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第二節 アイゼ 2話目

「導王から接待役を任されておきながら、このような低俗な店を紹介するとは……」

『別に俺としては形式張ったような店より大衆店の方が気が楽だがな』


 それに深夜に開いている店となれば酒場パブぐらいしかないだろうし、ある程度他の人間もいた方が、この国の実情も垣間見ることができる。

 それにしてもこの酒場はそれなりの老舗なのか、アンティークな装飾品の品々が目に留まる。そういった意味では首都でも人気な酒場として、こうして紹介されても不思議ではないだろう。


「そう言って頂けるのは幸いです。私も実はこの店が大好きなんです」

「的確に主様ポイントを稼ごうとするなこの雌犬がッ!」

『店内で騒ぐな、騒々しい』


 いまだ闘争心が収まらないラストをたしなめながらも、俺は先にテーブルに届けられたビールに手を伸ばす。多少は現実世界で飲み会の場を何度かこなした身なのだ、こういう場所に連れてこられた時は飲んだ方がいいだろう。

 しかし現実世界でこのサイズは見たことが無い。明らかに片手で持つにしてはかなりの存在感がある大きなグラスに、これまたビールがなみなみと注がれている。


『頼んだはいいが、俺これ飲めるかな……』

「でしたら主様、残りは私が――」

「無理して飲まれなくとも、ここにはジュースやコーヒー、紅茶といった飲み物もありますので大丈夫ですよ」

「きぃいいい! 貴様の意見は聞いておらんわ!」

『親切心で言っているだけだろ……』


 何だかアイゼと合流してからラストが妙に気が立っている気がするが、そんなに今までの奴らよりも(俺への好感度稼ぎという意味で)危険視しているとでもいうのか。

 確かに俺の周りの女性陣は基本的に主導権握ってくるタイプが多いし、こんな感じでそっと寄り添ってくるようなタイプはいないことは事実だが……俺ってもしかして優しくされたらすぐコロッとなっちゃうタイプって思われてる?

 そうして色々と親切にしてもらってはいるが、それは相手からしても普段とは違う不自然な行動をとっていたようで、申し訳なさそうに本音を漏らしている。


「……ごめんなさい。本当のことを言いますと、私すごく緊張してしまっているんです」

『何がだ?』

「実は私、男の人とこうして二人きりでお酒を飲むのは初めてで――」


 ピピィイイイイーッ!!


「なんだなんだ!?」

「はいアウトォーッ!! 主様、やはりこいつは主様を誑かす為に送り込まれた刺客に違いありません!!」


 それよりもお前はどこから笛を取り出したんだ。そんなものを持たせた記憶はない筈だが。

 とはいえ、ラストの言い分も今回ばかりは少し分かるものがある。確かに会社の飲み会でも「私お酒とか苦手でぇー」とか媚びた雰囲気出しておきながら、いざ始まれば滅茶苦茶酒豪で男衆に飲み代を払わせて悠々で帰っていったりと、飲みの場におけるこういった発言は信用できない。


「そもそも私がいるのだから二人きりは無いだろうがこの盛りのついた駄犬が!!」

「それもそうでしたね、ごめんなさい」

「くっ……」


 間違えを認めてすぐさま素直に頭を下げるあたり、逆にラストとしてもやりづらい部分もあるのだろう。これらが計算なのだとしたら、ラストに負けず劣らずの相当な悪女といえる。


『まあ、誰と飲もうが飲むまいがどうでもいい。飲み物を飲んで一息ついたのだから、ある程度話を進めて――』

「あっ! 注文した料理が来たみたいですよ!」


 調子狂うなこいつ……俺もやりづらい。


「わぁぁ……じゅるり」


 目の前に置かれた鶏肉を焼いた料理を前にして目を輝かせている辺り、本当に素なのか演技なのか読めなくなってきた。というかそれまで清楚なイメージがあったが料理を前にしてちょっと崩れ始めているぞ。


「ここのグリルチキンってとってもおいしいんですよ!」

『そうなのか? 俺はフィッシュアンドチップスを注文したんだが』

「それもおすすめです! ぜひ食べてみてください!」


 というか、現実世界でも食べてみたかった料理でもあるんだよなこれ。海外旅行とか行ったことないし、某メシマズ国の料理というが、実際この組み合わせでまずいパターンとかあるのか?


「私はミートパイをいただくことにしました」

『お、いいなそれ』

「後で半分お分けいたしますわ」

『だったら俺のも食べてみてくれ』

「ええ! ぜひとも!」


 フフン、といった様子でお前とは付き合いの長さと格が違うとばかりにどや顔を見せつけるラストだったが、相手はとっくにグリルチキンを夢中で頬張っているぞ。


「もぐもぐ……おいひぃー!」

「くっ……マイペースな駄犬が……!」

『もうよせ。そもそもこいつと張り合うことが間違っている気がしてきた……』

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