうなので」
これ以上夫婦漫才を見るのも面倒だとでも思われたのか、エニシから半強制的に押し込まれるような形で屋根裏へと追いやられ、そのままバタンと扉を閉じられれば、まさに肉食獣の檻に閉じ込められた飼育員の気持ちを味わう羽目に。
「主様、やっと二人きりになれましたね……」
四足歩行でにじり寄ってくるあたり、本気と書いてマジでヤバい……!
「ちょ、ちょっと待て! さっき夜食を持ってくるとエニシが言っていただろ!? ここで変なことをしてみられたらどうする!?」
「あらあら主様ってば、いつもの魔法の板で言葉を綴るのを忘れるくらい、興奮していらっしゃるのかしら?」
そうじゃないことくらい分かってて動いてるだろこの魔性の女は!! こうなったら誰でもいいから屋上の扉を叩け! そしてドアを開けるんだ!
そう思っていた矢先、早速だが屋根裏の扉を叩く音とエニシの声が聞こえてくる。
「そういえば、夜食ができたので持ってきますねー」
「よくやった、急いでドアを開け――むぐぐっ!?」
「ごめんなさぁい! 主様はもうとっくに寝てしまったから夜食は必要ないわぁ!」
なんてこった、一瞬後ろを振り向いた隙に後ろから覆い被さられた挙げ句に口を塞がれて身動きがとれない――って、普段以上に本気を出すような場面かここは!?
こうなったらキーボードを使ってでも――
「主様、おいたはいけませんわ♪」
……どこの世界に主人に向かって拘束魔法を撃つ従者がいるんだよ。
「……ちょっと今回本気で気疲れしてるから勘弁――」
「分かっています。ラストがこの身を以て主様を癒やして差し上げますわ」
違う。絶対に違う。というより相変わらずこのゲームはR18関連に規制がかかってないのおかしいだろ!? そこのリアリティ追及する必要あったか!?
「心配要りませんわ、天井の木目の数を数えている内に済むことですから――」
「いや本気で勘弁、あ――」
――この時二階にいたのは幸運にもチェイスだけだったようで、後程聞いたところ「猫がどたばた、うるさい」と見事に勘違いしてくれていました。