第一節 探す当て 5話目
日も暮れて辺りも少しずつ静けさに支配されつつある村を背にして、俺とラストは停留所へと向かう。
乗り場につく頃にはちょうどいい時間だったようで、既に他の客も含めて数人が馬車に乗っている姿を目にすることができた。
『よし、俺達もあれに乗るぞ』
「承知しました」
乗合の馬車というだけあって、大人数を運べるだけの大きなキャビンと、馬の方も普通の馬と比べても一回りも二回りも大きな馬が繋がれている。
「急いでくださーい! マドレア直通の馬車はまもなく出発になりまーす!」
『特に身分の確認もされなかったようだが……』
そもそも俺がソーサクラフ国内と扱われているカナイ村でさえ、それらしい関所も屯所も無かったことから、入国管理をしていないのだろうか。それとも管理しなくとも、下手な動きを見せた時点ですぐに潰すこともできるという自信の表れとでもいうのだろうか。
「こちらカナイ村停留所。今からマドレアへと出発する。全員で十五名だ」
「ん? 数え間違えてないか? 全部で十四人の筈だが……まあいいか」
いちいち下手につっこみを入れて顔を覚えられたりしても面倒だ。
そうして音響石でマドレア側と通信を取りながら、業者は出発時刻に忠実に馬車を走らせ始める。
暫くして俺は改めてステータスボードを開き、今回持たされた重要書類が手持ちにあるかを確認する。
「ベヨシュタットならいたるところに関所があったものだが……」
ともかくよそ者を歓迎しているにしろしていないにしろ、まずは導王に謁見できるかどうかが問題だ。
「この書状で本当に導王まで謁見が叶うだろうか」
第二王子――クラディウス=ベヨシュタットの名前が記された、この内部告発の密書で――
◆ ◆ ◆
――同時刻。ソーサクラフ王城内の玉座の間にて。導王と呼ばれる者が、王族直下の私兵を示す真っ白な制服に身を包んだ六人を呼びつけていた。
「……来たか、我が忠実なる剣達よ」
六人が六人とも片膝をつき、神戸を垂れて忠誠を誓うその姿を前にして、導王は重々しく響き渡る声を玉座の間にねぎらいの言葉として響かせた。
「急な呼びつけにも関わらず、こうして集結してくれたことに感謝の意を示したいところだが……一つ数が足りないようだな」
――そして同時に、一つの疑問も投げかけていた。
「それは大いなる主の意図を汲み取らせて頂いた我々が、先んじて指示通りの使者を送り込んだが故にございます」
リーダー格と思わしき金髪の青年が、導王の問いに答えを返す。それは既に主が命じるまでもなく、この国に忠誠を誓っているが為の行動であるからと青年は言葉を口にする。
「ほほう……? 如何様に汲み取ったつもりかな?」
「先日の大いなる主の占いにあった通り、“訪問者”と思わしき男が現れたからであります」
「なるほど。確かに私の占いでは、今日明日あたりでマドレアに姿を現すとのことだったか」
聞けば懐刀の内の一人が、既にその対応に向かっているのだという。それを聞いた導王は少しばかり声色に上機嫌さを交えながら、さらなる指示を六人に下す。
「では手筈通りに丁重にもてなせ。あくまで客人としてな。そして必ず私の元へと連れてくるように」
「ははっ! 仮に何かしらの問題があったとしても、必ず捕らえて御前に連れてまいります!」
手筈通りに進めば――占いの通りに進めば、訪問者は確かに導王の元に姿を現すであろう。ただ何事にも万が一、例外というものが存在する。しかしそうなった場合であろうとも、そうなる運命だったとしても、六人は忠誠を誓う主の為に、その運命を捻じ曲げることをこの場で誓う。
それを耳にした導王は一瞬曇った表情を見せるも、目の前の六人に注意も兼ねて、改めて命令を再度下す。
「……まあ、状況によっては負傷させても仕方ないとしよう。確実に私の前に連れてくるように……期待しているぞ」
「ハッ! 我ら命に代えても、遂行してみせます!」
――我ら“聖剣七人衆”に、失敗など存在しません!!
 




