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第二節 アイゼ 1話目

「主様、外を見てください!」

「……これは凄いな」


 以前話に聞いていたテクニカとはまた別方向で、魔導国家ソーサクラフの首都マドレアは、その名にふさわしい魔法の神秘を見せつけていた。

 遠くに見えるは深夜の雪降る曇り空を照らすような、夜の灯り。それも道端だけでなく、中心にある巨大な王城らしき建物の周りをいくつも浮遊しており、空高くから照らしているのが見える。

 流石に首都周辺はぐるりと城壁に囲まれているようで、それだけではなく薄い半透明のドーム状の防護膜らしきものまで張られている。入国管理をしないことをずっと疑問に思っていた俺だったが、その理由が目の前に広がっている。


『あの防護膜は恐らく転送魔法も阻害するだろうな』

「そのように思われます。主様、離脱の際はご注意を」


 いざという時の脱出の選択肢が減っている訳だが、まだベヨシュタットはソーサクラフに本格的な戦争を仕掛けてはいない筈だから脱出までまだ考慮しなくてもいいとは思われる。しかし念の為、首都内でもこういったものがあるのか調べておくとしよう。

 そうして色々と考えを巡らせている内に砦の門を、馬車がくぐる。意外にもそこでもスルーといった様子だったが、ラスト曰く「馬車の足元に魔法陣が敷かれておりました」とのことで、そこで何かしら持ち物検査などをしていたようだ。


「スルーして中に入っていくあたり、武器の没収はなさそうだが……」


 そもそもフードを被った怪しげな男を何の躊躇もなく馬車に乗せていたところから、よほどの自信があったのだろう。そして俺程度ならばいつでも御しきれると踏んでの通過といったところか。舐められているようにも思えるが、今の状況だと何もないならその方がいい。


「皆様、長旅お疲れさまでした。マドレアに到着です」


 御者がドアを開けると、客がようやくといった様子で次々と降りていく。確かに時刻は既に日を跨ぐ時刻にまでなっており、それまで座りっぱなしだった俺も立ち上がった際には無意識に背伸びをして体をほぐしている。

 そうして最後に俺達が馬車を降りようとしたところ、それまで客一人一人に業務的な挨拶をしていた御者から別に声をかけられる。


「お客様お二人は、確かベヨシュタットから来られた方ですね!」

『何故知っている?』

「大いなる主の占いによれば、この馬車に乗っているとのお告げがあったようでして」


 占いだと? そんなことがあり得るのか? このゲームの世界で。どうも辻褄合わせの適当な言い訳だと思えるが。

 それにしても俺達が来ることを知っていたということは、やはり道中で特に検査に引っかからなかったのも頷ける。向こうは最初から俺が来ることを分かって受け入れたということなのだから。


「向こうで出迎えの者がお待ちとのことですので、ささ、こちらへどうぞ」

「主様、警戒を。こうした場合――」

『ああ。大抵あまり良くないことが待っている』


 いつでも抜刀できるように心構えをしつつ、御者の後をついていく。てっきり人の少ないところに連れていかれるかと思いきや、人通りの多い大通りを歩き続け、そうして街の広場へと到着すると、そこにいたのは――


「お待ちしておりました。ベヨシュタットから来られた“訪問者”様ですね?」


 ――一言で言い表すなら、純白。黒を基調にしたラストとは対照的な、清浄的なものを感じられる若い淑女が、静かにそこに佇んでいた。


「アイゼといいます。大いなる主の命により、訪問者様をもてなす為にお迎えに上がりました」


 背中まで伸びた長い髪を肩のあたりで一つ結びに結んでいて、ぱっちりとした目を細めてにこやかにほほ笑むその姿は、見た目から推測される年齢よりも幼く映る。

 服装は白を基調としたもので、メイド服と騎士の服を足して二で割ったような、柔らかさを感じさせながらもどこか厳格さを帯びているような、大人びた雰囲気を醸し出している。

 背中に背負っている真っ白な鞘に収まったブロードソードもその意匠に即しているようで、まさに彼女のような存在こそが聖騎士といえるのだろう。


「…………」

「……あのー、どうかしましたか?」


 ……あとは乳がでかい。ラストとタメ張れるくらいにでかい。服の上からでもわかるくらいでかい。両手を前で組んでいるせいか、腕で胸が押し出されていることで尚更それが目立ってしまっている。

 そしてそのことに実は真っ先に目が向いてしまったという、男としての悲しい性が我ながら情けない。後はフード被っていたことで視線がバレていないことを祈るばかり。


「……主様、視線が泳いでいませんか?」

『気のせいじゃないか?』

「そうですか……気のせいならよいのですが」


 隣のラストが今までになかったレベルで敵意を通り越した殺意を剝き出しにしているのを感じるが、流石にここで手を出せば導王との対話の道は閉ざされるだけ。


『ひとまず俺の身分を明かしておこう。確かに俺はベヨシュタットから来た。名前はジョージという。そして隣にいるのが連れのラストだ。今回はベヨシュタット国第二王子から導王に向けて書状を渡しに来た』

「まあ、そうだったのですね。でしたらやはり大いなる主のおっしゃっていた“訪問者”様とは、ジョージ様の事で間違いないです」

「それにしても、わざわざもてなす為に小娘を使いに寄越すとは。導王とやらもこちらの下心を狙っているのかしら?」

「そんなことは無いと思いますよ? 私はただ大いなる主の命でここにいるだけで、そのような意図は持ち合わせていませんから」


 敵意剥き出しのラストに対して、アイゼと名乗る女性は一切友好的な態度を崩すことなく、にこやかに対応をしている。


『その辺にしておけ、ラスト』

「ですが主様、このような者を敢えてよこすなど、私という妻がいると知っておきながら、挑発しているとしか――」


 多分本当にそこまで考えていないと思うぞ。そしていつの間にか妻設定をねじ込もうとしていないか?


『まあ、なんだ。立ち話もあれだからひとまずどこか休める場所でも案内して貰えるか?』

「勿論です、ご案内いたしますね」


 大体この手の営業スマイルはシロさんで慣れているから本物かどうか見極められると思っていたが、この女性の場合はこれがスタンダードのようで、嘘偽りなくもてなす気持ちがあるように思える。

 もしかしたら本当にそう見せかけているだけなのかもしれないが、だとしたらラストがもっと反応する筈……いや、今のラストに正常な判断は難しいか。

 色々な思惑があるだろうが、ここは相手の話に乗るほかない。


『いくぞ』

「絶対に主様は渡さない……!」


 いつも以上にしがみつくように腕にくっつきながら、ラストは俺と一緒にアイゼの後を追っていった。

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