表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

158/193

第一節 探す当て 3話目

 金槌で金属を叩く音が、屋内に響き渡る。その間の会話も一切なく、ひたすらに一つの音だけが部屋を満たしていく。

 刀身を再度熱して、特殊な修復魔法を付呪エンチャントした金槌で形を整え、水で急激に冷やす。現実世界の打ち直しとは多少手順が違うが、これがこの世界における武器の修復作業の基本だ。

 そしてこれがレリアンだったりすると部屋の中は熱くなって汗だくになるものだが、ここは極寒の地にあるカナイ村。丁度いい温かさが部屋の中を包み込んでいる。


「…………」

「……すぅ……すぅ……」


 そしてその温かさとぱちぱちと火が弾ける音、時折聞こえる金属を叩く音だけがうるさいくらいなので、ラストのように眠気を誘われる気持ちは分からなくもない。


『……眠いのなら、肩を貸してやるから少し仮眠を取れ』

「……っ、ふえぇっ!? だ、大丈夫です主様! 起きてま――」

「うるさいから寝ておれ小娘! わしは集中したいんだ」

「おのれ、言わせておけば――」

『爺さんの言う通りだ。眠いのなら寝ておけってことだ』

「……そうおっしゃるのであれば」


 この段階で眠くなっている時点で、既に相当気を張っているのだろう。まだ首都にも到着していないこの段階で、こうして座っているだけで眠くなってくるのだから、精神的疲労もあるのだろう。

 ……そもそもAIに精神的疲労とかあり得るのだろうか。それともそういったところも彼女が“特別”だからなのだろうか。

 そうして暫くしていると、再びすやすやと小さな寝息が聞こえ始める。


「……なあ」

「ん?」

「小僧に一つ聞きたいことがあるんじゃが」

『なんだ』


 世間話を持ち掛けながらも、老人の目線は炎の中にある刀を捉え続けている。


「その娘、いわゆる魔物とかいうやつじゃろう? 背中に生えている翼がそうじゃ」

『……だから何だ?』

「えらく仲がいいと思ってな」

『……古い付き合いだからな』


 それもこの世界では想像できないだろう、十年経っても覚えているくらい長い付き合いだ。


「わしは世間の風潮だったりとかさっぱりじゃが、小僧のような旅人にとってソーサクラフは良い国じゃと思うぞ」

『ほう』

「あそこは色々な者が住んでおる。逆に小僧のように魔物を連れていた奴から聞いたんじゃが、山の向こうのベヨシュタットとかいう国は散々らしいぞ」


 目の前の人間がベヨシュタット側だと知らずしてか、外から見た己が仕える国(ベヨシュタット)の評判を老人は語る。


「同じように暮らしていた魔物が、ある日を境に迫害される。何の理由もなくじゃ」

『それは随分と物騒な話だな』


 やはり、今の国内の異様さは諸外国にも伝わっているらしく、俺のように人間以外の他種族と繋がりがあるプレイヤーは、異を唱えると共に次々と国を捨てて出て行っているようだ。


「……わしは武器を作ったり眺めたりはするのは好きじゃが、争いごとは嫌いじゃ。いくらここがげぇむだといって夢の中のようなものであったとしても、人を殺すなどわしにはそんな度胸は無いわい」

『……そうだな』


 ゲーム内とはいえ、多くの人間を斬ってきた俺にとっては耳の痛い言葉だ。だがそうしないと爺さんの言うところの戦争(ゲーム)は終わらないし、終えられない。


「……かと言って、何もせずにただ黙って死ぬのもまっぴらごめんじゃがな。やられたのならやり返さんとな!」


 お、おう……争いが嫌いと言う割にはアグレッシブな爺さんだな。


「だからこそ、戦いが苦手なわしの代わりに戦ってくれるものの為に、わしは武器を作っている。それだけじゃ」

『なるほどな』


 確かにこのゲームのメインであるPVPをやる人間は当然多いが、このリアルな世界に没頭して、そういったものとは関係なく冒険する人もいるし、この老人のように現実ではやれなかった趣味に没頭する者もいる。そういった意味では自由度が高いし、それこそシステマの言うように一生遊べるゲームと言えるだろう。

 “もしもそうだったら”というIFの人生を歩めるのが、この世界ゲームなのかもしれない。


「……これで終わりの筈じゃ」


 最後の焼き入れを前に、老人が真っ赤に焼けた刀身を金槌で叩き、そして仕上げを行っていると――


 ――カァン! カァン! パキャァン!!


「げっ」

「げっ……? あぁああああ!?」


 老人が漏らした言葉を耳にした俺は、そこで衝撃の光景を目にする。


「おっ、折れてるじゃねぇか!?」

「なんでじゃ!? 耐久値はちゃんと確認していたんじゃぞ!?」

「気前よくカンカン鳴らしてると思ったら何最後にやらかしてんだよ爺さん!?」

「ふぁあ……っ!? 一体どうしたのですか主様!?」


 俺たち二人が騒いでいた声で起きたラストが、慌てて現場へと駆け寄る。


「これは一体……!」

「折れた」


 折れた、じゃねぇよ爺さん!


「これ、どうする気だ!?」

「どうするも何も、錬成失敗……じゃないじゃと?」


 どうやら老人の方には成功表示がされているようだが、どう考えても失敗にしか見えない。


「失敗じゃないって……折れてるこの現状はどうするっていうんだ!」

「まあ落ち着け」

「落ち着いていられるか!」

「折れてても脇差くらいにはできるじゃろ」

「脇差って……」


 家数件分の脇差って……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ