第一節 探す当て 4話目
「――ほれ、一応できたぞ」
流石に老人もこれを成功とは言い張れないようで、錬成に必要な金額もまけてくれた上に、脇差という名目で小さな鞘もくれた。
だが俺にとってはただ単に折れてしまった刀を受け取っただけという事実だけが突きつけられており、正直ショックで暫く何も言えない。
「…………」
「まあ、なんじゃ……言い訳にしかならんが、失敗とは出なかった。本当じゃ」
「主様の刀を折っておいて、言い訳も何もあるまい。死をもって償いを――」
『やめろ、ラスト。元々錬成をやらないと言っていたのを無理に頼んだのは俺だ』
それに老人の言っていたことが本当だというのなら、この折れた刀から更に何か材料を追加して鍛え直せば真価を発揮するのかもしれない。あるいは、この状態で何か隠されたギミックがあってもおかしくはない。
そう思いながら実質脇差と化した折れた刀を新たに腰に挿げていると、俺はふと折れた切っ先の方を思い出す。
『そういえば折れた切っ先はどこにあるんだ?』
「ん? そういえばどこへ行ったのか……?」
もし素材を集めての再度の錬成ならば、切っ先もなければ意味がない。
「どこじゃ……?」
鍛冶場の周辺を探しても見当たらず、まるでその場から消えてしまったかのよう。
『……もしかして切っ先は必要ないからと消えたってか?」
「まさか。わしも始めたばかりのころはよく刃を折っていたし、切っ先も溶かせば再度利用できる筈じゃ」
ならば何故無くなっているのか……疑問が残る中、腰に挿げていた脇差が震える。
「ん……?」
まるで自身を主張するような震え。それは今ここで抜いてみろと言っているかのようにも感じることができる。
『……爺さん』
「あん?」
『ちょっと離れてくれるか? ラストも』
「一体どうされたのですか?」
『ちょっと試したいだけだ』
俺はそう言って二人に十分な距離を取らせると、脇差の柄に手を添える。
そうだ、その通りだ――そう言っているかのように、柄は手に吸い付いてくる。
「……抜刀法・壱式――」
――居合ッ!!
「っ!? なんだこれは!?」
「これは一体――」
折れたはずの刀身が、全て元通り――否、違う。折れた部分を補うように、何かしらの小さな梵字のようなものが集まり、刀身を成している。
――抜刀法の素振りで引き抜いた刀は、ある意味ではその完成した姿を確かに見せていた。
『魔法陣……いや、違うな。分かるかラスト?』
「残念ながら、私も分かり得ない代物です……」
「これがこの刀の完成形……という訳でもないか。切っ先がまだ少し欠けておる」
確かに言う通り、切っ先にはまるで他の何かと刃を交えた結果のように、ほんの一部だが欠けている。
「これでまだ完品ではないじゃと……?」
『あるいは、この武器にヒビを入れた武器が別にあることを示唆しているのか』
いずれにしても、この装備の詳細を知りたい。そう思った俺は早速ステータスボードを開き、装備詳細欄を呼び出す。
「……神刀“羽々斬”。レアリティレベルは――」
――141!? 手持ちの刀で頭一つどころか二つ三つ抜けている程に高レアの装備になるぞ!?
『流石爺さん! あんたに任せた甲斐があった!!』
「最初折れたときにわめいとったくせに」
『あぁー……あれはまあしょうがない』
だって折れて完成とか誰も初見じゃ信じないだろうし。しかしながら、まさか錬成した結果現時点での破格の武器を手にすることができたとは、クリティカル目的で振っていたステータスの運もこういった意味では無駄ではなかったか。
『とにかくこちらとしては礼を言いたい。言い値の礼金を出そう』
俺はそう言って手持ちから金を出す準備をしていたが――
「――通常の金額でよい」
『しかし、これだけの代物を打って貰っておいて、通常の支払いとは――』
「わしも貴重なものを見せてもらったんだ。錬成も悪いものではないとな」
極めて稀な例を見て、しかも普通の刀とは違う特殊なエフェクトの刀を前にして、老人は感動している様子。
「わしは時々思うことがあるんじゃ。人が武器を選ぶのではない。武器が人を選んでいるのではないかとな」
『もしかしてどこかの受け売りか?』
「がっはっは! バレてしまったか! まあ、今ならその言葉を素直に言えるということじゃ!」
ただ、確かに俺も今ならその言葉を信じられるかもしれない。俺の手元に来てくれたこの武器のことを。あの時震えて教えてくれたことを。
『……それにしても、なんだかちょっとずつだが持っているだけで違和感が……』
開きっぱなしのステータスボードを確認すると、なんとこの武器、抜刀している間は技を発動した際に消費するテクニカルポイント――通称TPを少しずつではあるが消費し続けている。
『どういうことだ? 魔法の刃を展開し続けるのにTPが必要ということか?』
「なんじゃ、いわゆる諸刃の剣ということか?」
レアリティレベルが高いだけあってそのほかと比べると基礎攻撃力含めてスペックが桁違いと言えるが、代償として実質的な制限時間がつけられているということか。
『だとしたら、普段使いは“千鳥”の方を使った方がいいのか』
「いわゆる奥の手ということですね、主様!」
『そうなるな』
装備している武器のレアリティも上がってきたし、後はタイラントコートの後釜を探したいところだが……同じようなフード付きの防具とかどこかで売ってないだろうか……ユニーク防具だし、売ってないだろうな。
ひとしきり武器の確認を終え、俺は改めて鍛冶屋の老人に礼を告げる。
『爺さんのお陰で良いものを手に入れられた。感謝する』
「はっはっは! また何かあればおぬしなら特別に錬成も受けてやろう!」
『ああ。俺も武器のことで何かあればここに来るとしよう』
新たなお得意先が出来たところで、丁度馬車の時間も迫ってきている。
『俺達はこのままマドレアに行く。爺さんも元気でな』
「おう! 今度はそのキーボードとやらではなく、ちゃんと己が口で喋れるようになっておけよー!」
それはまた、暫く先のことになりそうだ。




