第七節 本当の意味での復帰 3話目
「――それは、少し残念だ」
俺の提案に対して、導王は酷く落胆したような、がっかりとした声で一言漏らした。
謁見の間にて、今回は導王側に同席としてジュデスとヨハン、そして今回の話の中心であるアイゼがいる。そして俺の側にはラストが立っており、今回の一連の事件についてお話に参加していた。
『言っておくが、ただ危険に晒すだけのつもりはない。最大限のフォローを入れるつもりだ』
「しかし今の君のやり方は、まさに道具としての扱い方ではないか? 彼女が自ら志願したのならばまだしも、囮を命ずるなど私にはできない」
彼らの意志を貴んできた導王からすれば、このような手段は取りたくなかっただろう。しかしそれらの感情を抜きにして考えるとなれば、これ以外に効率のいい手段は考えつかない。
「そもそも一度顔を見られたのだから、もう一度侵入を試みるなど――いや、あり得るのか……?」
『何か心当たりでもあるのか?』
「……いや、“今”の君には関係のない話だ」
その突き放すような言い方、あの時のような近しい距離感ではなく、あくまで外交相手としての冷たい距離感へと戻ろうとしているというべきか。
『もし何か力になれることがあるなら、俺は喜んで力を貸すが』
「……その言葉だけを受け取っておこう。仮にこの一件が無かったとしても、話せるような内容では無いが」
『そうか……残念だ』
このまま平行線といった様子ならば、これ以上俺が首を突っ込む必要もないだろう。元から約束は守るつもりで、向こうとしてもこの関係をわざわざ取り消すとまではいかないだろう。
『ならばこれ以上俺から離すこともないだろう。用意してもらった宿屋に戻らせてもらうとしよう』
これ以上この場にいたところで、余計なことを喋って険悪なムードを作るリスクを背負うだけ。
『……何かあれば使いでも送ってくれ。いつでも手を貸す準備をしておく。……一刻も早い事態の収束を祈る』
そうしてその場に背を向け、立ち去ろうとしたが――
「――私、囮役をやります」
一体どういう風の吹き回しだというのか。俺の説得の手前、あの場では納得していたとはいえ、このように自らの直属の上司である導王は、アイゼが囮となるのに否定的だったのだから、そのまま従っても何もおかしいところは無かったというのに。
「私は君が囮になることを望んではいない」
「しかし敵はこの私を狙っているのです。私が囮となることでこの問題が早期解決に向かうのであれば、喜んで囮となりましょう」
「しかしアイゼよ、君の身にもし何かあれば――」
――導王はそれ以上何も言うことが出来なかった。何故ならアイゼはそれまで見せたことが無かったであろう、決意に満ちた表情を導王に向けているからだ。
「……これは私の“意思”で臨んだことであります。大いなる主よ、私の最初で最後のわがままをお許しください」
「……そうか。君が望んだ選択だというのであれば、私はこれ以上何も言うまい」
「はい! ありがとうございます!」
そうしてそのまま振り返って俺の方を向くと、アイゼはにこりと微笑んでこう言った。
「いざという時はジョージ様が、どんな手を使ってでも守ってくださるとのことですので……私は、その言葉を信じたいと思います」
「……は?」
いや、確かにそういったけど……そんな告白みたいな言い方してなかった筈だが?
「ぐぅうううう……やはりあの場で訂正しておくべきだったかしらぁ……!!」
そしてラストが爆発寸前なんだが……これ先に同士討ちでアイゼが消されないか心配になってきたぞ。