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第六節 息つく暇 6話目

 ――同時刻。魔導城内、謁見の間にて呼び出されていたのは、聖剣七人衆の中でも最年長であるゼバルベルだった。


「すまないね。本来であればリーダーのヨハンを呼ぶのが筋なのだろうが、一番の古株であり、信頼を置くという意味では君を頼る他ない」

「何をおっしゃいますやら。ヨハンには申し訳ないが、大いなる主の信頼を一番得られているというのは、光栄の他ありません」


 部下を信頼し深々と玉座に座る導王と、敬う心を体現すべく膝を折って頭を下げ続けるゼバルベル。主従関係の理想の姿は何かと問われれば、この姿を見せれば誰しもが納得いくであろうと思える程のものだった。


「……して、“我々”の方に何かあるようにお考えのようですが」

「察しがいいな、ゼバルベル。まさにその通り、今回呼びつけたのは、聖剣七人衆のことについてだ」


 日々のルーティンである導王の占い。朝、昼、晩と一回ずつ行うのが通例だったが、今回、何の気まぐれなのか、いつもとは違う占いを導王は行っていた。


「――気まぐれに国民の会話に聞き耳を立てようと思って、“大いなる主”という言葉で占いを行ったんだが……どうやら、国内での私の呼び方をこの言葉に統一した意図が、どこからか漏れてしまっているらしい」


 ――【広域聞耳(タップワイヤー)】。これこそがキングダム・ルールというVRMMOにおいて、最上位の盗聴魔法を指し示す言葉であり、導王が占いという言葉でぼやかしていたものの正体でもある。


「なんと!? つまり“内通者”が!?」

「いる可能性がある。それもこの言葉を広めたお前達、聖剣七人衆の中にな」


 指定したキーワードを検索にかけることで、世界各国でこの言葉を含む会話ログをランダムにいくつか抽出する。これだけでも情報戦においては破格の性能を持つこの魔法であるが、導王は更に情報の確度を上げる為に、国内にある緘口令を敷いていた。

 それは王である自らの事を導王とは呼ばせず、“大いなる主”と呼ばせることである。当然ながら、国に与するプレイヤーも含めてこれは徹底されており、国内で導王という言葉を口に出す者は、必然的に外から来た者に絞られる形となる。

 そして普段から国外の情勢、特にソーサクラフや導王に対して向けて発せられた言葉を聞き出す為にも、こうして言葉を変えておかないと、国内だけでも相当な数が引っかかってしまうことから、導王は国内向けに真意を伏してそう呼ばせていた。

 しかし今回、国内の大いなる主が混ざった会話ログに、不審な単語が並んでいるのを目にしてしまった。導王はこれをよしとせず、すぐに漏れた出所を確認するため、ゼバルベルを呼び出したのである。


「あまり疑いたくはないが、原因の一つとして考えなければならない」

「となれば、どういたしましょうか?」

「……一つ考えがある」


 そして腹心であるゼバルベルにすらカラクリを教えることなく、導王はゼバルベルに国内での次のキーワードを言い渡す。


「これから先は私の事を大いなる主と呼ばずに、“崇高なる主”と呼ぶように国民に触れて回れ。ただしそれは“五日後”だ」

「何故でしょうか。言葉を切り替えるのであれば、今すぐにでも――」

「いや、しばらく時間をおけ。そうでなければ意味がない。それと私の呼び名については、おなじ聖剣七人衆に事前に伝えることも許さない。ゼバルベル、お前だけが五日間その言葉を守って一人で抱えろ」


 何故時間を空けるのか、ゼバルベルは理解が出来なかった。しかし導王がここまで口酸っぱく言っているのだから、何かしらの考えがあるのだろうと、それ以上は意見を言わずに静かに頷いた。


「……では、おっしゃられております通り、“五日後”に」

「ああ、“五日後”だ。頼んだぞ」


 そうしてゼバルベルに下がるように指示した後、誰もいなくなった部屋で導王はひとり呟く。


「……次はヨハンか。あいつには“六日後”だと指示して、“偉大なる主”だと言いふらすよう指示を下すとしよう――」

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