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第七節 本当の意味での復帰 5話目

「――遅い」

「ぐはぁっ!」


 武士としての戦いはいつも短期決戦。

 殺るか、殺られるかだ。

 そして今回の俺はいつものごとく、殺る側に立っている。抹消させる側にまだ立てている。


「くっそぉ! キリエの話によれば、武器更新はなされていないって話だった筈だぞ!?」

「そんなもの、プレイヤーのレベルや装備なんて日々変わっていくに決まっているだろ……とは言っても、俺も最近改めて自覚が持つことができたが」


 これはプレイヤーが毎日成長を続けるMMOだ。しかもまだ終盤がまだ見えていない。ゲームの結末は誰にも分からないままだ。

 だったらどうする? 無礼奴じゃなくてもそうだ。誰だって“最善の手”を尽くすまでだ。


「抜刀法・参式――」

 ――裂牙烈風ざがれっぷうッ!!


「ぐはぁっ!」


 幾重にも迫りくる斬撃を全てその身で受け、田中は遂に立つことすら敵わず、その場に片膝をついてしまう。


「どうした、そんなに頭を垂れて。いっそ潔く死を選ぶか?」


 俺は刀の切っ先を田中の目と鼻の先まで近づけ、これ以上の戦闘の意思があるかどうかの有無を問う。

 それに対して田中は剣を杖代わりに立ち上がり、あくまで戦ったうえでの死を選ぶことを口にする。


「ぐっ……! 誰が、負けを認めるか!」


 ……まあ、そうだろうな。勇者を選ぶ奴らは皆、戦わずに死ぬくらいなら、例え無様に負けてでも剣を取るような輩だ。

 そしてこれは、互いの命を懸けた戦い。ならば立ち上がる以上は、こちらも敬意を持って死へと追いやるだけ。


「そうか、だったら潔く死ね」


 抜刀法・壱式――

「――刎斬はねきり


 これ以上余計に口を開く必要はない。そうして俺は虚空機関の一人であるプレサス田中を討ち取り、誘拐事件に決着をつけることになる。


 ――その裏で、もう一つの事件が動いていることを知らずに。



          ◆ ◆ ◆



「お呼びでしょうか、大いなる主よ」


 プレサス田中が討ち取られた同日の深夜。一人の武士もののふによる活躍によって一時は決着がついたと皆が安堵の息を漏らし、そして今度こそ平和な国内視察が行えるとして、翌日に向けて床についていた時間帯での出来事だった。

 全ての聖剣七人衆が集まるのを待っているという導王のお触れがあったためか、この日はアイゼも客人の元を離れ、導王のいる城で夜を過ごしている。

 それぞれが与えられた自室で休息をとっている中、この日夜遅くに玉座の間に呼び出されたのは、モリモリモリオンヌという外部からの侵入者の手によって負傷を負ったジュデスだった。


「……来たか、ジュデスよ」


 ジュデスの目の前にあるのは、僅かな灯りによって照らされている玉座――そこに座しているのは当然ながら、このソーサクラフを統べる王、導王。しかしその表情は険しいものだと、誰の目にもそう映っていた。

 そして当然なことに、ジュデスの目からもその姿を見ることができる。しかしジュデスは一切態度を崩すことなく、目の前で片膝をついて頭を深々と下げる。


「……ジュデス、お前に問いたいことが三つある」

「……はっ! 何なりと」


 そこからの導王の問答は、まさに夜の闇のごとく、重々しく息苦しいものだった。


「お前はこの国に、今でも忠を誓っているか?」

「はっ! 勿論でございます!」


 ジュデスは即答した。臆することなく、言葉に詰まることなく。

 導王はそれに対して眉一つ動かさずに、次の質問をぶつける。


「……内通者はお前だな?」

「っ!? 一体、何をおっしゃいますやら――」

「――“崇高なる主”。お前だけが知っている筈の言葉が、なぜ私の占いに引っかかる?」


 七人それぞれに対して、別々のキーワードを言い渡す。そして日付をずらして告知させることで、外部との連絡を【広域聞耳(タップワイヤー)】で検索されて盗聴されるか、あるいは怒涛の変化から遅れて知ることによって悪目立ちするか。

 いずれかによって炙り出しを図っていた導王の策が、この度見事に犯人を的中させていた。


「…………」

「黙っていては何も答えにならないぞ。答えろ、ジュデス。何故貴様に伝えた言葉だけが、私の占いに引っかかったのだ」


 ジュデスは顔を伏せたまま、ひたすらに黙りこくっていた。何も答えず、何も反応を見せず、ただひたすらに石造のごとく、固まったままの姿勢をとり続けていた。


「……では最後に一つだけ聞かせてもらおう、ジュデス――」


 ――今のお前に、私はどう映っている?


「……クククク……ククククククッ!」


 ジュデスの肩が、震えている。笑いをこらえるかのように、狂気を抑え込むかのように。

 そうして面を上げたジュデスの表情は、狂喜に満ちたものへと変化している――


「――ハイ、勿論、我が“真なる主”である、テオリ=カイス様にてございます」


 次の瞬間、ジュデスの足元に魔法陣が広がり、支配下の者が主人を呼ぶ、逆召喚が開始される――


「――まったく、人手不足のこちらとしましては、田中さんが抹消されたのはそれなりの痛手なのですが……」

「っ、誰だお前は!?」


 そうして姿を現したのは、スーツ姿に眼鏡をかけた魔導士。深夜の逆召喚によって生活リズムを崩されたことに苛立っているのか、メガネの奥に怒りの表情を浮かべている。


「バレてしまっては仕方がありません。お許しください、モリモリモリオンヌ様」


 そうしてジュデスは元の短剣ダガーへと姿を戻し、魔導士モリオンヌの手に収まっていく。


「やれやれ、王様と戦うのは初めてだというのに、しかも相手は魔導士ソーサラーで最強格の導王とは……まあ、私自身の実力を測るいい機会と考えておきましょうか」


 ――導王対プレイヤー(モリオンヌ)withジュデス。疑似的な二対一を強いられ、導王は表面的には余裕の笑みを浮かべているが、その額からは冷や汗が一つ流れている。


「負傷したジュデスのみならと思ったが……参ったね、どうも」


 そう呟くと導王はどこからともなく曲剣ショーテルを手に取り、そして武器として扱って構えを作り出す。


「私の力ではヨハンもガイデオンも扱えないからね……かといって今更呼び出すことも間に合わないだろうし、何とか二人で頑張ってみるとしようか」


 ――なあ、ケファロ。

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