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第四節 従者と道具 1話目

 この先の戦場から聞こえてくるありとあらゆる戦闘音を乗せた寒波が、俺の頬を撫でていく。

 依頼されて飛ばされた先はヴァニクス平野近くの丘の上。カナイ村ほどではないとはいえ、それなりに防寒対策を積んでおかなければ、戦うよりも先にデバフで倒れてしまうことになるだろう。

 そして眼下に広がる戦場の規模は凄まじいもので、最近で言えばチェーザム奪取の為に戦ったナックベアの軍勢とほぼ同規模といえる軍勢が、三者三様に存在しているという状況だ。


「導王の野郎、簡単に言いやがって……」


 ただでさえ厳しい条件に加えて、今回の戦いは身元がバレない為にもタイラントコ―トを着ることができない。一応レリューム領に行く際に使用した極東地域の軽装装備に耐寒付与の魔法をかけて貰えば代用はできるのだが、その際顔を隠す為に別に頭部装備が必要になる。


「ラストから【遮断領域ステルスフィールド】の魔法をかけてもらってもいいが、攻撃する際に強制解除されるから意味が無いんだよな……」


 それにこの戦いにおいてラストはその姿を現してはいけない前提となっている。理由は二つで、一つ目は当然ながらオラクルの出現だ。どこまで通用するかは知らないが、相手がスキャンをし始める前に目視で気づかれるリスクは減らせる。

 もう一つは、ラストがいることイコール俺がいることがベヨシュタット側にバレてしまうということ。俺が戦術魔物として七つの大罪(ラスト)を抱えていることは、国中で有名な話だろうからな。

 勢いで承諾してしまったが、様々な条件が加わった強制縛りプレイをさせられているという実感が、今更になって湧き始める。


『……今回は俺がメインで動く。ラストはとにかく【遮断領域ステルスフィールド】で自身の身を守りつつ、つかず離れずの距離で俺の後をついてこい』

「承知しました」

「おんやぁ? 見ないうちに随分と八つ裂きにされそうなくらい脆い防具に切り替えたじゃねぇか?」

『“見張り”なら余計なことを喋らずに黙って見ているんだな』

「クハハッ! 直々に手出しをしないように言われてしまっては、“援護”に来た意味もあるまいて!」


 やはり、こいつの性格的についてくるだけで加勢の気配は無し、か。まあいい、黙って見ていればいいさ。度肝を抜いてやる。


『……導王の命に従って、いざ参る』


 極東防具セットのオマケでついてきた夜叉のお面を被り、一人の名も無き武士として、俺は戦場へと降り立っていくことになった――



          ◆ ◆ ◆



「――さて、奴の事をどう考える?」

「そうですね……流石はかつて王の名を冠した者、といったところでしょうか」


 先に丘を下り、ソーサクラフの一兵卒として戦いに乱入していった武士ジョージの姿を、丘の上から二人が見下ろす。


「俺の挑発にも大して乗らずに淡々と仕事をこなすあたり、自分の実力に自信があり、なおかつそこの認識に一切のズレがない、といったところか」


 先ほどまでとは打って変わって理知的な会話を始めているのはガイデオン。二面性があるといっても、ここまでギャップに差がある者などそういないだろう。


「奴の得意とする技である抜刀法……一対一でまともにかち合ったならば、我々とて損傷(ダメージ)は逃れられまい」

「加えて乱戦下における戦闘スピードの突出具合も目を見張るものがあります。ほぼ一太刀で敵を倒して回っているのですから」


 事実として下から聞こえる声の中に、動揺と恐怖が混ざり始めているのが聞こえてきている。それは圧倒的な個の力が、これまでに無かった硬直しきった戦場を動かす戦力の持ち主がいるという情報が、敵味方問わずに出回り始めたことを意味している。


「……ここにきてベヨシュタット軍の自作自演の可能性はありますでしょうか? この地を捨てて恩を売り、別の策を弄している可能性も――」

「それはないな」


 このことも見越したベヨシュタット側の自演策を心配したアイゼだったが、ガイデオンの一言でそれも否定される。


「ベヨシュタット軍だが、どの(ツラ)も見たことあるいつもの奴らだ。長年かけて仕込んできたっていうのなら何も言えねぇが、まずその可能性は無い。それに見ろ、奴らめ同じ剣士相手にビビり散らかしてやがる。ザマァないな。……それより、この後味方の軍にはどう説明するつもりだ?」

「どうしましょうか。聖剣七人衆の見習いがその実力を示しに来たとでも言っておけばいいでしょうか?」


 アイゼとしては真っ当な言い訳を述べたつもりだったが、アイゼから時々漏れ出す天然発言を知っているガイデオンにとって、これもまた同じ天然発言だと呆れ返る要因となる。


「何を馬鹿なことを言ってやがるアイゼ。俺達ですら“戦局を傾ける”ことができても、短時間で敵方の“戦意を喪失させる”なんざ出来はしねぇってのに。見習いができちまったら俺達の立つ瀬がねぇ」


 事実としてガイデオンの言う通り、今日の戦いはこれまでだと言わんばかりに、ソーサクラフを除く双方の国が撤退を開始しているのを目にすることができる。


「長引けば当然オラクルとやらも出てくる。ただでさえイレギュラー要素があるというのに、更に混乱を招く選択肢を奴らが取る訳がない」


 そうしてジョージの乱入からおよそ二時間が経過したところで、この日の戦闘はソーサクラフの一方的な勝利によって場が収まることとなった。

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