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第四節 従者と道具 2話目

『――流石に一日で占領する約束ではないだろうな?』


 いつもと違って見えるように色々と強化薬を使ったり、首を刎ねる一撃必殺の抜刀法をメインにした戦い方にしたりとで俺だとバレないようにしたのはいいが、どうやら敵軍から無駄に恐れられた挙句、撤退を許してしまった。


『流石にこれまでの戦場の空気に慣れているのか、不純物というか異変というか、普段と違う何か危機感的なものを察知されて退却されたんだが』

「あはは……初回の接敵で張り切り過ぎましたか、ね……?」

「フン。まずまず、といったところか」


 後ろで待機しておいた二人の口ぶりからして、それなりの評価をして貰っているという認識で間違いないようだ。


『それで、どうする? 明日には敵の大将を特定して、明後日には奇襲をかけて始末をするつもりだが――』

「いや、その必要はない」

『なんだと?』


 てっきり完全に制圧しきるまでの数日間をここで過ごすつもりだったんだが。


「二つ、だ。貴様がここで暴れ続けたことによるメリットとデメリット、合わせて二つの理由で、貴様の戦争への参加打ち切りが下された」

『二つの理由だと?』

「実質的には表裏一体の理由になるがな。まずメリットだが、今回貴様という無名の剣士が暴れまわったことにより、敵軍のソーサクラフに対する評価が大きく変わった」


 ……つまり、やり過ぎたってことか?


「このまま戦い続ければ、またいつあの剣士が参戦することになるのか分からん。そうなれば敵軍の中でもこの厭戦えんせんでダラダラと稼いでいた奴らは、貧乏くじを引くまいとこの戦から手を引き始める」

『もう一つのデメリットとしては、代わりに俺を倒すことで手柄を立てようと、今より強い輩がこの地の戦いに参戦してくる可能性が出てくるということか』

「そういうことだ。異端者の割に頭が回るじゃねぇか」


 どうやらこの男も少しは俺のことを認めたのか、先ほどよりも挑発するような口ぶりも少なくなり、対話が成り立つようになっている。


「元々、この戦争をソーサクラフの兵の育成の糧にしている側面もある。無論、終戦するに越したことはないが、それまでの道筋が大荒れになっては困るということだ」

『なるほどな。そういう意味では今回の俺の行動は裏目に出ていたという訳だ』

「事実上そうなる。……が、大いなる主の寛大な御心により、依頼を一部達成したということで考慮してやるとのことだ」


 ということは、まだまだ何かしら手伝わされるということになるのか。


「一旦首都に戻る……そこの魔族の女」

「何かしら」


 なんでここでラストに話しかけるのか。なんだか嫌な予感しかしない。


「【転送(トランジ)】は使えるか? 使えるのなら俺達を首都に飛ばせ」

「貴様の指図を受けるつもりは無い」


 ま、そうなるよな。シロさんですら指示を聞いてもらえないんだから、そんな会ったばかりの人が指示を出したところで聞かないのは明らかだ。

 そう思って俺の方からラストに指示を出そうとするが、ガイデオンはラストの反応に対して異議を唱え始める。


「なんだと? 貴様はそこの初代刀王の戦術魔物だろ? つまり俺達と同じ、王に使われる“道具”だ。道具は使うべき時に使われるのが筋だろうが!」

「っ、私はそんな――」

『ラストは道具じゃない。訂正しろ』


 ――一瞬にして、その場の空気が張り詰めていく。それほどまでに、ガイデオンの言葉は俺にとって聞き捨てならないものだった。確かにラストはこの世界(ゲーム)存在(AI)であり、そしてお前達もまた、王にとってはある意味ただの道具(AI)なのかもしれない。

 だが俺にとっては違う。ラストはラストであって、道具などでは決してない。


『訂正できないのなら、俺はこのまま逆にベヨシュタットへと帰る』

「何を寝ぼけたことを言っていやがる。主君に自らの命を捧げて従属する、それすなわち主君にとっての道具となることと同義だ。主君が戦えと言えば戦う。主君が死ねといえば死ぬ。その指示が、覚悟が! 出来ないようであるのなら、貴様らに主従の関係を結ぶ権利など――」

「ガイデオンに変わって、私がお詫びします。なので、この場は矛を収めてはいただけないでしょうか」


 意外にも、俺達の間に割って入り、頭を下げたのはアイゼだった。


「お連れしている魔族の方への非礼をお許しを。もし気に入らないというのであれば、私がこの場で自刃を――」

「なぁにを馬鹿なことを言っていやがるアイゼェ!! 貴様が死ぬなど、そのような事が――」

「しかしガイデオン、貴方はこうおっしゃっていたでしょう? 死ねという時に死ぬのが道具だと。我が大いなる主は、再び初代刀王とお話をすることを望んでおります。それを叶えるためにも、まずはこの場を納めなければなりません」


 ガイデオンの言い分も滅茶苦茶だが、このアイゼのやり方にも俺は違和感を覚えざるを得なかった。

 何故そう簡単に命を投げ捨てられる? いくら大いなる主というほどに敬愛の感情を持っていたとしても、そう簡単に自害などできるはずがない。

 ガイデオンの言う通り、まるで自分の命など自分のものではないような考え方だ。


「納得いただけないのであれば、私の命でもって償いを――」

『もういい、やめろ。そこまでする必要はない』

「しかし――」

『ここであんたが命を落とせば、ガイデオンの言う通り、従者を和睦の為の道具として見なしていることになってしまう。だから駄目だ』

「……分かりました」

「言っておきますが、私は主様に付き従うだけの道具ではありません。主様と想いを通じ合わせている、恋人のような関係なのですから」


 途中からある意味通常営業になってしまっているが、少なくとも前半部分は俺もそう思う。


『……とにかく、俺とラストはそう単純な関係じゃないってことだ』

「そうでしたか……確かに、我々の認識が誤っておりました」

「……チッ!」


 ガイデオンの方はいまだに納得いっていない様子だが、ひとまずこれで難を逃れることはできた。


『改めて、今度は俺からのお願いだ。この場の全員を、首都へと送ってくれ』

「承知いたしました、主様」


 そうして皆の足元に魔法陣が展開され、本日二度目の転移の光に包まれていく。


「……なんだか少し、羨ましいな」

「ん?」

「えっ? あっ、いやっ、何でもないです!」

『そうか?』


 今確かに、「羨ましい」と聞こえた気がする。そしてそれを否定するアイゼの表情の裏には、どこか物悲しさが残っているような、そんな気がした。

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